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日本企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を正しく進めるために必要なキーワードについて考えます。

クラウドとオンプレミスの「二層ハイブリッドHR」をグローバル30万人に展開するペプシコ

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人事管理(HCM)人材管理(タレントマネジメント)は、どの企業にとってもごく重要な機能だが、昨今、グローバル化しつつある企業の人事部門にとっては、非常にタフな要求となりつつある。

それぞれのお国柄労働慣行や法律、年金制度)があり、非常にローカルである(しかもルールなどは毎年少しずつ変わる)と同時に、グローバル企業にとってはそれらをいかに一本化して、国を跨がったグローバルでの人材活用を推進できるか、が重要な経営テーマともなっている。

日本の大手企業にとっても、もはや避けて通れない話題だ。海外企業をM&Aしたり、新卒で外国人を採用したり、といった話はもはや珍しくもなくなった。これまで、海外人材のマネジメントに長けているとは言えない日本企業も多かったが、もはやそうも言っていられない。

グローバル人事管理に関しては、短いながら要点を押さえた記事がいくつかあるので、ご一読いただきたい。

■日本型人事制度の現状とグローバルタレントマネージメント推進のポイント
http://www.sapjp.com/blog/archives/2693

■「人材の見える化」を実現する人材データベースの考え方
http://www.sapjp.com/blog/archives/3182

■複雑化する採用環境で活用が進む採用マーケティングとは
http://www.sapjp.com/blog/archives/3525

■人材育成の為の目標管理とは
http://www.sapjp.com/blog/archives/4132

■イベント「戦略的グローバル人財・組織の考察」から見られるグローバル人事戦略のトレンド
http://www.sapjp.com/blog/archives/2728

その解決策として、最初からグローバル向けに作られたHRシステムを採用し、国内外の人事システムをそちらに載せることで、グローバル一本化をはかる(あるいは少なくともその一歩を踏み出す)日本企業も増えてきている。

たとえば、日本電気(NEC)もそのひとつだ。NEC様の事例についてはこちら。

■お客様インタビュー動画(日本語、2分32秒)
http://www.successfactors.jp/resources/resource-item/nec-success-story-video/
Nec_video

■NEC様ケーススタディ:PDFダウンロード(日本語2ページ、233kb)
http://www.successfactors.jp/resources/resource-item/nec-success-story/SF_SS_NEC_JP_Q411.pdf
Nec_success_story

 

そうした中、世界最大級の飲料・食品会社であるペプシコは、SAP ERPの一機能であるSAP HCM(Human Capital Management、人事管理)ソリューションをオンプレミスでサクセスファクターズの Employee Central ソリューションをクラウドでそれぞれ導入しており、これらをハイブリッドに組み合わせて展開しつつある。

サクセスファクターズの年次イベント、Success Connect 2013(2013年10月)およびSAPの年次イベントSapphire 2013(2013年5月)における、同社のシャクティ・ジョハール氏(バイスプレジデント、グローバルHRオペレーション&シェアードサービス担当)の講演を中心にご紹介する。

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09http://www.successfactors.com/en_us/download.html?a=/content/dam/successfactors/en_us/videos/events-news/sc-las-vegas-2013-pepsi.mp4

最初に少し背景の説明をしましょう。ペプシコは世界最大級の飲料および食品会社です。200か国以上650億ドル(約6.5兆円)の売上があり、当社製品は1日あたり10億回売れています。当社のブランド(製品群)には、売上10億ドル(1000億円)以上のものが22あり、また250億円~1000億円のものも40以上あります。

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87か国に社員は27万5千人。北米に11万人、中南米に7万人、ヨーロッパに5万人など。

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ペプシコのHRは、以前からイノベーティブとの評判を得てきました。しかし、それで十分ということはありません。

現在のこのHR改革は2009年に始まりました。社内からの注目を集め勢いをつけるためには、システムをすばやく展開する必要がありましたので、われわれはサクセスファクターズの業績管理 Performance Management ツールを導入し、ワールドワイドで65,000人が利用を始めました。多言語環境です。稼働してすでに3年が経っていますが、非常に使いやすく好評です。これまでずっと紙ベースでやってきたのに、いきなりランボルギーニに乗り換えた、みたいな話です(笑)。

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次に、SAP HCM ソリューション(Human Capital Management、人事および給与管理)をオンプレミスで導入を開始し、2011年に約60,000人を対象に稼働させました。その後、範囲を拡大し、2013年末までには北米の全社員約110,000人がオンプレミスのSAP HCMで管理されます。

しかしわれわれはグローバル企業ですから、北米以外についても、どのように管理していくか決めなくてはなりませんでした。SAPのオンプレミス・ソリューションを海外拠点にも置くか?それともまったく別のソリューションを検討するか?

結果、われわれはサクセスファクターズの Employee Central を導入することに決めました。(SAPとサクセスファクターズの合併の結果、)Employee CentralとSAP HCMがシームレスに統合されたからです。

人事管理システムは複雑なソリューションですし、いろいろな周辺システムとも接続されていますから、既存のSAP HCMへの投資を守る必要もありました。幸いわれわれは、SAP HCMを完全に標準のまま導入していましたので、Employee Centralとの統合も容易なのです。

Employee Central導入はこの3月から始めました。各国へ順番に導入していき、2~3年後、最後に北米にも導入する予定です。

並行して、サクセスファクターズの研修管理システム Learning Management System も導入しています。これは7か月前から始めていますがあと一息のところまで来ていて、3週間後に本番稼働する予定です。全世界で200,000人以上が利用します。従来使っていた他の研修管理システムから過去履歴データを100万件以上移行したのですが、そのわりにはごく短期間で稼働させることができました。

またSAPの人材分析 Workforce Analytics ソリューションも稼働させます。SAPとサクセスファクターズに一元化することによって、蓄積された過去データを有効活用することが可能になります。

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なぜSAPとサクセスファクターズを選んだか?この質問に答えるためにちょっと考えてみたのですが、以下の6点だという結論に達しました。

1. SAPと過去付き合ってきての印象がよかったこと。さきほどSAPの人材分析ソリューションの話をしましたが、このツールは非常に良かった。

2. SAPおよびサクセスファクターズが、ベンダーというよりはパートナーとして共に歩むという姿勢の企業であること。また機能を新しく開発する際には共同開発 Co-Innovation というアプローチをとることも多く、その場合当社のニーズが標準製品として取り込まれるという利点があります。両社はわれわれの重要なパートナーです、

3. プロダクトそのもの--人事・給与からセルフサービス・ポータル、研修管理、人材分析、モバイル対応まで含めて、エンド-to-エンドで完全に統合されている製品スイートであること。そしてユーザー・エキスペリエンスつまりユーザーから見て楽しく使いやすい製品であること。

4. 両社のビジョン。将来のイノベーション、モバイルファースト、長期的なサステナビリティ、技術のライフサイクル。そうしたものはすべて重要です。

5. もちろんコスト。率直に言って、SAPのオンプレミスHCMソリューションをきちっと導入するのは決して簡単ではありません。とくに、多数の国にそれぞれ少数のスタッフがいる、という状況だとコストがかさみます。その点、クラウド製品であるサクセスファクターズならその心配は要りません

6. そして最後が、グローバル。世界中のどこからでもアクセスでき、プロセスは世界で統一され、社員の誰もが同じプラットフォームを利用できること。これが魅力でした。

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つづいてSapphire 2013でのジョハール氏の講演だが、その前座として、SuccessFactorsの社長でSAPのクラウド事業を統括するショーン・プライスが「最近のHRシステムのトレンド」についても語っている。自社製品のPRが大半で恐縮だが、ペプシコの事例を正しく理解していただくための背景知識としては有用なので、下記にご紹介する。

01http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/4859

今日、3つの大きなトレンドがあります。

まず、労働人口の老齢化。アメリカでは今後18年間に渡り、毎日10,000人以上の労働者が定年退職していきます。一方、それと同数の若手社員が入ってくることはもうないでしょう。したがって、労働生産性を上げることによって人数減を補うと同時に、ベテラン社員が持っている豊富なナレッジを(退職前に)いかにして組織内に取り込み、保存していくか?が大きな課題となっており、多くの企業がこの観点から「タレント・マネジメント」に取り組み始めています。

次が働き方の変化。今この会場でもスマホやiPadを持った方を大勢お見受けしますが、今後、ソーシャル、モバイル、画面スワイプで操作するインターフェース、、、といった要素抜きではエンタープライズアプリケーションを考えることはできません。なぜなら、これから企業に入ってくる若手は、そうしたシステムしか使ったことがない人たちだからです。

また、HRシステムに関する意思決定者、言い換えればお金を出す人、も変わってきています。もはやCIOだけではなく、CFO(財務責任者)であり、CHRO(人事責任者)であり、各事業部門のトップも絡んできて、この4人の関係者を満足させる仕組みでなくてはならないのです。

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われわれサクセスファクターズのビジョンは、「採用から退職まで Recruit-to-Retire」、つまり人事に関するすべてのニーズに応えるソリューションを、一つの統合されたシステムとして、エンド-to-エンドでご提供することです。

ただし、お客様は、どこか一つから始めることができます。これはお客様の選択肢です。「採用」から始めてもよいし、「研修管理」「人材計画」「人材分析」「タレントマネジメント」など、どこから始めても構いません。

従来お客様企業はこうした部分ごとにそれぞれ別々のソリューションをお使いでしたが、UI、プロセス、データ、ベンダーからのサポートなどがバラバラだと効果が限定的だということに気づいて、サクセスファクターズに切り替えらえるケースが多くなっています。

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たとえば、モバイル対応。東京のある小売業のお客様は、社員として応募してくる候補者の多くは、実は自社の店舗に買い物に来ているコンシューマだということに気づき、社員採用ページをWebサイト上に作るだけでなく、スマホ対応することにしました。

店舗に「社員応募」のQRコードを貼っておき、カメラで撮るとすぐ応募ページにリンクされ、履歴や必要事項を選択してもらって... するとそのデータはリアルタイムで人事の採用マネージャーおよびその店舗の店長に通知されるので、店長はその場でその候補者と会話を始めることができます。つまり採用のプロセス処理にかかる時間がゼロになったのです。スマホは単にプロセスを加速しただけではありません。情報の伝達を早くし、遅延をゼロにしたのです。

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サクセスファクターズのクラウドソリューションは、コンシューマ製品のような使いやすさを持ったエンタープライズ製品です。6,000社のお客様が、184か国で、社員2,500万人を対象に利用しています。この規模の大きさがお分かりでしょうか。

弊社のクラウド上で、年間およそ3,500万回の人事評価が行われ、250万人が昇進または異動し、また年間5,000万回の採用面接が行われ、毎日13,500人が新規採用されています。

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最近の人事系ソリューションに関するアナリスト評価レポート10本を調べたところ、10本すべてがSAP/サクセスファクターズを「リーダー」と評価しています。

そしてクラウドソリューションの優れたところは、この2,500万人のユーザーの方々は、「この部分を改良してくれたらもっと使いやすくなる」というフィードバックを毎日寄せてくれ、絶え間ない製品改良を助けてくれる、ということです。オンプレミスと違ってクラウドでは、改良は即座に反映されるので、製品改善サイクルが圧倒的に速くなります。

また2,500万人ものユーザーがいることの副産物として、サクセスファクターズ利用企業は、アプリケーションと同時に「ベストプラクティス」も得ることができます。2,000種類以上のKPIが常時計測されているので、それらを自社と同じような業界あるいは規模の企業の平均と比較し、ベンチマークすることができるのです。

さらに、強力なユーザー・コミュニティがあります。各社の人事担当者が活発に情報を交換しており、このコミュニティの集合知は驚くほどのものです。

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Employee Centralは当社のコアHRシステムです。もちろんクラウドです。SAPによるサクセスファクターズ買収の直接的なメリットとして、SAPのオンプレミスのHCMシステムを開発していた千人ものエンジニアを、クラウド側に振り向けることができ、Employee Centralを強化することで、買収から1年のうちにわれわれはコアHRでも業界のリーダーになりました。

さらに他のパートナー企業が提供している関連する機能、勤怠管理・福利厚生・給与計算などとの連携も実現しています。

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ただしこれは強調しておきたいのですが、われわれSAPは、オンプレミスのHCMソリューションを捨てるわけではありませんオンプレミスとクラウドの両方を持ち、それをハイブリッドでも使えること、がわれわれの強みなのです。たとえばコアHR機能については、クラウドのEmployee Centralか、オンプレミスのSAP HCMか、どちらも使うことができます。

このあと登壇されるペプシコのように、本国ではオンプレミスのSAP HCMを維持しつつ、海外や子会社ではEmployee Central、というハイブリッドのお客様もいらっしゃいます。また最初からすべてクラウド、というお客様もいらっしゃいますし、コアHRについてはオンプレミスのまま、タレント・マネジメントの部分だけクラウドを利用する、というお客様もいらっしゃいます。選択肢はお客様にあるのです。

それでは、ペプシコのシャクティ・ジョハール氏をご紹介します。

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Unlocking the Vision。これの意味するところは、HR改革はエンド-to-エンドで、最初から最後までやらなくてはならない、ということです。左の人員計画(Workforce Planning)に始まって、採用(Talent Acquisition)、新入社員トレーニング(On-Board)、人材管理・人材開発(Talent Management & Development)、退職(Retire)まで。

ペプシコは大きな組織です。275,000人ほどの正社員と50,000人の契約社員がいます。彼らをすべてひとつの方向に向かわせ、生産性を上げるためには、こうした基盤が必要になるのです。

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なぜサクセスファクターズのEmployee Centralを採用したか?ごく簡単に触れましょう。われわれは北米で、SAP HCMソリューションを採用していました。スペイン、ロシア、メキシコでも同様です。それ以外にも、全世界で75(!)もの人事システムがあり、また何十という給与計算システムもあります。これらをすべて、ひとつのシステムに一本化するのが、当面のチャレンジです。

現在までに67,000人の社員がEmployee Centralを使えるようになりました。一部の機能はすでにモバイル対応もされていますし、残りも今後対応予定ですので、「いつでもどこでも」人事ポータルにアクセスできるようになりつつあります。

さきほどショーンが、Employee Centralの開発には1年かかった、と言っていましたが、1年かければかなりのものが開発できます。しかしだからといって、ペプシコが必要とするすべての機能が揃っているというわけではありません。ギャップがあるのは当然です。したがって、だからこそ、SAPとの共同開発 Co-Innovation が重要になるのです。

ITの進歩についていく、というのも重要なポイントです。この今年のSapphireカンファレンスで紹介されているテクノロジーは昨年とはすっかり様変わりしていますし、一昨年とはさらに違います。ひとたびオンプレミスのERPをインストールしてしまったら、テクノロジーの進化に合わせてそれをバージョンアップしていくのがどれだけ大変か?みなさんよくご存じですよね。ITはペプシコの本業ではありませんITの進化をフォローするのはSAPに任せ、われわれはそれを利用する、というのが基本スタンスです。

向こう1.5年で、あと87か国にEmployee Centralを展開する予定です。このスピード感も重要です。従来型のオンプレミスのHRシステムでは、このスピードは難しかったでしょう。2015年までに、300,000人の社員全員がEmployee Centralを利用しているようになるでしょう。

またEmployee Centralと並行して、われわれはサクセスファクターズの研修管理システム(Learning Management System)人材分析(Workforce Analysis)も導入していますが、それぞれ6~8か月という、非常に短い期間で完了できる見込みです。

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講演の中でも触れられていることばかりだが、グローバルな人事システムは、クラウド化されたアプリケーションを利用するメリットがとくに出しやすい分野である。

  • 各国の法や制度への対応は大変だが、SAP/サクセスファクターズがやればそれ一度で済み、アプリケーションを使っているすべてのユーザー企業が恩恵を受けることができる。
     
  • 人事管理や業績管理、タレントマネジメントといった人事施策にもトレンドと進化があり、日本に居ては分からないことも、グローバル対応ツールであればいち早くそれに対応していくため、結果的にグローバルで最新の人事施策にキャッチアップできる。
     
  • テクノロジーの進化への対応についても同様で、SAP/サクセスファクターズは常に最先端技術への対応を行っていくので、ユーザー企業はそれを利用するだけでよい。
     
  • 加えて、多数の企業が同じツールを使っていることで、他社比較(ベンチマーキング)が容易にできる。
     
  • そしてクラウドであるため、アプリケーションへの改善は即時反映される。「バージョンアップ」のために費用と工数をかけたりシステムを止めたりする必要がない。

こうしたさまざまなメリットがあるからこそ、SAPはサクセスファクターズの買収・統合を決めたのだろうが、ハイブリッド化してお客様の既存資産を保護しつつ、将来的には全体をクラウド側へシフトしていくと思われる。ペプシコの動きはそれをいち早く察知し、先取りしていると言える。さすが、イノベーティブな人事管理で定評のある企業である。

 

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ペプシコ社のレビューを受けたものではありません。

【参考リンク】

下記はいずれもSAP鎌田が書いている記事だが、一読の価値あり。

■キッコーマンのグローバル人材育成にみる老舗メーカーのDNA(前編)
http://www.sapjp.com/blog/archives/3024

■キッコーマンのグローバル人材育成にみる老舗メーカーのDNA(後編)
http://www.sapjp.com/blog/archives/3058

■国籍や性別等で区別しない、公正な実力主義を重視するJTグループの人財マネージメント
http://www.sapjp.com/blog/archives/3313

■急速なグローバル化の進展で求められる日本型人事制度からの脱却
http://www.sapjp.com/blog/archives/3613

■グローバルから優れた人材を発掘・育成・配置し、グローバルで戦う
http://www.sapjp.com/blog/archives/4942

■SuccessFactorsで実現するグローバル人材管理と、導入を成功させるためのポイントとは?
http://www.sapjp.com/blog/archives/4953

■日本型雇用とグローバル人材育成の融合で求められる人事部門の役割とは?
http://www.sapjp.com/blog/archives/5006

 

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