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AgileJapan2010 野中郁次郎先生の基調講演について

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アジャイルジャパン2010で、野中郁次郎先生の講演について、少しまとめて書いてみます。野中先生を呼びたいと思った動機は前回お伝えしたとおりです

この資料で、最初の2ページは、打ち合わせで「ここは僕からは言えないので紹介してほしい」といわれた部分で、平鍋から、先生の影響力、ということで紹介させてもらった部分です。でも、すごいですね。世界的に知られている。ちなみにドラッカーがリストには入っていませんが、現在生きている人、ということで入っていないようです。講演では、ドラッカーの奥さんが90代で週二回テニスをしている、ということをあげて、「やっぱり女性の方が強いんだ」、と笑っておっしゃっていました。

一番最近出版した本が、「Managing Flow」という本で、私も一冊頂きました。中には日本の経営のいろんな会社名が出てきます。この本も、英語でまず書いて、日本語をその後で出版する、というスタイルです。英語で書く、ということをしないと、世界には発信できない、ということ、新渡戸稲造の武士道(この本も英語で書かれている)を、思い出しました。

さて、今回の話の趣旨は、

1. 「知」というものが主観と客観(あるいは暗黙と形式)、個人と集団という2軸、4象限を回りながら創造されるという、SECIモデルを再度取り上げ、(P.10)

2. これを作り出す場("Ba")作りが決定的に重要で、それを作るリーダーシップのあり方を、フロネティックリーダーシップ(Phronetic Leadership)としてアリストテレスの言葉を借りて提示すること、

3. そして、それがこのアジャイルジャパン2010の「体験しよう!考えよう!行動しよう!」のスローガンそのものであること。

4. このリーダーシップには、現場が重要であること。actual には、act が入っており、「行動の中で考える」ことが本質。

ということでした。先生は詳しく話しませんでしたが、アリストテレスは、「知」を3分類しています。

  1. エピステーメー(episteme) = 科学や哲学になるもの。再現可能、普遍的で文脈依存せず、客観的なな形式知。
  2. テクネ(Techne) = 技術、スキル、工芸。文脈依存で実践的なノウハウ知。これは、人に属する暗黙知。
  3. フロネシス(Phronesis) = 実践からのの知恵、賢慮。文脈依存の決定を自身の価値観、倫理観から行うことができる、実践知(高次元の暗黙知)。

そして、この中で、最後の知をもったリーダーが、知識創造のBa作りに必要なんだ、というわけです。このことは、アジャイル開発を実践してきなリーダーがみんな感じていたことでしょう。アジャイルに限らず、「よいソフトウェア開発の手法」には「その場で考える」、ということが含まれており、それは本では伝わらないのです。再現性を求めて形式化できず、人生やプロジェクト、という一回性(oncenss)の強い場の中での経験が重要なんです。すこし、このあたりを話します。

ソフトウェア開発を管理と工学である、と捕らえてしまうと、その指の隙間からぼろぼろとこぼれてしまうものがまだまだ多くあり、それは「人」に関わる部分である、ということがアジャイルの発見です。だから、「学ぶ」ことをプロセスに含め、「やってみて考える」、ということを繰り返すこと。そして、うまくいったことを自分たちの知識としてプロセスの中に取り込んでいくこと。すなわち、すべての現場でうまくいく形式知化されたプロセス、というものを一旦あきらめてしまい、それぞれの現場でうまくいくプロセス、プラクティスを作っていける「価値と原則」を使って、参加者がそのインスタンスとしてプロジェクトをその場で作り上げていくのがアジャイルなんです。

だから、もともと、アジャイルを実践できる知識は、形式知の分量が少なく、それがアジャイルを進める際の1つの障壁にもなっています。これは、「自転車の乗り方を教える」というのと似ていて、「本」を読めばできる、ものではない。また、プロセスを規定して、このとおりにやればできる、というものでもない。うまくいった経験を持つ人が、後ろからちょっとリードしてあげて、実践の中で、その知を伝える、ことがよい方法です。ここで、アジャイルが、「コーチ」という人を媒介として欧米で広がっていった理由があります。海外にはコンサルタント、とうい人がたくさんいて、その人たちが現場を回って成功を助けている。そしてまた、そこで得た知識を、受粉のように他の現場に広げていく。そんな知識の流通場があるのです。

基本的にソフトウェア開発の現場は1つ1つ違う。顧客も違えば、人も違うし、作っているものも違う。oncenss の世界で文脈依存性が高く、「その場で考える」ということが必要なことなんです。だからこそ、エピステーメー(科学)とテクネー(スキル)の射程距離ではいかんともしがたい。その両方をいったり来たりできる力、そして、その知を練り上げるBaを作る力、すなわち、フロネシスが必要だ、ということなんです。ぼくは先生のこの「フロネティックリーダーシップ」こそ、今、日本からアジャイル界に発信すべきことだと思っています。

野中先生は、Contemplation in Action という言葉、で、「行動の中で考える」といっていました。本田宗一郎は現場に行ってきた、という部下に対して、「行ってきただけじゃだめなんだ。行って、レーサーの気持ちに棲み込んで(Indwelling)、体を傾け、音を聞いて、そして、考えなければならないんだ。」、と教えた。

Flooraswhilteboard P.39 を見てください。彼は、工場で自動車の横にすわって、地面に図面を描いてエンジニアとともに考えたと言います。その場で、ものを見ながら、触りながら、それを言葉に図面にしているのです。ぼくら、ソフトウェア開発の現場もこうじゃないですか?ぼくには、この図面がホワイトボードに描かれた、簡易UMLに見えるんです。ソフトウェアの動作を見ながら、ここはこうしよう、とか設計しているんです。「実際」という英語の actual には、act という文字が入っている。そこには、行動がある。そんな現場で練り上げる知の形。これがソフトウェア開発だと思うんです。

いかん、、、先生の講演の要約をしようと思っていたのに、またまた、主観的な文章になってしまいました。。。。でも、ぼくはこのことがソフトウェア開発の本質だと思ってるので、早く、このことを英語で書きたい、と思っています(以前書いたのはこれ)。

海外ではコンサルタントがその知の流通場を作っていると書きましたが、日本では、コミュニティがあります。アジャイルジャパン、という会が、そのコミュニティの1つとして、経験の交換、形式知化、ワークショップによる体験、勇気をもらう場、そして、明日への行動へとつながる場。そんな場として日本で機能できたらいいな、と思っています。

(※4/21 追記: 自分戦略研究所にもよいレポートを発見!http://jibun.atmarkit.co.jp/lcom01/special/agile2010b/01.html

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