チェルシーFCとザウバーF1チームの相思相愛 - エフワンのぼやき #011
ども、Quzyです。
小林可夢偉さんが所属しているザウバーF1チームの「ティザー広告」と思われる謎のロゴが、しばらく話題になっていました。
本ブログでも繰り返しお伝えしている通り、原則としてF1マシンは「走る広告塔」なので、マシンには特定の企業のロゴが貼られるのが通例です。しかし、これも本ブログでお伝えした通り、近年のザウバーは「走る広告塔」ビジネスを斜めに解釈した展開を見せています(F1は「走る広告塔」ではない (1) ― 「真っ白だが、大丈夫か?」 - blog.formula.commons)。今回の、具体的な社名が伏せらながら、最もマシンの目につく部分に貼られたロゴも、大いに話題になりました。
そのロゴは、白地の車体に青い文字で、最初は「Out of the Blue」、そして「True Blue」に変わりました。
ザウバーからの公式なアナウンスが行われない一方で、やがてメディアは、その青いロゴは、アメリカのLCCジェットブルー航空のものだ、と断定的に報じるようになりました(ザウバー、謎の新スポンサーはジェットブルー航空 : F1通信)。
LCC(格安航空会社)といえば、フォースインディアのマリヤ代表のキングフィッシャーエア(ただし、負債で火だるま)、マレーシアを拠点とするケータハムのフェルナンデス代表のエアアジアなど、近年のF1とつながりが深いジャンルです。ジェットブルー航空は、近年の無謀な機材拡張計画や、この春には機長が乗務中に発狂して乗客に取り押さえられるなど、きな臭いニュースが取りざたされていたものの、そのへんのうさんくささも含めて、F1への投資は「まあ、ありうる」といった感じでした(個人的に)。
ところが〜、蓋を開けてみれば、そのロゴは、イングランドのプレミアリーグ・チェルシーFCのものであることが発表されました(ザウバー、チェルシーFCとのスポンサー契約を発表 - F1ニュース ・ F1、スーパーGT、Fニッポン etc. モータースポーツ総合サイト AUTOSPORT web(オートスポーツweb))。
確かにチェルシーFCは「ブルーズ(Blues)」と呼ばれるほど、チームカラーの青が際だって有名なクラブです。ザウバーのティザー広告とも一致します。
それにしても、あの噂はなんやってん。
誰や、裏も取らずに航空会社の名前出したん。
......ま、それはともかく......
上の記事を含め、一部の報道では「ザウバーに新スポンサー」と報じられていますが、周辺の記事を読んでいる限り、現金が動くわけではない「相互協定」といった風に読めます。記事中でも見られる公式発言では「パートナーシップ」という言葉が頻繁に用いられています。
これをうけて、日本のF1ファンのあいだでは「これでザウバーに開発資金が!?」「巨大スポンサーからの要求で、ドライバーが取り替えられるのでは?」といった憶測も出ています。しかし、この「パートナーシップ」の意味するところは、そういうことはなさそうです。
確かにチェルシーFCのオーナーはロシアの石油成金アブラモビッチさんで、彼はたびたびF1界とも「マネー」つながりで話題に出されることが多いのですが(ロシアGP契約間近!? (ローマン・アブラモヴィッチとバーニー・エクレストン) : F1通信)、今回は特にザウバーに対して巨額を投じるということはなさそうです。
先ほどの記事からポイントになりそうな部分を引用しておきます(ザウバー、チェルシーFCとのスポンサー契約を発表 - F1ニュース ・ F1、スーパーGT、Fニッポン etc. モータースポーツ総合サイト AUTOSPORT web(オートスポーツweb))。
「いずれにしても、我々は国際的なレベルで最高のチームスポーツです。ザウバーF1チームとチェルシーFCは、スポーツ面と商業面で同じトピックを持ちあわせており、互いにこの分野のエリアを強化したいと考えています」
今回の契約により両社は、チームレベルにおいてビジネスおよび競技面のパフォーマンスを強化する相乗効果に取り組み、具体的には、マーチャンダイジングの企画販売とスポーツ科学における知識を共有するという。
つまり、このパートナーシップでは、お金のやりとりというよりはむしろ、二つの異なるスポーツのあいだで共通するエリアについての情報交換。そして、目に見えるわかりやす部分としては、ザウバーの車体にはチェルシーFCのロゴを出し、チェルシーFCはホームゲームのスタジアムにザウバーのロゴを出す。そんな感じではないでしょうか。
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さてここで気になるのが、この「パートナーシップ=相互協定」の経済効果です。「お金じゃない」と言われても、やはり何らかのお金の動きが予測できるから、こういう契約ができたんじゃないの?というわけです。
F1は、2010年のデータで、187ヶ国で放送されており、5億2700万人が見ていると言われる巨大なメディアイベントです(Formula 1™ - The Official F1™ Website)。一方のイングランドのプレミアリーグは、2007年のデータで、202ヶ国で放送されており、6億「世帯」に向けて放送されていると報じられています(Premier League is world's favourite league - Telegraph)。
上記の数値にツッコミどころはいろいろあれど、どちらも巨大なスポーツ、巨大なビジネスであることは間違いないところです。この二つの分野がパートナーを組むことはおもしろい。
しかし、プレミアリーグを代表するクラブであるチェルシーFCが、F1で手を組む先がザウバーとはいささか不釣り合いに見えます(失礼ながら)。イギリスには多くのF1チームが本拠地を置いており、マクラーレンやレッドブルのような「強豪」も例外ではありません。なぜそういうチームを選ばなかったのか。
また、ステレオタイプ的な見方を敢えてすれば、ポッシュな(お高く気取った)ところのあるF1と、ある種の泥臭さや労働者階級の文化を残すイングランドのフットボールの組み合わせは、あまり良い結婚生活が送れるようにも見えません。
しかし、そういった様々なミスマッチ感が、今回のパートナーシップの狙いなのでしょう。
チェルシーFCの目から見れば:
ザウバーF1チームは、スイスを拠点としており、イギリスを拠点とするチームが多いF1界のなかで、イギリスの外側に拠点を置く数少ないチームの一つです。また、セルジオ・ペレスと小林可夢偉というドライバーは、二人ともヨーロッパ籍ではありません。これは、飛び抜けて世界的なコンテンツであるとはいえ、あくまでもイングランド・ローカルのフットボールリーグの1チームから見ると、自分たちがこれまでカバーできなかった地域や客層にリーチできる可能性があります。
ブランドとして、ロカリティではなくグローバリティを前面に出すことができそうです。
また、F1とイングランドのフットボールという異なるスポーツは、好んで視聴する階層が異なることが容易に想像され、また、それぞれのファンのライフスタイルにおける嗜好も異なることが予想されます。両者があまりにかけ離れていてはシナジーは生まれないのですが、なんとなく遠そうでいて、それでいて近そう、なあたりが、おもしろポイントでしょうか。ファン層において、F1とフットボールは重なりうるし、事実、ある部分は重なっているでしょう。
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「チェルシーFCがザウバーを助けてくれる」「どう考えてもザウバーよりチェルシーFCのほうが世界的に名前が通ってるはずなのに、チェルシーがザウバーにお金を出して宣伝する必要があるんだ?」といった希望的観測や疑問は、まったくの的外れと言えそうです。
少なくともあなた(F1ファン)がチェルシーFCについてWikipediaで調べだしたのなら、この提携は意味があったと言えそうです!
それでは、ごきげんよう。
Q