タレントマネジメントとコアHRを統合、M&A後の人事施策を強化するデンツプライ
デンツプライ Dentsply は世界最大の歯科用機器・材料メーカーである。売上は約29億ドル(約2900億円)、従業員13,000人。1899年創業で100年を超える老舗メーカーでもあり、アメリカを本拠に現在40ヵ国に拠点を持ち、120ヵ国以上で製品を販売している。
日本では、同業だった三金工業に資本参加し「デンツプライ三金」として事業を行っている。
デンツプライ三金のHP
最大手メーカーとして、インプラントや矯正歯科などの先端的な歯科技術の開発と普及にも力を入れている。また国内歯科学会において「デンツプライ賞」を提供し、優れた研究発表を奨励している。
デンツプライは2011年、コアHRを含む人事システムをクラウド型に全面移行した。その狙い、実態、効果について、同社のHRディレクター、ポーラ・ケイヤ氏の講演から紹介したい。
■Move to the Cloud with Core Human Resources Software(動画)
http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/4688
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デンツプライは世界最大の歯科用機器・材料メーカーです。X線撮影カメラと歯科治療用のイスを別にすれば、みなさんが歯医者で目にするありとあらゆるものを製造しています。
12万種に上る製品を120か国で販売しており、社員がいる国は52か国に渡ります。売上、社員数ともに65%はアメリカ国外という、グローバル・カンパニーでもあります。
100年以上の歴史を持ちますが、いっぽう過去5年間で20社以上の買収を行ったため、社員数はもとより文化、プロセス、システムなどが急激に膨れ上がりました。たとえば給与計算システムは、なんと57種類(!)もありました。こうした状況下で、人事業務の整合性を保ちつつ、優れた人材をいかにして維持するか、というのがHR面での大きなチャレンジでした。
そこで2010年、新たな人事システム(HRIS)を求め、5社にRFPを提示しました。ポイントは「コアHR」(人事給与など)と「タレントマネジメント」の統合システムであることでした。2つの別システムを持ち、自分たちで接続作業をするのは避けたいですから。
選考の結果、サクセスファクターズ社の製品群を選択しました。おもな理由は、
- まず強力かつ包括的なタレント・マネジメント製品群を持っていたこと。業績管理 Performance Management、報酬管理 Compensation Management、採用管理 Recruitingなどです。
- ユーザーフレンドリーで使いやすいインターフェースであること。
- すでにグローバルに使われているシステムであること。多言語に対応しており、アメリカ商務省のセーフハーバー認証があったこと。
- すでに多くの実績があったこと。
- そして、タレント・マネジメント製品群と統合されたコアHRシステム、Employee Centralを持っていたことです。
率直にいうと当時のEmployee Centralは、まだ初期の製品で、われわれの要求をすべて満たしていたわけではありません。しかしわれわれは、将来性を信じました。当社は保守的な会社ですから、この決定には今でも驚きますが(笑)。
2010年当時の当社の状況はというと、
- HRに関する情報はバラバラで、たとえば「現時点で何人の社員がいるか」を知ることはできませんでした(笑)。
- 業績管理には多くの時間と手間が費やされていましたが、一貫性に欠け、国・部門・マネージャーによる偏りがありました。
- 後継者管理(各ポジションに誰を昇進させるか、つまり人材のローテーション計画)については、みなさんもよくご存じの「パワーポイント」というシステムを使っていました(笑)。
- そして管理職や人事スタッフの手間は非常に大きかった。
これが2013年現在ではというと、
- グローバルでひとつのシステムに統合されつつあり、全社員の95%くらいまでがカバーされて来ています。
- 人事プロセスは全世界でひとつに統合され、ジョブ・コードとジョブ・グレードも統一になりました。
- 部門や国を超えた社員間のコネクションは強化されました。2011年には過去最大の買収を行い、社員数が一気に25%も増えたことがありましたが、この社員どうしのコネクションは大いに役に立ちました。またシステムのスケーラビリティも十分あることが証明されました。
- タレントマネジメントに費やす管理職や人事スタッフの事務作業は大幅に減り、その分をより生産的な仕事に振り向けることができています。
- コアHR、目標管理、業績管理、採用、報酬管理などの機能は強力に統合されています。
この人事系システムに、われわれはデンツプライ・コネクション Dentsply Connection という名称を付けています。なぜならこのシステムを持つ最大のメリットのひとつは、多種多様なバックグラウンドを持つ世界中の社員を結び付ける、というところにあるからです。
下記の図が2013年に至る道のりです。
2010年に導入を決定、2011年からコアHRの導入を始め、年末までに10か国で導入を終えました。すべて英語版です。その後、2012年末までに、さらに42か国に導入し、現在は52か国になっています。言語は、今のところほとんどの国が英語版ですが、ドイツ語版もあります。
それから2012年には、採用、業績、報酬の3つのモジュールも導入を開始しました。しかし教訓としては、3つ一度にやるのはやめたほうがいいです、大変ですから(笑)。なぜ時間がかかるかといえば、既存のレガシーシステムが多数あり、それらからデータとプロセスを載せ替えるためです。
下記が、コアHRシステム Employee Central の画面の例です。すべての情報がトップページに集まっており、”ワンストップ・ショッピング”になっています。
ユーザーからのフィードバックは好評です。とくに「社員検索」と「組織図」は、当社のすべての階層、すべての事業部門にいる同僚の顔と組織を知ることができ、人気があります。実は当社の組織は非常に複雑でして、独立P/Lを持った事業部門が50以上あるのです。したがって、とくに新入社員からは、誰がどの部門に所属し上司は誰なのか、がすぐにわかるのは非常に便利だ、と。
また、モバイルアプリも非常に好評です。とくに、全社員のほぼ1/3は営業職ですが、彼らのほとんどはホームオフィスから働いていますので、モバイルアプリ上でワークフローを承認したり組織図が見られるのは非常に好都合なのです。
下記がEmployee Centralの状況です。52か国で使用していますが、うち10か国では、社員や管理職が自分でアクセスしてデータを入力・更新できる”セルフサービス機能”も稼働しています。その他の国では人事部門スタッフが社員に代わってデータを入力・更新しています。
さらに、各国のカントリーマネージャーなど国をまたがる上層部も今年からはこのシステムを使い始めています。
ドイツは労働規制がいろいろうるさく、承認を取るのが大変でしたが、2012年秋にやっと稼働させることができました。
見た目はこんな感じです。リクルーティングも導入しましたので、今どんな空ポジションが募集されているのかを見ることができます。自分の今年の目標(ゴール)やその達成度合い、そして部下たちについても見ることができます。なかなかカッコいいでしょう?
リクルーティング(採用)モジュールは2013年2月に稼働しました。それ以前は、アメリカでは(IBMに買収された)キネクサを使っていたのですが、それ以外の国ではシステムは使っていませんでした。リクルーティングはグローバルで使っていますが、今のところ英語のみなので、非英語圏ではまだ限定的です。
リクルーティングはまだ稼働して3か月しかたっていませんが、すでに効果は出はじめています。採用に関するすべての情報が一か所に集まっているからです。さまざまな申請ワークフローとその承認がこの中で行われ、たとえば人員増の可否、新規採用社員の引っ越し費用を持ってよいか、などを一元的に見ることができます。
こちらも利用者には非常に好評です。採用候補者からも。以前のシステムはユーザーフレンドリーではなく、履歴書をアップロードするくらいのことでも簡単ではなかったので。
業績管理モジュールも、2012年の12月に稼働させたところです。したがって2012年度は、業績目標などを立てたときはシステム外でやったものを、あとから入力しました。またボーナスプールの配分にもこれを使っています。これまでは別システムで扱っていましたが、一か所で処理し、全体の見透しもよくなりました。
また報酬管理とも直結していますので、業績と報酬も一元的に、透明性をもってコアHRで管理されます。
HRの人間としていつも頭が痛いのは、マネージャーたちが部下の業績評価を期日通りに終わらせてくれないことなんですが、今年はなんと、すべての評価が期日までに終わりました。かつてない快挙です(笑)。これも使いやすいシステムの恩恵だと思います。
報酬管理については今のところプランニング部分だけで使っており、また多少のマニュアル処理も残っていますが、以前はこれを”Excelリレー”でやっていたのに比べれば大幅な改善です。本社から各国へ、マネージャーへ、とExcelファイルがリレーされ、数字を埋めたファイルが逆方向に集計され...と、こういうリレー、どの会社にもありますよね(苦笑)。これをリリースしたときは、とくに人事部門のスタッフからは非常に喜ばれました。
また思わぬ副産物としては、自部門の報酬管理を全部自分でやりたいという部門長が出てきたことがあります。このシステムを使えば全員のサラリーを簡単に一貫性を持って管理できますので、限られた昇給原資を誰に割り当てるかといったコントロールが可能になったのです。
次のステップとしては、まずは利用を開始した3モジュールをより幅広い国に展開していきたいと思っています。
また言語も、今のところは英語とドイツ語だけですが、それだと利用が伸びない国もあるので、あと5言語に対応したいと。
トレーニングは、もともとユーザーフレンドリーなUIなのでさほど必要ではないのですが、活用をさらに促進するには、ある程度のトレーニングもしたほうがよいかと思っています。
それからユーザー(社員)へのサポートの強化。現在はサポート機能は米国にしかなく、グローバルサポートができていないので。一方、Employee Centralなどシステムへのサポートについては、サクセスファクターズ社のプラチナサポートを利用しています。サポート担当者のスキルも高く、製品理解も進んできています。
次の大きなプロジェクトは、グローバルのペイロール(給与計算)の一元化およびEmployee Centralとの接続です。これまであえてペイロールにはいっさい手を付けず、Employee Centralからのデータをマニュアル処理していました。グローバルのペイロール業者を選定し、決定したら、Employee Centralとのインテグレーションによって処理を自動化していきます。
また、ラーニング(研修)管理と、交通費・経費精算についても検討しています。
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買収された企業の従業員には、多かれ少なかれ動揺があるものだ。社風も考え方も違うし、ふつうは小さな企業が大企業に併合されるわけで、急激に大きくなり複雑化した組織や社内プロセスに、ついて行けない感覚を持つことも多い。
しかし買収した側は、製品や顧客はもちろんだが、それを生み出す原動力となった社員こそが本当の”資産”なのであって、社員に辞められてしまっては元も子もない。
一方で人事部門としては、M&Aによって、そもそも日常的な人事業務も複雑化し手間がかかってくる。ましてや52か国で営業するグローバル企業ときては、その苦労も想像を絶するものがあるだろう。
そうした状況にあって、従業員ひとりひとりの目標・業績・報酬の管理、さらに社員どうしのつながりの強化と見える化のために人事システム投資に踏み切ったデンツプライ社の事例は、海外M&Aを加速している日本企業にとっても非常に参考になる事例といえるだろう。
ちなみにリーマンショック後に一時23ドル台まで下がった同社の株価はその後順調に回復し、2014年初には上場来最高値の48ドル台を付けている。
※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、デンツプライ社のレビューを受けたものではありません。
【参考リンク】
■Move to the Cloud with Core Human Resources Software(20分24秒、英語)
http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/4688同プレゼンの資料はこちら。
http://www.sapevents.edgesuite.net/SapphireNow/sapphirenow_orlando2013/pdfs/32407.pdf■DENTSPLY Connections – A focus on talent and increased global collaboration through an integrated HR/Talent platform(41分28秒、英語)
http://www.successfactors.com/en_us/download.html?a=/content/dam/successfactors/en_us/videos/webcasts/sc-2013-4203-thurs-445-dentsply.mp4
内容はほぼ同じだが、上記講演よりも時間が長い分、情報量が少し多い。
(※視聴にあたり、氏名やメールアドレスなどの入力が必要)