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日本企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を正しく進めるために必要なキーワードについて考えます。

「マルチチャネル」化を着々と進めるスイスの巨大小売業、コープ

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ヨーロッパの”小さな大国”スイス。

Coop01s_2 アルプスをバックに走る、Coopの配送トラック

面積は4.1万平方キロで日本の約1/10(九州より少し広い程度)、人口は約750万人で日本の約1/16、とサイズは小ぶりだが、その質は際立って高い。

■2012年度の世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング
http://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html
によれば、スイスの一人当たりGDPは米ドル換算で79,033ドルで、世界第4位。一方日本は46,735ドルで、スイスの59%しかなく、世界13位だ。

■Wikipedia スイス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9#.E7.B5.8C.E6.B8.88
によれば、2011年のスイスの一人当たりGDPは81,160ドルであり、世界でもトップクラスの水準である。世界で最も国際競争力の高い国の一つであり、2011年の世界経済フォーラムの研究報告書において、世界第1位の国と評価された。富裕層も非常に多く、9.5%の世帯が金融資産で100万ドル以上を保有しているとされる。

このスイスにおいて最大の小売業であるスイス・コープは、2年以上前から「マルチチャネル」を実現し、最近ではこのデジタル化をさらに先鋭化させつつある小売業として世界的に知られている。

このたび来日した、スイス・コープのCIO、アウグスト・ハーダー August Harder氏へのインタビューを元に構成した。(※7/16のSAP Forum名古屋での講演資料は末尾を参照)

Harder_3
中央がアウグスト・ハーダー氏、右が筆者

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--SAPをご愛顧いただきありがとうございます(笑)。

われわれのシステムの”ほぼ85%”はSAPです。ERPをはじめ、CRM、BW、HR、ポータルなどを使っています。

またネットスーパーであるcoop@homeのサイト、http://www.coopathome.ch/ はIS Retailを使って構築しました。

Saplandscape
Coop社のITランドスケープ

--SAP HANAでPOSデータ管理とCAR(Customer Activity Repository)の導入を進めておられるとのことでしたが、HANAには幅広い用途がある中でこの2つを選ばれた理由は?

「POSデータ管理」はもちろんPOSデータを分析して、購買動向や販売動向を分析するためです。CARを組み合わせると、POSだけでなく、他のシステム上にあるデータや、ソーシャル上のデータをも含めて一元的・透過的に分析することができます。

目的は、需要予測→発注の精度を上げることです。どのお客様がどんな頻度で何を買っているか?がわかれば、将来の売れ行きをより高精度に予測でき、ということは欠品も過剰在庫も防げます。

Hana
CoopにおけるSAP HANAの導入・検討状況

 

--スイス・コープのネットスーパーのアプリ「coop@home」ですが、私(筆者)も自分のiPhoneにインストールしていますよ(笑)。毎週1回、プロモーションのメールも届きます。

それはどうも。日本には配達できませんが(笑)。

Coophomeapp_2iPhoneアプリ Coop@Homeの画面イメージ

--しかし、発注1回あたりの購買額が251スイスフラン(約26,800円)もあるというのは驚きました。(1スイスフラン(以下CHF)は約107円)

送料設定のせいもあると思います。1オーダーあたりの最低額が100 CHF(10,700円)なんですが、
100~150 CHF の場合、送料は18 CHF。
150~200 CHF の場合、送料は13 CHF。
200~500 CHF の場合、送料は10 CHF。
500 CHF以上のオーダーなら送料無料です。

--なるほど、円換算で5万円近く買っても、送料が1,000円は取られるのですね。日本のネットスーパーでは5,000円以上買えば送料無料、としているケースが多いです。

...それでどうやって利益を出すのか、教えていただきたいです(笑)。

--日本では狭い商圏に人口が密集しているためかもしれませんね。coop@homeがこれだけ伸びているのは、店舗から遠い地域に住んでいる人口が多いために配達ニーズがある、ということですか?

いえ、そんなことはありません。コープは狭いスイス国内に、スーパーマーケットだけで800店舗を展開していますから、ほぼ5kmおきに店舗があるといった状況です。ですから、coop@homeのユーザーは大きく2つに分かれています。4割が、主にワインを購入する人たち。そして6割が、仕事を持つ女性たちです。

10,000アイテムを超える商品を扱っていますが、中でも1200銘柄を超えるワインは主力商品です。ワインは単価が高いうえに重いので、デリバリーに適しているのです。

coop@homeのデリバリーは2009年から実施しており、売上は順調に増えてきています。とくにここ2年は、PCのブラウザからのオーダーに加えて、iPad、iPhone、Android端末からの発注がオーダー全体の20%ちかくを占めるまでに伸びてきています。

■参考動画: coop@home order in the Garden Hut (カワイイ!(笑))
http://www.youtube.com/watch?v=4Bz_kdGgXfU


YouTube: coop@home order - in the Garden Hut

 

--ドライブスルー・ピックアップも手掛けておられますね。

はい、チューリッヒに2箇所あります。これは2時間以上前にオーダーしておくと、店員がピックアップして袋詰めしておいてくれ、お客様はトランクに積み込んで帰るだけでよい、というものです。

■参考動画:coop@home ドライブスルー店舗(この人相の悪い男は...?)
http://www.youtube.com/watch?v=QYKI8ZQkhbI


YouTube: coop@home Drive In

--今後さらに拡張していく予定ですか?

いえ、実のところ、ドライブスルーは、あまり奮いません。隣国フランスではかなり評判がよいということで、我々も導入してみたのですが。おそらく、スーパーマーケットの実店舗が近隣に多くあること、またcoop@homeのデリバリーも充実していること、が原因ではないかと考えています。

Drivethrough
ドライブスルー店舗

 

--ショッピング・ウオールとは?

この写真はGoogleのチューリッヒの研究所内の売店です。

Coopshoppingwall

これはショッピング・ウォールと言って、壁に貼ってある商品ごとに二次元バーコードがついており、それをスマホのアプリで読み込むと発注できるというものです。

ただ、ショッピング・ウオールは、まあ、おもに話題になることを狙ったマーケティング目的の施策です(笑)。だってそうですよね、わざわざ壁から探さなくても、スマホアプリから発注できるんですから。

■参考動画: coop@home ショッピング・ウオール
http://www.youtube.com/watch?v=i_s0i4PrdCU


YouTube: coop@home Mobile Shopping

--ポスターにしてしまうと、価格改定などに対応できないのでは?

ええ、ですから、ポスターに印刷してあるのは二次元バーコードだけです。価格はスマホアプリでスキャンすると表示されるようになっているのです。

Shoppingwall
ショッピング・ウオール

 

--パーソナライズされたクーポン、の仕組みについて教えてください。

coop@homeで買い物をしているお客様がいると、我々は、そのお客様個人の購買履歴や最近の閲覧履歴、また商品の粗利率などから計算して、そのお客様ごとに最も適した商品のクーポンを選び、メールで送信したり、Webサイト上に表示したりします。パーソナライズして出すせいで、コンバージョン率は通常のざっと8倍と、かなり高いです。

また、ショッピングバスケットの合計金額を見ていて、もう少し買えば上のランクになって送料がトクになる、というときには、その金額に相当するアイテムをレコメンドすることもあります。

Icoupon_2

iCoupon(パーソナライズされたリベート)が表示されている状態

--どんなレコメンドエンジンを使っておられるのですか?

残念ながら、いまのところSAP製品ではありません。ただ最近SAPから提案があり、今それを評価しているところです。

 

--一方で、デジタル・クーポンというアプリもありますね?

こちらは、クーポンを実際に「取得」して「使う」ためのアプリです。お客様がWebサイトやiPhoneアプリ上でクーポンを見つけ、それを「有効化」すると、それから24時間以内に限り、そのクーポンが有効になります。

一度有効化したクーポンはお客様IDにひもづいているため、レジ精算の際にはクーポンをひとつひとつ提示する必要はなく、会員IDさえレジに読み込ませれば、すべてのひもづいているクーポンも有効になります。

Digitalcouponデジタル・クーポン配布アプリ

 

--セルフチェックアウトの仕組みは?

実はセルフチェックアウトにも2つあります。この写真に写っているマシンは、セルフスキャニングと言って、レジに並ばなくても自分でスキャンして合計金額を払えばよい、というしくみです。

Selfscanner
セルフスキャニング機

セルフスキャニングは、購入点数が少ないお客様に好評です。セルフスキャニングは、購買金額ベースでいうと全体の10%程度ですが、人数ベースでは25%にもなります。それだけ多くの人を素早くさばいているということができるでしょう。

一方こちらは、iPhoneアプリを使った、セルフチェックアウトのためのバーコードリーダーです。消費者が持つ自分のiPhoneをそのままバーコードリーダーとして使う、という点で画期的な施策です。

Selfcheckerapp
セルフチェックアウト用iPhoneアプリ "Passbene"

商品を手に取ったら、その都度スキャンして、あとは自分が持参したマイバッグに入れてしまって構いません。

このセルフチェックアウトは、購入点数が多いお客様に好評です。通常だと、いったんカートに入れた商品を、レジでのチェックのために取り出し、次に袋に入れる、と作業が一往復増えますよね。マイバッグに直接商品を入れてしまえばその往復が不要になるのです。

--自分のバッグに、直接?でもそれだと、万引きが起きるのでは?

はい、ですので、10回に1回くらい、抜き打ち検査が入ります(笑)。

ちなみに抜き打ち検査での成績がよい(スキャン漏れがない状態が続いた)お客様の場合、検査回数は減っていきます。逆にスキャンミスが多く見つかったりすると、検査回数は増えていきます。

--配達は自社トラックと、郵便局(スイス・ポスト)の配送網の使い分けをしていると聞きました。

スイス国内人口の60%は自社車両による直送エリアで、午後2時までに発注しておくと、午後6時までに配達します。

午後2時以降の発注の場合、あるいは直送エリア外の場合は自動的にスイスポストによる配達になり、翌日届きます。

--コープのネット系売上は増えていますか?

はい。coop@homeを含むネット系売上は合計で2.45億 CHF(約262億円)に達しました。対前年度比で22.8%増です。

--なるほど、これは急激な伸びですね。

いえいえ、全社の売上(278億 CHF)に占める割合は1%にも満たず、まだまだです。

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スイス国内の小売業において、コープは全小売業の売上の23%を一社で占めるという。その売上高(2012年)は278億スイスフラン、現行レートでほぼ3兆円

スイスのGDPは日本の1/10しかないのだから、日本に置き換えれば売上高30兆円相当ということになる。セブン&アイやイオングループが約5兆円だから、そのおよそ6倍。あるいは、日本の上場小売業トップ40社の全売上の合計(!)が約30兆円だから、それと同規模ということになる。とてつもない存在感であることは間違いない。

日本の上場小売業トップ40社: セブン&アイ・ホールディングス、イオン、ヤマダ電機、三越伊勢丹ホールディングス、J.フロント リテイリング、ファーストリテイリング、ユニーグループ・ホールディングス、高島屋、ダイエー、エディオン、ケーズホールディングス、ドン・キホーテ、ビックカメラ、イズミ、エイチ・ツー・オー リテイリング、ライフコーポレーション、ローソン、しまむら、DCMホールディングス、マツモトキヨシホールディングス、丸井グループ、上新電機、ゼンショーホールディングス、バロー、平和堂、サンドラッグ、イズミヤ、アークス、ATグループ、ニトリホールディングス、ファミリーマート、スギホールディングス、ココカラファイン、ツルハホールディングス、マルエツ、コメリ、オークワ、日本マクドナルドホールディングス、フジ、ウエルシアホールディングス。

スイスにおけるCoop 1社の規模は、日本におけるこの40社の合計(約30兆円)とほぼ同規模。

これだけの規模を誇る巨大企業だけに、さまざまなデジタル施策にも積極的に取り組む余力があるのは当然のようにも思える。しかしこの質問をすると、ハーダー氏は意外な回答を返してきた。

”実はコープはどちらかというと保守的な企業です。たいていの施策に関しては、世の中の認知がある程度進んでから採用します。

ただし「お客様が求めることを満たす」ことだけはアグレッシブに追求します。そしてそれが「マルチチャネル化」、つまり複数のチャネルのどれを通じても同じ購買体験ができる、というものなのです。”

つまり、決して”IT好きな社風だから”とか”余力があるから”取り組んでいるのではない。お客様のニーズがそちらにシフトしつつあるから、それに対応するだけだ、ということなのだ。

 

※当記事は公開情報および公開許可をいただいたインタビューに基づいて筆者が構成したものであり、スイス・コープ社のレビューを受けたものではありません。

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【参考情報】

■SAP Forum 2013 名古屋における、アウグスト・ハーダー氏の講演資料(英語)
SAP_Japan_Forum_A.Harder_20130716.pdf (7.6MB)

■スイス・コープ社のAnnual Report(英語)
http://www.coop.ch/pb/site/common/get/documents/coop_main/elements/ueber/geschaeftsbericht/2013/_pdf_gbnhb_2012/coop_gb_nhb_2012_komplett/coop_gb_2012_e_low.pdf

■スイス・コープ社のWebサイト(英語)※ドイツ語、フランス語、イタリア語もあり
http://www.coop.ch/pb/site/common/node/50465/Len/index.html

■iPhoneアプリ「Coop@Home」のダウンロード
https://itunes.apple.com/jp/app/coop-home/id315615121

■Androidアプリ「Coop@Home」のダウンロード
https://play.google.com/store/apps/details?id=ch.coop.android&hl=ja

 

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