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調査結果に見る、最高人事責任者(CHRO)の姿

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クレイア・コンサルティングの調です。こんにちは。
アメリカCornell Universityが2009年から実施している、Chief Human Resource Officer Survey (最高人事責任者調査)の2011年版の結果がHuman Resource Executive Onlineに紹介されています。

The Challenges of Being CHRO
最高人事責任者が抱える課題

記事は本当の概要のみで、詳細は原本を参照、とのことですので、今回はこの内容を見ていきたいと思います。

The 2011 CHRO Challenge
2011年版CHROの課題
※PDFが開きます

調査対象に残念ながら日本は入っておらず、アメリカと欧州の大手有力企業のCHROがカバー範囲となっています。


最高人事責任者(CHRO)とは


最近は日本でも、人事機能のトップを人事担当の取締役や執行役員が担うだけでなく、CHROもしくはCHOというタイトルで、より集権的に執行権を明示したタイトルを持つ方も増えてきているように感じます。
2004年には以下の本も出版され、ちょっとしたCHOブームが日本の人事界でも巻き起こりました。

CHO―最高人事責任者が会社を変える
金井 寿宏 原井 新介 出馬 幹也 須東 朋広 守島 基博
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ところで、CHROもしくはCHO(以降CHROで統一します)は一般の人事担当役員や人事部長とは何が異なるのか?
アメリカや欧州の文脈で言えば、基本的には取締役会に入り、経営幹部職として人事機能を統括する意味が強くなる傾向にあるかと思います。
その上でさまざまな機能をはたしていくわけですが、この調査を実施したコーネル大学のCenter for Advanced Human Resource Studies (CAHRS) の定義と調査結果においては、以下の7つの役割が規定されています。
※ここでの並び順はEUにおけるCHROのおおよその時間の使い方順です


  • HR Functional Leader 人事機能のリーダー : 28%

  • Talent Architect タレント輩出の設計者 : 18%

  • Counselor/Confidant/Coach カウンセラー/側近/コーチ : 18%

  • Strategic Advisor 戦略的アドバイザー : 15%

  • Workforce Sensor 社員観察者 : 8%

  • Firm Representative 会社の代弁者 : 7%

  • Board Liaison 取締役との連絡係 : 6%

なんとなく意味がつかめるでしょうか。実際の人事部門のトップの動きを想像してみると、このような多種多様な取り組みに従事していることがイメージできるかと思います。


CHROの最大の責務


実は2009年から引き続き、となるのですが、

talent emerged as the number one priority for HR in the eyes of CEOs

タレント人材関連がCEOの目から見て人事の最重要項目としてあげられた

ということで、才能あふれる社員の発掘・育成・登用が人事の最重要課題として社長が関心を持っていることが明らかになっています。
ここでも欧州での割合順に見ていくと(以下欧州、アメリカの順)、

  • Talent タレント人材: 93% 92%

  • Succession Planning 後継者計画 : 29% 19%

  • Org. Effectiveness 組織力向上 : 26% 7%

  • HR Excellence 人事機能最大化 : 23% 1%

  • Culture 文化 : 20% 17%

  • Cost Control コスト管理 : 19% 19%

  • HR Alignment 人事による支援 : 13% 19%

  • Workforce Planning 人員計画 : 13% 3%

  • Employee Engagement 社員の活性化 : 10% 18%

  • Performance Management : 業績管理・評価 : 10% 0%

  • Comp. and Benefits 給与・福利厚生 : 3% 12%

  • Exec. Compensation 役員報酬 : 3% 10%

  • Change 企業変革 : 3% 7%

よく欧米とは実際何を指すのか?という議論が出てきますが、上の例でもわかるように、欧州とアメリカは人事施策の優先順位についてもまるで一枚岩では無いですね。まとめると、

CEOs today clearly emphasize HR's critical role in building and/or acquiring the talent necessary to drive short- and long-term suceess.

今日のCEOは人事に必須の役割として、短期および長期の(ビジネスの)成功に不可欠なタレント人材の形成および/または獲得を強調していることがわかる。

そして人事の実務担当者の間ではしばしば話題になるengagement (エンゲージメント) については、アメリカ・欧州のCEOにとってはどちらも優先順位が低いようです。

this result may highlight that CEOs are not yet enlightened to the importance of engaging the entire workforce and are still focused more on reducing costs, even at the expense of engagement.

この結果が明らかに示しているように、CEO達は依然として全ての社員を活性化させ引き留めることについて啓発されておらず、エンゲージメントを犠牲にしてでもコストの削減に引き続きフォーカスしていることがわかる。

よく従業員満足度/意識調査を行いたいのだが、経営陣から芳しい反応が得られない、という話をクライアントからお聞きしますが、これは日本以外の国でも同じ状況のようですね。


CHROの最大の悩み事


さて、そのようなCEOからの要請に応えるべく、CHROは頑張っていこうとするわけですが、その際に障壁になるものは何か。CHROがCEOからのアジェンダを達成する上で障壁となっているものをまとめたのが以下となります。引き続き欧州の順位で見ていくと、

  • HR Competencies 人事機能の能力 : 97% 58%

  • HR Process 人事プロセス : 29% 5%

  • HR Resources 人事の予算や人員数 : 25% 34%

  • HR Technology 人事テクノロジー : 25% 10%

  • Line Support 現場からの支援 : 25% 6%

  • Organizational Talent 組織全体の能力 : 19% 25%

  • Regulatory/Legal Constraints 法的制約 : 6% 13%

欧州、どんだけ人事組織の社員に厳しいんでしょうか...
ただかなり欧州とアメリカの数字に乖離はあるものの、

CHROs citing the competencies of their HR team as the number one obstacle to achieving that agenda.

CHRO達は彼らの傘下である人事チームの能力(の不足)こそがアジェンダを達成するための最大の障壁であると述べている。

ということで、人事のトップはかなり自組織の能力発揮に不満を抱いている様子です。

さらにCHROがどのようにして任命されるか、というデータを見てみると、内部昇格はアメリカでは36%に過ぎず、54%が外部からの招聘であり、この傾向は外目には非常に多く見えるCEO(約28%)やCFO(約33%)の外部昇格と較べても圧倒的に高い割合になっているようです。欧州においても同様の傾向が見られます。

したがって、

The function not only lacks the necessary talent to deliver on the CEO's agenda, but it appears to also not be developing that talent internally.

この(人事)機能はCEOのアジェンダに沿った成果を挙げるのに必要なタレント人材に不足しているばかりか、そのタレント人材を内部育成することさえ出来ていないことが明らかになった。

との厳しい指摘がなされています。


CHROの未来


とはいえ、人事、そしてCHROに課せられたタレント人材の形成・獲得というミッション(自組織の人員も含めて)という方向性は自他ともに認識されている事項であり、今後はさらにこのタレント・マネジメントの強化が求められてくると言って良いでしょう。
タレント・マネジメントは日本語ではなかなか表現しにくい言葉ですが、当社では


タレント・マネジメントにおけるタレントとは、「優秀なパフォーマンスを組織にもたらす人材」や「企業の競争力を決める才能ある人材」といった意味である。

タレント・マネジメントとは、人材こそ企業の競争力の源泉と見なし、採用から配置、育成、キャリア形成といった一連のプロセスを効果的に管理・支援するしくみを指す。

上記のように規定しており、この言葉に沿うとすると、これはこれまで人事の方々がおこなってきた組織力・人材力の強化をより全体最適の観点で実施していくことに他ならないかと思います。

グローバル人事、グローバル人材といったはやり言葉に惑わされることなく、自らの能力を伸ばしながら組織の力を一歩一歩つけていくことによって、組織の価値向上につながる不断の努力を重ねていくべく、精進していくことといたしましょう。

ご一読ありがとうございます!

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昨日当社ウェブサイトを一部更新し、著作物ページに当社のメディア寄稿やインタビュー記事のリンクを掲載しています。どうぞご参照ください。

また、今週から来週にかけて、事例ページに事例をいくつか掲載していく予定です。ベンチャーの事例が中心ですが、企業規模の多寡を問わず、参考になるかと思います。こちらもあわせてご覧ください。




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