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人事・組織領域を専門とする、クレイア・コンサルティングの広報・マーケティング担当です。人事・組織・マネジメント関連情報をお伝えします。人事やマネジメントの方々にとって、未来の組織を作り出す一助になれば大変うれしいです。

上司の必要性や効用をめぐる議論

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クレイア・コンサルティングの調です。こんにちは。
英文の記事を読んでいると、最近リーダー論や優秀なマネージャー・上司論をとりあげる論考が多くなってきているように感じます。
本日はそのあたりの事情を、いくつかの記事を紹介しながら見ていくことにします。


上司無しの職場?


もともと発端は、Wall Street Journal (WSJ) に掲載されたこの記事でした。


この記事はウォール・ストリート・ジャーナル 日本版にも掲載されたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

「上司がいない」米企業 中間管理職を設けず組織をフラット化 (有料会員のみ)
http://jp.wsj.com/US/node_464402

アメリカのビデオゲーム開発・販売会社のバルブ(Valve)という会社が、上司を設置しないマネジメントを導入している、という記事でした。
日頃上司に悩まされている方には賛同される方も多くいるのではないかと推察しますが、保守的な人事業界・学界ではこれに疑問を呈する声が多く挙がっています。


理想と現実との乖離


人事系総合サイトのTLNTの編集長、John Hollon氏の論考を見てみると、

The Bossless Office Trend: Don't Be Surprised If It Doesn't Last Long
上司不在の職場というトレンド: そんなに続かないから驚かなくて大丈夫

http://www.tlnt.com/2012/07/02/the-bossless-office-trend-dont-be-surprised-if-it-doesnt-last-long/

All of this sounds wonderful in the same way that communism sounds wonderful if you simply remove the human element from the philosophy. Problem is, humans don't usually make group decisions all that well. Someone -- anyone -- needs to be the final arbiter if you ever want to get something decided and keep things moving ahead.

これらの(WSJに掲載された)論考は共産主義が耳障りが良かったのと同じく、哲学から人間的要素をぱっと取り去ることができれば可能になる代物だ。問題は、人間が通常はそれほど簡単に集団での意思決定をしないということにある。何かについて意思決定して前に進もうと思う時には、誰でもいいから誰かしらが最終決定者となる必要があるのだ。

もちろんこの種のマネジメント手法が全く適用不可能と言っているのではなく、いくつかの企業では適用できるだろうけれども、一般的に広く敷衍すべきアイデアではない、というところでしょうか。


管理者としての上司は必要悪かどうかはともかくとして必要


この話を受けて、UPennのWharton Business Schoolでも、上司不在の職場への疑義が取り上げられています。この論考は長いのですが、以下のHarvard Business Reviewにサマリが載っています。

The Boss Is Dead, Long Live the Boss
上司は死んだ。しかし上司は居続ける

http://blogs.hbr.org/morning-advantage/2012/08/morning-advantage-the-boss-is-dead-long-live-the-boss.html


On the one hand, says Wharton professor Adam Cobb, hierarchy-free environments are "a very democratic way of thinking about work...Everyone takes part in the decisions.
On the other hand, an office with no boss or manager overseeing the workflow can be disastrous.

Whartonの教授、Adam Cobb氏によると、ある意味階層の無い環境は"仕事についてかなり民主的に考える方法"であり、全員が意思決定に参画するという意味合いがある。(中略)
しかし一方で、ワークフローを監視する上司やマネージャーのいない職場は悲惨な結果を引き起こすことにもつながりかねない。

結局はそれぞれが気になってそれぞれを監視することになってしまう、という臨床実験を元に語っています。そして悲しげな結論として、

At a minimum, Cobb says, bosses do provide one valuable attribute: "They are a common enemy. Workers know the opposition. When employees become self-managed, it's hard to tell if you are all working together, or if everyone is working against you."

Cobb氏によると、少なくとも上司というものは一つの価値ある要素を提供してくれていると言います。「彼らは組織共通の敵になる。労働者は相対する敵を認識することが出来る。もし社員が自己マネジメント化されたとすると、皆が一緒に協力して働いているのか、それとも皆が自分と敵対して働いているのか、判別がつかなくなるだろう。」

とまとめています。利点はそこだけ、ではないはずなのですが。

とはいえ、組織として人をまとめて成果を出していくためには、指示命令系統としての上司は必要ですし、その重要性は疑いようが無いのですが(組織論に興味のある方は、例えば沼上 幹著『組織戦略の考え方』などをおススメします)、果たして上司とはどれくらい役立っているものなのか。


上司は組織の生産性を高める鍵


Good Bosses Are Almost Twice As Productive As Their Employees
良い上司には社員の約2倍の生産性が

http://www.businessinsider.com/bosses-are-almost-twice-as-productive-as-their-employees-2012-8

Business Insiderに掲載された論考によると、Stanford UniversityとUniversity of Utahの研究によって、

A good boss is 1.75 times more productive than the people he or she supervises

良い上司は彼もしくは彼女が管理する人々に比べて1.75倍生産性が高かった

ことが判明したのだそう。上司の方、よかったですね。
具体的には、下位10%の上司と上位10%の上司とを入れ替えて、それぞれのチームの生産性を比べてみたところ、上位10%の上司が入ったチームの生産性が、9人のチームに1人のチームメンバーを加えたものと同じくらい上がった(つまり1.75倍になった)とのことだそう。
さらに、良い上司は長く使えるスキルを教え、かつスキルの高い労働者のスキルをさらに向上させることに成功したということです。


主人公である社員をうまく下支えするリーダー


さて、それでは良い上司になるにはどうすればよいのか?
興味深い比喩を使った論考が、これまたTLNTに掲載されていました。

The Secret of Management: Learning How to Manage More by Managing Less
マネジメントの秘訣: 小さな力でより効果的にマネジメントを行う方法を身につけよ

http://www.tlnt.com/2010/12/13/the-secret-of-management-or-how-to-manage-more-by-managing-less/
 

サーバント・リーダーシップ (servant leadership) の考え方に近いですが、上司は表に出て成果を出すというより、チームを下支えする機能を果たすべき、という内容です。

21st Century managers must do what they do away from center stage.

21世紀のマネージャーは、自らが舞台の中心に立って物事を行うという考えを捨てなければならない。

としたうえで、この考えに依って立つなら、成果を出すマネージャーの役割は以下の4つに集約されるとのこと。

  • Sculptor, crafting job roles that fit both individual needs and organizational requirements.

    彫刻家: 個人のニーズと組織の要求とを共に満たす役割を作りだす

  • Catalyst, initiating action in the workplace but doing so without direct involvement.

    触媒: 直接手出しをすることなしに、職場での行動を喚起する

  • Conductor, orchestrating the efforts of others and the environment in which they perform for maximum effect, while not actually playing the music

    指揮者: 最大限の効果が出るように周りの人の努力や彼らが働く環境とを整備しつつ、本人は実際には手を動かさない

  • Broker, acquiring resources and creating internal and external relationships that make people more effective.

    ブローカー(仲買人): 周りの人がより効果的に動けるよう、資源を確保するとともに、組織内外の協力者との関係性を構築する

よくリーダーの資質を指揮者のみで表現する話は目にしますが、この4つを併せ持つという考えはなかなか新鮮です。今のマネージャー像、リーダーシップ像に不足感がある方は、こういった要素を足してみるのも良いかと思います。

お読みいただきありがとうございました。


将来のマネージャー・リーダーを発掘・育成するには、通常の人事評価では見えてこない潜在能力を洗い出す人材アセスメントが効果的です。




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