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編集あるある「スタイルガイドに準拠してください」【文学フリマ東京42】

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書籍の編集をしていると、クライアントから「スタイルガイドに準拠してください」と求められることがある。

スタイルガイドとは、記事の書き方や用字用語について定めたもので、いわゆる「執筆要項」の詳細版と思ってもらってよい。

代表的なものとして、共同通信社の『記者ハンドブック』(通称:記者ハン)、朝日新聞社の『朝日新聞の用語の手引』がある。英文のスタイルガイドとしては「シカゴマニュアル」(英文校閲者必携の書)が広く使われている。ちなみに、シカゴマニュアルはオンライン版も公開されている(有料。初回30日間は無料利用可能)。
The Chicago Manual of Style Online
https://www.chicagomanualofstyle.org/home.html

スタイルガイドに準拠するとどうなるか。まず、平易とは言えない漢字書きや表記の揺れが減り、読みやすくなる。次の文をみてほしい。

(1)その店は人気が無く、目撃者も居なかった。

文学作品だと漢字書き(業界用語で「閉じる」と言う)もよく使われているが、平易に書きたかったら「無く」「居なかった」は仮名書き(「開く」と言う)にしたい。次のようになる。

(2)その店は人気がなく、目撃者もいなかった。

これで読みやすくはなったが問題が1つある。よく読んでみると、この文は2つに解釈できる。曖昧文(多義文)である。

(3)その店は人気【にんき】がなく、目撃者もいなかった。
(4)その店は人気【ひとけ】がなく、目撃者もいなかった。

それぞれの文は次のような意味になる。

(3a)その店は評判が悪くて、目撃者もいなかった。
(4a)その店は人の気配がなく、目撃者もいなかった。

このように書き換えてもよいが説明的すぎる。通常は「人気=にんき」のことだと考えるので、(4a)のほうをどうにかしたい。元の文を生かしたいのだが、どうするか。その場合は次の(4b)のようにする。

(4b)その店は人けがなく、目撃者もいなかった。

これで必要最小限の修正で曖昧文を解消できた。ここでは「人気➡人け」と修正した。なお、この修正にあたっては共同通信社の「記者ハン」を参考にした。

■スタイルガイドに完全に準拠すべきか?

著者原稿の中に次のような文があった(著作権の都合で作例をもとに説明する)。

(5)彼にも嘘の儲け話が伝わっていた。

その後、クライアントから「スタイルガイドに準拠してください」という依頼があり、「記者ハン」に基づいて次のように修正した。ちなみに、「嘘」と「儲け(る)」は常用漢字外の文字なので仮名書きが基本である。

(6)彼にもうそのもうけ話が伝わっていた。
(7)彼に もう その もうけ話が伝わっていた。

修正後が(6)の文になるが、「にもうそのもうけ」と平仮名が続いて語句の切れ目がわかりにくい。初見では(7)のように読み取るのではなかろうか。「すでに儲け話が伝わっていた」では元の文意とまったく異なる。案の定、著者から「モトイキ(元に戻す)」という赤字が入ってきた。

(8)彼にも嘘の儲け話が伝わっていた。【(5)の再掲】

これで一意に読み取れる文になった(というか、戻った)。

このような運用(「嘘」と「儲ける」は漢字)をするとなると、スタイルガイド(用字用語集)と実際の表記とで齟齬が生じることになる。この種の例は多数あり、著者や書籍によって何十個にも及ぶことはよくある。面白いことに、このような齟齬が生じる言葉はある程度決まっていて、常用漢字表に載っていない漢字や音訓(ヨミ)、同音漢字の使い分け(トル=取ル・摂ル・盗ル)が相当数を占める。

そこで自分用に作成していた表記メモをもとに「揺れやすい表記」「間違えやすい語」「気をつけたい用語」をまとめた冊子をつくってみた。タイトルは『表記揺れを防ぐ これだけ!用字用語ハンドブック』(通称:ここハン)。

A5サイズ、44ページという薄さだが、一般的な間違えようがない名詞ははぶいているので分厚くなりようがない。そのあたりは新聞社系の用字用語集におまかせすることにしたい。こちらは「記者ハン補完計画」という感じで進めることにして、今回取り込めなかった重要語の拡充していく予定である。

売りは見出し語の横のチェックボックスで、どちらの表記を選択したかが一目瞭然。これだけではわかりにくいので、内容見本を挙げておきます。

『表記揺れを防ぐ これだけ!用字用語ハンドブック』内容見本
『表記揺れを防ぐ これだけ!用字用語ハンドブック』はじめに(PDF)
『表記揺れを防ぐ これだけ!用字用語ハンドブック』13ページ(PDF)

『表記揺れを防ぐ これだけ!用字用語ハンドブック』凡例 表記揺れを防ぐ これだけ!用字用語ハンドブック-凡例.png

 


本冊子(ここハン)は、5月4日の文学フリマ東京42(東京ビッグサイト)に出品します。ご興味のある方は A-24ブース(有限会社風工舎)にお立ち寄りください。

【文学フリマ東京42 に出店します】
●ブース:A-24 
●ブース名:有限会社風工舎
 出品するのは、編集・校正に役立つ『表記揺れを防ぐ これだけ!用字用語ハンドブック』です。購入者特典として、冊子『物書きのための日本語辞書について考える』を差し上げます。
●5/4 (月) 12:00〜開催
●東京ビッグサイト
●イベント詳細→ https://bunfree.net/event/tokyo42/ https://c.bunfree.net/e/ijQ #文学フリマ東京
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