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180万件の契約データを1秒たらずで分析。情報系システムの高速化を実現したレノボ

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世界第二位のPCメーカーであるレノボ。もともと中国の企業であるが、2005年にはIBMのノートPC「ThinkPad」部門を買収、2011年にはNECとの共同持ち株会社を作ってNECのPC事業も傘下に収め、日米中の3大市場を中心に世界160か国以上で事業を展開している。

報道によれば2012年4-6月期は世界のPC市場で14.9%のシェアを獲得、年内にもヒューレット・パッカードを抜いてシェア一位となるとの見込みも。

レノボ、パソコン市場シェアで近く世界首位に(2012年7月16日、Yahooニュース)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120716-00000022-reut-bus_all

国内市場でも、高性能と低価格をバランスさせた製品ラインを充実させ、サッカーの中田英寿氏を起用したCMなどで、コンシューマ市場でも急速に存在感を高めている。


YouTube: 中田英寿CM lenovo FOR THOSE WHO DO. 

そのレノボは、1990年代からSAP ERPを利用して事業基盤を構築しているが、2011年にはあらたにインメモリDB「SAP HANA」を採用し、営業部門向けのレポーティングなどを圧倒的に高速化した。

筆者は同社バイスプレジデントシャオユ・リウ氏が2012年3月に来日した際にインタビューを行い、その背景や期待効果、将来構想などを聞いた。以下、インタビュー内容に加え、同日の講演の内容、同年5月の米国オーランドでの講演の内容などを加えて構成した。

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YouTube: 180万件の契約レコードをわずか「1秒」たらずで完了 - Lenovo社

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レノボは現在、世界第二位のPCベンダーです。急速にシェアを伸ばしていることもあり、経営のスピード感を維持することがシステム側のキーとなっています。

2005年にIBMのPC部門との統合が発表された時点では、レノボとIBMは当然ながらまったく別のシステムを使っていました。受発注、製造計画、ロジスティクス、保守サービス、会計そしてグローバル連結など、すべてが2つずつあったわけです。したがって2006年以降の7年間は、その統合プロジェクトの繰り返しでした。現在までに11プロジェクトが完了し、現在は第12次プロジェクトが進行中です。

SAPのBW(ビジネス・ウェアハウス)を使って構築している情報系データマートは、売上情報レポートなど経営にとってミッション・クリティカルな情報を提供していますが、長年のデータを蓄積し続けた結果、DBサイズが14テラバイトにも達し、パフォーマンスを圧迫しつつありました。たとえばあるテーブルではデータ件数が1億件を超えており、ひとつのレポートを出すのに2時間以上かかっていました。

SAP社からHANAの話を聞き、まずこのBWをHANAの上で動かしてみることにしました。PoC(実機検証)してみると、2時間かかっていたあるレポートが1分未満で出力され、その超スピードに驚愕して、すぐに導入を決めました。

ただし、従来のBWすべてをHANAに乗せかえたわけではありません。BWを含む当社のエンタープライズ・データウェアハウス(全社情報系データベース)はIBMのDB2ベースで構築され、長い年月を経てそれなりに完成されていますので、いきなり大幅な変更を加えることは得策ではないと考えています。したがってまずは現場ユーザーからのパフォーマンス要求が厳しいいくつかの業務のみ従来のBWからBW on HANAに移し、それ以外の業務については従来のままとしています。

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出典:http://sapvod.edgesuite.net/SapphireNow/sapphirenow_orlando2012/pdfs/22388.pdf
(PDFダウンロード、1.1MB)

2つのBWが並行稼働しているわけですが、SAP社の分析ツール「BusinessObjects」はその両方に接続して一体的に表示させることができますので、現場ユーザーからは従来どおりのひとつのBWに見えているはずです。しかしHANA化した業務については、たとえば従来1~4時間かかっていた処理が10分以下で終わるようになったため、現場ユーザーからは非常に好評で、「この部分についてもHANA化してほしい」という要望が次々に寄せられています(笑)。

またHANAの特長は、データ量が増えてもレスポンスタイムがほとんど変わらないことです。従来のBWでは10日分→1ヶ月分→3か月分というふうにデータ量が増えると処理時間もそれぞれ数倍に増えていましたが、HANAではほとんど変わりません。

またHANAのスピードが速いこととは別に、導入完了までの期間が短いことにも感銘を受けました。今回のような規模のプロジェクトだと1~2年かかっていたのではないかと思いますが、今回のBW on HANA導入はわずか2.5か月で完了しました。

次はCRM(案件管理)分野と財務(ダイナミック・キャッシュ・マネジメント)分野でHANAを利用していこうと考えています。

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SAP BWのヘビーユーザー(14TB!)が、BW on HANAを利用することにより、圧倒的な高速を享受する、ある意味典型的なHANA事例であるレノボ。しかし一方で既存BWを併存させ、ユーザーインターフェース(BusinessObjects)側で統合的に見せるなど、SAPを知り尽くしたユーザーならではの現実路線を歩んでもいる。シェアNo.1に向けてひた走るレノボの今後に注目したい。

 

※当記事はセミナー講演などの公開情報とリウ氏へのインタビューに基づいて筆者が構成したものであり、レノボ社のレビューを受けたものではありません。

 

【参考情報】
■レノボNEC始動、「圧倒的シェア」実現へのシナリオ (日経新聞 2011/7/5)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0500E_V00C11A7000000/

■リウ氏のSAP HANAユーザー事例動画(3分59秒、英語、日本語字幕つき、再掲)
180万件の契約レコードをわずか「1秒」たらずで完了 - Lenovo社
http://www.youtube.com/watch?v=AsU3ECqL0No

■2012年5月のリウ氏の講演(@Sapphire Orlando)(24分、英語、要ログイン)
See How Lenovo Uses SAP HANA to Supercharge SAP NetWeaver BW
http://www.sapvirtualevents.com/sapphirenow/sessiondetails.aspx?sId=2287

同講演の資料(PDFファイル、1.1MB、再掲)。詳細なデータが含まれており参考になる。
http://sapvod.edgesuite.net/SapphireNow/sapphirenow_orlando2012/pdfs/22388.pdf

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