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デジタルコンテンツ流通の潮流を見据えて

DRM進化論、出版流通を再定義する(4)日本電子書籍出版社協会の謎、出版社が21社集まって何をしようとしているのか?

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日本電子書籍出版社協会の話題がかまびすしい。報道ばかりが先行していて当事者による発表を見ることができなかった。ということで、報道を要約すると、

日本の出版業界が「キンドル」の対応にあわただしい。キンドルの日本語版が出れば日本の出版社は共倒れになりかねないという危機感によるものだ。このため出版社21社が来月「日本電子書籍出版社協会」を設立することにした。競争関係にある出版社が異例に団結したのは、著作権法が「著述のデジタル化に対する権利は著者にある」と規定したためだ。ある出版社の関係者は、「Amazonが著者に直接交渉して電子書籍の出版権を得た場合、その本を最初に刊行した出版社は一切手を出せなくなる」と懸念している。Amazonがデジタル印税を紙の本の印税より多く支払うなど積極的に出てくる場合には資金力に弱い出版業界は身動きが取れなくなるという懸念が出ている。これに対応し、共同で電子書籍会社を設立してAmazonの攻略を事前に食い止めることが日本の出版業界の構想だ。出版社は日本政府に制度的支援を要請し、著者らから書籍のデジタル化権利を確保する方針だ。出版社は電子書籍のデジタル規格を統一する作業もともに進めていく。

まさにツッコミどころの多い内容だ。当事者の意図をどこまで正確に表現しているのか不明だが、とりあえずこれを当事者(21社の出版社)の意図としてとらえる。論点は大きく3つに整理できる。

1)Amazonと著者が直接交渉すると印税が上がる云々。こんなコメントを聞いて日本の作家達は黙っているのだろうか?たとえこれが出版社の本音だとしても、こんなにストレートに発言してまずいと思わないのだろうか?言い換えれば、出版社は著者を抱え込んで紙だろうが電子だろうが出版の自由は著者には無いと言っていると同じだ。また印税も出版社のコントロール下におくと宣言している。紙の出版を人質にして電子で出版する自由を取り上げようとしている。

2)共同で電子書籍会社を設立してAmazonの攻略を事前に云々。これも理解不能な内容だ。電子書籍会社とはいったい何をする会社なのか?Amazonの攻略を食い止めるとはいったい何をするつもりなのか?現在全国で書店が壊滅的に減少しているのに出版の落ち込みがまだそれほどではないのはひとえにAmazonのおかげではないのか?Amazonはすでに日本の書店流通のかなりの部分を占めている。書店が身近に無い人、書店に行く時間の取れない人などが本を買う手段は今やAmazonしかない。今仮にAmazonがなくなったら、日本の出版はすでに崩壊しているはずだ。「そのAmazonを食い止める」とは一体どういう意味なのだ。はっきり言えば、AmazonがアメリカのようにKindleで書籍の価格破壊を行うのを食い止めたいと言うわけだ。もっとはっきり言えば電子書籍でせっかく必死に守ってきた再販制度を壊されてはたまらないと言うことだ。こんなことは誰でも分かる事なのに、それをはっきり言わずに自らの行動を説明しようとするから訳の分からない文章になってしまう。

3)出版社は電子書籍のデジタル規格を統一する作業もともに進めていく云々。これも意味不明だ。アメリカではすでにePubというオープンなフォーマットで電子書籍を出版すると言うのは既定路線だ。Amazon、Google、Barnes&Noble、Sonyなど主要な電子書籍ビジネスのプレイヤーはすでにePubをサポートすることを表明している。Appleだけが不明だが、おそらくAppleも電子書籍を扱うのであればePubをサポートしてくるだろう。ここで日本の出版社がこれから集まって新しい規格を作るというのか?ePubの仕様はオープンで縦書きなどの日本ほかの言語対応についても考慮されている。ただまだ実際に実装された実機が無いという問題があるが、これはいずれ解決されることだ。出版社が集まって何かすると言うのならば、こういった問題を認識して日本語ePubの実装をハードメーカーやソフトメーカーに働きかければいいのだ。

上記3点の論点を総合して言えることは今回の動きは出版社が書籍ビジネスの流通における価格決定権を確保しようとしているということだ。現在のように紙媒体での出版が99%を占めている段階では出版社の価格決定権が確保されている。著者には数%から10%の印税を払い、残りの流通における価格は再販制度という埃だらけの鎖で守られている。結果として書店の数は激減し、返本率は50%に近づき、出版社は自転車操業のためにひたすら粗製濫造を繰り返し、気がつくと誰もが利益を上げられないビジネスになってしまった。

確かに、AmazonのKindleは日本の出版界にとって黒船になる可能性がある。電子出版が行われるようになるとAmazonのように力のある書店や流通業者が著者と直接交渉して印税を決めることができる。著者は自らの作品の知的価値を自ら決定できる当たり前の状態になる。電子コンテンツには再販維持は認められないので書店や流通は状況に応じて自由に価格を決定できる。ここで重要なのは著者が最初の価格を決めるが、その後流通の段階では他の商品と同じように市場の原理で価格は変動することができるということだ。書籍が始めて普通の商品になる。著者との印税契約が%で決められていれば流通の価格に応じて印税も変化する。電子書籍はまだ揺籃期で紙媒体のビジネスを左右するほどの力は無いが(雑誌や新聞または実用書、教科書など例外も多いが)出版社としては電子書籍が鉄壁の出版社による価格コントロールの蟻の一穴になることを恐れている。

以上のことは別にぼくでなくても、誰もが理解できることなのに今回の報道でもマスコミは全く触れない。「出版社が大同団結してAmazonに対抗」みたいなまったく意味不明なコメントしか書けない。実はぼくは電子書籍について一般とは違った見方をしているのだが、これはまた別の機会に触れよう。

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