アリバ・ネットワークによる間接財の調達改革で、3年で190億円のコストダウンを実現したオーストラリア・コモンウェルス銀行
直接財の購買に比べると、間接財の購買は軽視されがちだ。「間接財って、文房具とかでしょ?いくら安く買ったところで、知れてるよね」と。しかしそれは本当だろうか?
オーストラリア最大の銀行であるオーストラリア・コモンウェルス銀行(以下CBA)は、アリバを使った調達改革を実施し、5年間で235億円のコストダウンを目指しているが、3年目が終わった時点ですでに190億円のコストダウンを達成。「5年で235億円」は大幅超過達成が確実だ。
1年あたり63億円のコストダウンは「知れている」金額か?もちろんそんなことはない。では、具体的には何がどのように実施されているのか?
以下、Ariba Live 2013におけるスザンヌ・ヤング氏(Susan Young、戦略・事業本部長)の講演からご紹介する。まず概要としては、下記をご覧いただきたい。
YouTube: Ariba Networkで大胆なコスト削減も実現したサプライチェーン革命-オーストラリア・コモンウェルス銀行 (日本語字幕つき、5分57秒)
そして具体的な内容については、下記の動画から、概要をご説明する。
Ariba LIVE D.C. 2013 Keynote: Suzanne Young, Commonwealth Bank of Australia
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■世界中のどこでも、優れたサプライヤをすぐに見つけるには
コモンウェルス・バンク・オブ・オーストラリア(以下CBA)は、時価総額においてオーストラリア最大の銀行です。S&Pの格付けAA-も最上位。時価総額では世界の銀行のトップ10にも入っています。
時価総額はオーストラリアの全上場企業の中でも、BHPビリトンにつぐ第二位。100年以上の歴史があります。また2008年のリーマンショックも大きな影響を受けずに乗り越えました。
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現在はこのように、世界中のお客様とビジネスを行っていますが、このAriba Liveの「ネットワーク化された経済」 Networked Economy というコンセプトは、オーストラリアという国境を越えてグローバルに活動する際に非常に重要になってきます。
なぜなら、新しい地域に進出すれば、まったく土地勘のない場所で優れたサプライヤを見つけなくてはなりませんが、そもそもどこで探せばよいのか?状況は国ごとにそれぞれ違います。しかし少なくとも、アリバ・ネットワークは世界中を網羅しており、足で歩き回って探さなくても済みますから。
■3年で190億円を削減
3年前、我々は「プロジェクト・アロー」に着手しました。これは調達部門の改革によって5年間で2億5千万オーストラリア(AU)ドル(約235億円)を節約する、というものです。しかし3年目が終わったところで、すでに2億AUドル強(約190億円)の節約を達成しており、目標は超過達成しそうです。
調達改革の4本柱は、「ガバナンスを効かせ、戦略的に取り組む」「ソーシングとカテゴリ管理」「調達から支払まで(P2P)をカバーするITの導入」「サプライヤ・リレーション管理(SRM)の強化」です。プロジェクトの一環として、オンプレミスのアリバからアリバ・オンデマンドへのアップグレードも行いました。
プロジェクトに着手した2010年の時点では、状況はひどいものでした。調達ガイドラインは統一が取れておらず、購買状況の把握もままならない。サプライヤの数は2万を超え、その大半は少額のものを少量だけ購入する、”ロングテール”のサプライヤでした。また調達データベースに管理されていた契約はわずか10%にすぎず、残りは誰からどのように買っているのか?も分からない状態でした。
そして調達部門は、社内クライアントにあたるビジネス部門からは嫌われていました。細かいところに口を挟む警察官、できれば近づきたくない人たち、だったのです。
プロジェクト・アローはそうした状況を大幅に改善しつつあります。購買は集中管理され、私たち調達部門はビジネス部門とコラボレーションしながら改善を進めています。アリバ・オンデマンドはシンプルで使いやすい調達ポータルです。アリバの全モジュールを使っていますが、とくにセルフサービス・ツールキットはエンドユーザーにも分かりやすく使いやすいと好評です。グラフィカルなポータルがあり、各部署にも調達改革の現状がビジュアルに見える化されています。
取引の大半はアリバ・ネットワーク上の300社に絞り込まれ、総サプライヤ数は70%強も減りました。そして調達額で上位9割を占める主要サプライヤについては、100%アリバで管理されています。
毎月、財務部門と「このプロジェクトによって節約された金額がいくらか」を確認しており、それは調達部門への信頼につながっています。この成果は経営陣にも報告されており、経営陣も認識しています。
以前は経営陣から4レベル下の現場マネージャーと話をしていましたが、いまでは各ビジネス部門のトップが、経費節減のためにわれわれ調達部門とともに積極的に取り組んでいます。社内でも最大のあるビジネス部門は、向こう18か月かけてさらなる経費削減に取り組み始めました。
しかし、まだやることはあります。たとえば予算計画。つまり調達改革によって得られたメリットを、次年度の予算計画に反映させるのです。
またバイイングパワーを、オーストラリア国外を含めてグローバルに発揮すること。つまり物理的には小さいオペレーションしか持たない地域でも、有力なサプライヤとコラボレーションしていくことです。コラボレーションとネットワークこそが調達改革のカギを握ります。いかにサプライヤとコラボしていくか?そしてそれを支える最先端のITとは?
■なぜアリバなのか?
実は、私の前職であるユニシス・オーストラリアとカンタス航空は、ほぼオラクル一色な会社でした。ですから私も、最初からアリバが好きだったわけではないのです(笑)。
しかしアリバの担当営業と話をしたら、彼女はすぐにわれわれの本気度とビジョンを共有してくれました。その後ほぼ12か月かけてアリバのメンバーと一緒にプランを練り、採算計画を作って経営陣に見せました。
それともうひとつ。実は2つのシステムを並べて、テストしてみたのです。候補になったもう一つの調達ソリューションは、なんだか製造業向けみたいなインターフェースで(笑)、使いにくかった。一方、アリバのインターフェースは直観的で、分かりやすいものでした。社内の一般ユーザーに支持してほしいのであれば、使いやすさは必須です。それでアリバに決定しました。
プロジェクトをうまく進めるポイントは、とにかくコラボレーションです。ビジネス部門とも、サプライヤとも、頻繁に会って協力しながら進めていました。戦略的なビジョンに基づいてガバナンスを発揮し、ステアリング・コミッティは私が主導しましたが、各部門のCFOも参加しました。調達改革による利益は各部門に渡るわけですから。本稼働はフェーズ分けして、徐々にライブしていきました。
ひとつ注意したのは、急ぎすぎないこと。ペースを保ち、メンバーのワークロードを適切に保ち、燃え尽きを避けることです。
またオーストラリアでは、先住民の雇用や先住民が経営するビジネスから購買することが重視されています。CBAももちろん率先して取り組んでいますが、すでに3700万AUドル相当が契約されており、実際には5600万AUドルが購入されました。また過去の3年間のうちに、先住民の雇用は57%増えていることを誇りに思っています。
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金融機関の場合、直接財というものは事実上ないので、調達(購買)部門がそもそも存在しないことが多い。(少なくとも日本の3メガバンクの組織図には購買部はない。)
ということは、調達を通じたコストダウンはこれまでほとんど意識されておらず、したがってCBAのような取り組みを開始すれば、容易にROIを叩きだせるのではないだろうか。
オーストラリア・コモンウェルス銀行は、総資産 70兆円、時価総額11.6兆円、純利益 7,150億円、従業員44,000人。押しも押されぬ大企業である。(ちなみに三菱東京UFJ銀行は総資産 163兆円、時価総額9.3兆円、純利益 6,392億円、従業員36,499人。)この規模の企業であれば、「間接財の調達改革で年63億円の削減」は、もしかすると「たいしたことはない」のかもしれない。
しかし一方で、年間数億円の社内コスト(IT支出と調達部門の人件費)だけで年間63億円のリターンをたたき出せるのであれば、やはりこれはやる価値のある取り組みなのではないだろうか?
※本稿は公開情報に基づいて筆者が構成したものであり、オーストラリア・コモンウェルス銀行のレビューを受けたものではありません。