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世界最高峰のモータースポーツであるフォーミュラ1を「斜め45度」から見ると、ビジネスや世の中が見えてくる!?まったり気ままに、時には真面目に。世界を駆け巡るF1ビジネスの仕組みから、F1でわかる経済学、エコとF1まで。フォーミュラ・コモンズがお届けします。

【コラム】F1チームによる「株式の一般公開」に関する少々不可解な「事情」について

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※シリーズ連載を中断して、今回は単発の【コラム】を掲載します。

 コマーシャル・スポンサーがついていないBMWザウバーが真っ白だというお話をしましたが、もしかすると2011年シーズンのウィリアムズチームは真っ青になるかもしれません・・・いろいろな意味で。

 いま、F1は新車発表のシーズンです。その中で、ウィリアムズチームの新車FW33を見て僕は息を呑みました。というのも、「スポンサーが、ことごとく消えている!」(F1 Fanatics)からです。しかしこれは、『F1-gate.com』によると「仮のカラーリング」であることが宣言されており、実際にはもう少し彩り鮮やかになるらしいのですが、それにしてもスポンサーロゴが寂しいことになっています。

 そのウィリアムズが実行に移そうとしている計画が、チームの株式を一般公開することです。しかし、その内容は極めて不透明な部分が多く、よくわからない点がいくつかあります。最大の謎は、なぜこのチームが株主を一般公開しなければならないのか、という点です。

Line of Nigel Mansell's Williams F1 Cars

 僕は株式の一般公開のニュースを耳にしたときに真っ先に想像したのは、真っ青で、スポンサーロゴのまったくついていないニューマシンでした。つまり、ああ、本格的にこのチームは財政難に陥ったのだなと。投資家もしくは熱心なファンに株式を購入してもらうことで、運転資金を確保するという試みなのだろうなあと思ったのです。周囲からは「quzyさん、ウィリアムズの株式を買ってあげてください!」とまで言われました(^_^;)

 しかし、どうやら、事情は想像したのとはだいぶ違うようです。

 というのも、株式の売却益はチームにではなく個人に入ると言われているからです。今回、一般公開される株式は、新規発行されるものではありません。つまり、既に発行されており、チーム首脳陣が所有している株式の一部を手放し、それを市場に放流するというのです。比率にして、27%の株式がドイツのフランクフルト証券取引所で一般公開され、その価値は7000万ユーロ(約80億円)になる見込みとのこと。これはF1チームを1年間運営するためには少々足りない額ですが、個人所有のチームにとっては、大きな助けになる金額です。

 ここでポイントになるのは、誰が株を手放すのか、という点です。

 ウィリアムズには二人の筆頭株主がいます。ひとりは「車椅子の闘将」と称されるフランク・ウィリアムズ(御年69歳!)で、もうひとりが、チームの共同設立者がパトリック・ヘッド(66歳)です。この二人が63:27で株式を保有し、残りの10は別の人が持っていました。今回手放される株式はこの筆頭株主二人が手放すものが大部分で、『ESPN F1』によると、フランク・ウィリアムズの持ち株比率は50.3%に減少し、パトリック・ヘッドの持ち株比率は、5%まで低下するとのこと。つまり、一般公開される株式の大部分は、パトリック・ヘッドが手放すものなのです。

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 今回の株式公開のリリースの中で、チーム代表のフランク・ウィリアムズは今後もチームと関わり続けることが明言されていますが、パトリック・ヘッドについては何のアナウンスもありませんでした。この点について『PitPass』が報じたのは、パトリック・ヘッドが近い将来に引退する可能性がある、という内容で、その後、本人が「わたしがエンジニアリング・ディレクターを退くことはほぼ間違いない」と、ロイター通信に対して明らかにしました。

 これは、株式の購入は、チームの運営を助けるためというよりはむしろ、まるで、パトリック・ヘッドの退職金か、養老年金を支払うようなものなんじゃないのか、と思えてきました。

 そのように思われる理由は他にもあります。株式の購入者の中でも、265万ユーロ(約3億円)を投じて1%以上の株式を保有した者には、ウィリアムズチームの「オーナーズクラブ」に入会する資格が与えられて、グランプリ観戦などの特典が用意される見込みだというのです。つまり、ウィリアムズの株式を購入することは、投資というよりは、むしろ特権(ステータス)を購入するようなものだ・・・というのです。

 さらに不可解な情報もあります。ウィリアムズはイングランドのオックスフォード近くに本拠地を構える、イギリスのチームですが、その株式はイギリスではなくドイツの市場で公開されます。いったいなぜ、わざわざそんなことをするのでしょう?『ESPN F1』は、サラッと「ロンドン証券取引所ではF1の厳格な商業守秘義務に抵触する可能性があったため」と書いていますが、この内実はつまり、チームは投資家に対して全ての情報を公開する必要のない、特別な市場を探していたということです。この点についてはPitPassのニュースを『F1通信』が翻訳しているので、それを読んでいただきたいのですが、要約すれば、きわめて情報公開について不透明な状態で、投資家に多大なリスクを負わせたまま、株式を公開できる仕組みがドイツのフランクフルト証券取引所にはある、ということです。それがイギリスではできなかったのです。

 ウィリアムズは確かに窮乏する個人チームだと言えますが、その一方で、今すぐに飢え死にしそうなチームというわけではありません。ウィリアムズは事業の多角化で知られており、ウィリアムズ・ハイブリッド・パワーという、いわゆるハイブリッド・エンジン機構の開発を進める会社を所有していたり(『F1-gate』)、中にはゴルフクラブのデザインと販売をウィリアムズという会社(ややこしい)と協力して行っていたりします。動画のCMをみると面白いです

 またウィリアムズは近年、ペイドライバーと呼ばれる、実力よりも「カネ」を重視したドライバー選択をすることによって、したたかに資金を得ています。その妥協の歴史は中嶋一貴をトヨタエンジンとのバーターで乗せた2007年あたりから始まり、ウィリアムズの成績は下降の一途でした。2011年には、ベネズエラ出身で、母国の大統領の援助まで得るパストール・マルドナドをドライバーに採用し、契約金が安く、かつ実力で勝ると考えられるニコ・ヒュルケンベルグを解雇しました。『F1-gate』が伝えるように、チームはこの契約劇を「お金のためではない」と否定していますが、つまりはお金のためだということです。

 さまざまな情報を総合してみると、ウィリアムズチームによる株式の一般公開という、F1史上に類を見ない行為は、チャレンジングでパイオニア的な行為というよりも、何かダーティーで、そこはかとなく怪しい空気を感じるのですが、いかがでしょうか。もしあなたが株式を購入するなら、チームをこれまで引っ張ってきたエンジニアリング・ディレクターが引退するかもしれないリスクや、チームがスポンサーからいったい幾らの資金を集めているのかを知る術もないまま、数億円の「投資」という名の「投げ銭」をしなければならないのです。

 株式の公開は2011年3月2日です。シーズン開幕直前となります。事態を見守りたいと思います・・・真っ青になるのはマシンだけなら良いのですが。

by blog.formula.commons (quzy)

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