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グローバルな音楽活動視点でのスイバケ・ブロデュース記録<後編> ~「ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本」番外編~

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  先週土曜日4月23日に東京芸大のシンポジウム『グローバル化するJポップ』に参加しました。東京芸術大学音楽環境創造科の毛利先生、m-floTAKUさん、NHKJ-melo」の原田プロデューサー、早稻田大学の岩渕教授と私の5人でお話しをさせていただきました。刺激を受けるお話しがたくさん聞けました。

 「J-melo」と毛利研究室が行った、海外Jポップファンのアンケート結果も興味深いものでした。今後もこういう場には参加していきたいと思っています。

このシンポジウムについては、個人ブログにまとめましたので、こちらをご覧下さい。また、その中で私が話した内容の資料はスライドシェアにあげています。興味のある方はどうぞ。

 

さて、前編からの続きです。

 日本でのインディーズ盤は、タワーレコードやビレッジバンガードで注目を集めることができ、上々のスタートを切ることができた音楽ユニット「Sweet Vacation(通称:スイバケ)」ですが、できれば、日本だけでなく、並行して海外での活動も行いたいと私は思っていました。

 10代に人気のヘアコロン「Sexy Girl」とのコラボレーションが成立したのをきっかけに、台湾でのリリースを行います。台湾の若者向け化粧品店には、Mayの写真を使ったポップが飾られます。「日本発」のブランドとして押し出していました。よく考えると、中国系タイ人のMayが、台湾人からは日本人と思われたのですが、面白い現象でした。

 もちろん、タイでのリリースも行いました。ここで難しかったのは、ローカライズ(現地化)の考え方とやり方です。ポップスである以上、広くポピュラリティがあるのが大切ですから、タイ語バージョンや英語バージョンなどを作品の中に採り入れようと思いました。ところが、J-popであるという商品性とタイ語歌詞であることは、実は矛盾します。

 実際、タイのラジオ局にプロモーションで出演したところ、Mayがタイ語が上手で驚かれたことがありました。日本語で歌っているし、ファッションも日本ぽいので、日本人だと思われていたのです。一方、タイ語楽曲で勝負するには、タイのポップスとして消費されるイメージになりますので、サウンドやメロディがそぐわないと言われてしまい、悩ましいところでした。

 プロフェッショナルな職業アレンジャーではないDaichiのスキル(作編曲の能力)には限界がありますし、融通は利きません。結局は、「日本でヒット」というニュースと共にタイに持ち込むのが得策かなと思い、地道な活動を少しずつ続けながら、日本からの逆輸入(というか我々にとっては輸出ですが)を目指して、無理はしないという方針になっていきました。


 タイでもCDが売れなくなっているという事情もあります。貨幣価値の差も大きいですし、そもそもCDも安いですから、日本からの投資に見合うリターンは簡単には得られません。音楽配信も行いましたが、タイは携帯電話での配信料率が権利者側に非常に低いのに驚かされました。通信会社が5割を持っていくのが相場だと言われ、納得できない気持ちでしたが、どうにもできませんでした。

 日本では権利者側に6割以上が入るのに比べると、3/1以下の料率です。この時に限らず、海外で仕事をすると、やはり日本の音楽業界の仕組みは洗練されているなと感じることが多いです。


タイのホアヒンで行われた数万人規模の大きなフェスティバルに出演した際も、あまりにもおおざっぱな仕切り方に驚かされました。日本の自動車企業の冠スポンサーによるイベントなのですが、数万人が集まるのに、移動方法がきちんと確保されていません。会場周辺は数キロ手前から大渋滞です。

入場が無料なのは良いとして、オリジナルグッズを販売するとか、すぐに思いつきそうなビジネスも全く展開されていません。日本のフェスのビジネスモデルを輸出すれば、収益が何倍にでもなると思うのですが、、、。


 さて、Mayは未成年でしたから、オーディションで合格にさせた頃から、両親とも深く交流して、信頼関係を築くように心がけました。来日の際は母親も一緒に拙宅に泊めるなど、家族ぐるみの付き合いです。両親はもちろん日本語はできませんので、コミュニケーションは英語です。母親は流暢な英語を話します。

 私も人のことを言えるレベルでは無いのですが、父親はアメリカ留学経験があるという経歴が詐称では無いかと疑いたくなるほど、ブロークンな英語を話します。二人でウィスキーをあおりながら熱く語っていると、横にいるMayは吹き出すほどの、無茶苦茶な英語です。それでもお互いの言いたいことは伝わっているのがわかります。お互い母国語では無いので、伝え合うために話していますから、意思疎通ができた時の喜びや一体感は大きかったです。

 一旦、チュラロンコン大学というタイでNo.1の大学に入学したMayは、半年後に、早稻田大学の国際関係学部を受験、見事合格します。チュラ大を休学して、来日、東京に住むことになります。マンションを借りる際は、もちろん私が保証人になりました。VISA(査証)を取るために入国管理局にも何度も同行しました。

 タイに住んでいる間は、観光用のVISAで日本に呼んでいました。厳密には問題があるのでしょうが、メディア露出が少ない初期は、そのままにしていました。そろそろ芸能用のVISAにしないと思ったところで、日本の大学生になってくれたので、学生用VISAを取得させ、学業に支障の無い範囲で働いてもよいという「就学許可」を加える形にしました。これで、完全に問題が無くなった訳です。

 実際に経験してわかるのは、外国人が日本に住むと、携帯電話を持つにしても、銀行口座をつくるにしても、不便なことが多いことです。国際化が進む中で、無駄な障壁は無くして欲しいですね。

 日本での宣伝活動を続けながら、バンコクでのワンマンライブを準備し、欧米のいくつかのフェスティバルへの売り込みも好感触で、海外活動に関しても道筋はできてきていたのですが、活動休止をすることになり、すべて頓挫しました。

 

結局、Sweet Vacationの挑戦は、志半ばで休止することになってしまいました。応援していただいたファンの皆様、レコード会社のビクターエンタテインメント、イベント企画をご一緒したぴあ、日本就航50周年ツアーを中止してしまたタイ航空、等など多くのご迷惑をお掛けした関係者の皆様には、改めて深くお詫びを申し上げます。本当にごめんなさい。

業界関係者の方々からは「コアファンやメディアでのシンパもできて、ライブの魅力も上がってきて、まさにこれから、というところだったのに、もったいなかったね」と言っていただきますが、何ともお答えできませんでした。プロジェクトを立ち上げ、実行した責任者として全ての責は私が負うべきです。「敗軍の将、兵を語らず」と言うことで、原因の言及についてはご容赦いただきたけるとありがたいです。

Mayは、大学卒業まで日本に住み、テレビや雑誌での活動に軸を移しながら、芸能活動を続けていきますので、引き続き、応援をお願いします。歌を発表できるコンディションになれば、私も協力するつもりです。

 

精神的にも経済的にも、手痛いダメージを受けてしまいましたが、私はスイバケで行った経験を、今後のプロデュースワークの中でプラスにしていくつもりでいます。ご期待ください。

タイには多くの人脈もできました。日本のアニメタイアップで話題になったタイ人双子アイドル「ネコジャンプ」の日本エージェント業務をタイの会社から依頼されています。PalmyModern Dog等のタイの有名アーティストと交流もでき、様々な相談が持ち込まれるようになっているので、日本とタイをつなぐ仕事は、今後も手がけることになりそうです。海外との仕事でも、結局のところ、大切なのは信頼関係の広がりですね。(ソーシャルグラフが大切!)


昨年結成されたThe_AIUというバンドは、インドネシアの有名ロックシンガーと日本人ミュージシャンによる魅力的なロックグループです。徐々に反響が広がってきています。まもなく、みなさんにも知っていただけると思います。お楽しみにお待ちください。

 

最後に、昨年から音楽業界が取組んでいる新しいプロジェクト「Sync Music Japan」をご紹介したいと思います。

日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、音楽出版社協会の三者が協力して設立した、日本人アーティストを海外に紹介するためのウエブサイトであり、デジタル上のエージェントのような存在です。海外のイベント主催者やレーベル会社が日本のアーティストに興味を持ったときに、公式情報があり、外国語の問い合わせに対応する仕組みがあります。

将来的には、チケット販売や物販など、総合的に海外と日本のアーティストを結びつけるプラットフォーム的な役割を目指しています。私も立ち上げ前から音制連SYNC委員会の担当理事として関わっています。

 

本稿を読んでいただくと、ご理解いただけると思いますが、これまでは日本人アーティストがグローバルに活動するには、しばしば、誰かが「蛮勇を奮う」必要がありました。経済的にも大きな負担になります。Sweet Vacationは、私の「馬鹿力」が無ければ、そもそもグループの結成が無かった訳です。(結局、ただの「バカ」かもしれないというお恥ずかしい話なのですが、、、^^;

海外市場を視野に入れた活動が、日本人アーティストや音楽事務所にとって、普通のことになるように、「Sync Music Japan」があると私は考えています。

日本の政府は「クールジャパン」と、かけ声ばかりで、こういう動きに対して十分なサポートをいただくことができていません。皆さんに興味を持っていただいて、応援していただけるとありがたいです。韓国の輸出力が注目されていますが、ヨーロッパの小国なども、自国のアイデンティティである文化の輸出には国を挙げて取組んでいます。海外のコンベンションなどに行くと痛感しますが、日本ができていることは、国同士で比較すると、他国の数十分の一の規模に留まっています。

日本の「復興」のためにも、コンテンツの海外輸出は重要な要素の一つとなると私は信じています。

日本人アーティストのグローバルな活動に、拙稿が少しでもお役に立てたら嬉しいです。

 

グローバルな音楽活動のためにも、インターネット特にソーシャルメディアの活用は重要です。拙著『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)をお読みください。

こちらの予告編映像では、スイバケのステージを盛り上げてくれたVacation Sistersが出演しています。



山口哲一(音楽プロデューサー・株式会社バグコーポレーション代表取締役)


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