devsumi2009 デブサミに参加しました
2/12, 13 と翔泳社主催の「デブサミ」こと、デベロパーズサミット2009に参加しました。
主に、開発プロセストラック(=角谷トラック=アジャイルトラック)を中心につまみ食いです。ここ数年、どのイベントに行っても、ぼくはセッションを基本的に「人」で選んでいます。なので、「この人のセッション」、といういい方で紹介したいと思います。順序にはあまり意味がありません。
ぼくのセッション(倉貫さん、千貫さん、橘さん、藤原さん、平鍋)
「使う」と「作る」がつながるシステム開発、という題名でパネルディスカッションをしました。作る側の人と使う側の人が現在のSIの中では遠く感じられませんか?この原因、今後のSIの構造を探るセッションです。藤原さんに、書画カメラをつかってセッションのメモをファシリテーショングラフィックスしてもらいました。
倉貫さんの1つの結論は「SIerはいらなくなる」というもの。でも、橘さんは「教育」「保険業」という意味合いを現在のSIerに見出し、千貫さんは「ユーザが開発者を雇うのが一番いい」としながらも、大きなものを「分割」することが本質的な問題ではないか、と考えました。
私は、「昔の魚屋は、買い物に来た奥さんに活きのいい魚とそのさばき方までセットで魚を売った」という例で、お客様に対して「価格以外の価値」をちゃんと提供できることが必要なんだ、と主張したつもりです。スーパーの魚(パッケージやSaaS)ではなく、あの人から買う魚、という売り方。ソフトウェアの受託開発は、そんなメタファーで信頼関係を捉えたいと思います。
萩本さんのセッション
萩本さんは、最近「匠Lab」を立ち上げました。匠Lab発のセッションだそうで、力が入っていましたね。トラックリーダー角谷の狙いでは、このセッションはこのトラックの「基調講演」。過去から綿々と連なる開発プロセスとオブジェクト指向技術が、「ビジネス」というもう一翼とどのようにつながり、全体として価値を作るか。
ぼくの私見では、「ビジネス」という言葉が技術の中ではっきりと語られるようになったのは、SOAとアジャイルのあたりからだと思う。90年前半の開発方法論には、その言葉には焦点が当たっていなかった。技術論文を読んでいても、「ビジネス」という言葉が目に付きだしたのは90年後半から。大粒度のオブジェクトでサービスという概念を表現したり、「ビジネスロジック」という言葉でビジネスの本質を表現するアルゴリズムを指したり、「ビジネス価値」、と言う言葉でソフトウェアが求めるべき価値を表現したり。そこで現在だからこそ、このセッションが「プロセス的に」意味があるのだと思う。
- How の「手探り」。掴みに行くと失敗する。Howを固定しないで選択肢として扱う。
- How からの突き上げ。あるイノベーションを使ってWhatの価値を上げることができる。
ビジネスの What とそれを達成する手段としてのITの How。この上下の中で上から下へ、下から上へへの運動を表現。
- プロセスの本質は、
分ける/繋げる/並行性を試みる
Agile と Waterfall を考えてみるとよい。まず分ける。そして、繋げる。人間は本質的に分けて順にこなす思考である、ということと、繰り返さないと前が見えてこないという2つの事実はしっかりある。(Steve McConnell の「ソフトウェア開発に最も大切な10個の考え方」に似ている)
そのほか、「時系列を伴う価値は予測できない」や「技、人、心を強くするプロセス」など、心に響く言葉がたくさんあった。さすが萩本さん。
角谷さんのセッション
このセッションは、「分かるひとには分かる」的なちょっと突き放した感じさえするが、実はとっても個人的な思いと長期的な視点が含まれているセッション。角谷さんがこれを話してくれたおかげで、もしかしたら、パターンやアレグザンダーを全然知らない人にも、今後のソフトウェアを考える上での大きな影響を与えたのではないだろうか。一言でいうと、全体性の回復に向けた運動としてのパタン、XP、そして私たち。。。。多くは語らないで置こう。世界の意味、は、答えの前にあり、パタンはその門なのだ。
全体が、"Beautiful Code"の前文にある竹内予言、にむけたプログラマの態度、という柱があって、話は飛んだが全然散漫な感じを受けなかった。
アレグザンダーのNature of Order の話が出てきたが、ぼくは個人的に、2002夏の沖縄、夜のビーチに車座になり、Cope(Jim Coplien)を囲んだソフトウェアの未来とパターン、対称性の破れの話をした、星空を思い出した。Nature of Order の4巻には、Cope と Bill Joy への謝辞が入っている。(角谷情報)
前田さんのセッション
リクルートのSWATと呼ばれる、アジャイル開発の実践。前田さんは、淡々と語っていたが、苦労してここにたどり着いたんだろうことは想像に難くない。契約を挟んだ多段構造の中で、顧客価値を最大化するアジャイルチームを作ってモチベートするのは並大抵のことではない。ルールや契約だけではなく、情熱や腹のくくり方が含まれるのだ。
特に検討会議のあり方について、大変参考になった。
- 会話でドキュメントを出来る限りの減らす。
- 会議を活用。80%コミットルールで、「持ち帰って検討します」を会議でいわない。
- 機能を削る時は「全部をリストアップしてから検討」でなく、分かるところから削る。
- 「責任はリクルートが取るから」でリスクを上で取る。
しびれた。よくここまで抽出したなー。短納期化への挑戦から自分たちで編み出したプラクティス集を、後ろをふりかえって原則をみると、アジャイルになってる例だ。
木下さんのセッション
私と一緒に監訳した、『アート・オブ・アジャイルデベロップメント』という本の題名がついているが、木下さん(および永和システムマネジメント)のオリジナルの経験が詰まっていて、なるほど、と思わせる。実はぼくはこのセッションは見れていないのだが、あとで見直すと、とてもよい出来のセッションだ。特に、110ページから始まるバスタブモデルをアジャイルに変えていく手法の部分。これとテストを絡めて説明している。「ふつうにアジャイルできるんだ、していいんだ」という感覚をみんなに与えられたら成功だと思う。(それと、誕生日おめでとう!)
懸田さんのLT
すごい!これはもう、すごい、としか言えない。これとソフトウェア開発との関係は?とか、いきいきって何?なんていう質問は、この強いメッセージを聞いた後ではむなしくなってしまうようなスライドだ。メッセージ、コンセプト、デザイン、そして、そのインプリまで含めて作りこまれた作品に懸田さんのすごさを再発見しました。個人的なデブサミのベストです。
* * *
さて、ぼく自身とデブサミについてちょっとふりかえってみます。過去のデブサミの資料をこの際アップしました。
- 2003年 Executable UML (UML, not Executable, but Understandable)
- 2005年 ソフトウェア開発の見える化
- 2006年 Developer 2.0
- 2008年 海外におけるアジャイルの現在
デブサミの初回2003年に、ぼくは Executable UML の文脈で二上さんと対談、と言う形でセッションをしています。(皮肉にも、Executable ではなく、Understandable であることが大切、という主張です。2005年には、現在の「プロジェクトファシリテーション」の萌芽の時期とちょうど重なっており、ソフトウェア開発の「見える化」という題名で発表しています。この発表はとても好評を頂き、確か、ベストスピーカーを頂きました。岩切さんが福井にまで来てくれて表彰していただいたことを覚えています。そのおかげで、翌年にはテーマセッションのような形で、「Developer 2.0」という小冊子を作って配ったり、ヨガのシュミッツ千栄子さんと競演させて頂いたりしました。2008年には、Agile200x との架け橋となり、海外の状況を伝えるとともに、日本のセッションを海外で発表する機会にも恵まれました。
こうしてみると、デブサミの成長とともにぼくもいろいろな人と出会い、ここにいるのだなぁ、と感謝の気持ちで一杯になります。そして、現在ぼくの知人たちがさらに活発にこの業界を支えてくれている。負けないぞー。いつも、いつでも、新しいチャレンジをして、みんなをあっと言わせるようなコンセプトを出して行きたいものだ。まだまだいく。