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プロジェクト管理・ポートフォリオ管理ツールの活用方法を中心に、IT投資管理の考え方をご紹介して行きます。

なぜ、膨大なIT投資を行っても企業利益は増大しないのか?」。

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「なぜ、膨大なIT投資を行っても企業利益は増大しないのか?」。これは多くの経営者から聞かれる質問だと思います。現在では日本企業の設備投資の1/4IT投資と言われています。しかしそれだけの投資を行っているにも関わらず、企業収益は多くの場合投資に見合うほど改善されません。

 

なぜ、IT投資を行っても収益は改善しないのか?その回答は「現状の業務をそのままIT化しているから」ではないでしょうか。個々の業務の業務プロセスの効率化や業務コストの削減を行っても、会社全体でみればその改善効果は微々たるものに過ぎません。

 

私はプロジェクト管理製品をお客様に提案する仕事をしていますが、現場のお客様の要望はいつでも、事務コストの削減に焦点があたっています。「レポートを簡単に作りたい」「進捗を可視化を迅速に行いたい」など現在、既にある仕事の流れや、会議体や、レポートを出来るだけそのままシステム化したいというのが、お客様のごく一般的なご要望です。しかし、このようなシステムを導入しても、おそらく事務作業が多少早くなる程度の効果しか実現しません。そのためにシステムの投資対効果を求められても、効果の算出が困難です。

 

多くの企業は、現状のフローや会議体を、そのままシステム化しようとして、膨大なカスタマイズコストをベンダーに支払っていいます。ITベンダーも、このような提案の方がお客様の受けが良く、カスタマイズで儲かるので、喜んで作業を行いがちです。しかしその結果は、システムはおそらく殆ど企業収益に貢献しなかったという事になります。

 

NHKのピタゴラスイッチという番組はご存じでしょうか? そこで紹介される複雑な機械が、例えていうならば部門の業務です。ボールを転がすと、板に当たり、その先についた紐がおもちゃの車を動かし、その車が次の行程にすすみという、様々な作業の先にやっと、ピタゴラスイッチというロゴに届きます。

 

現状維持でのITの導入は、強いて言うならばこのピタゴラ装置を高速化しているにすぎません。ボールの転がるスピードを最速にして、板を大きくして反動を高めて、紐にはバネをつけ、おもちゃの車にはモーターを搭載して、とそれぞれのスピードアップを図ったとしても、結局は、そこには無駄なプロセスが多数残っており根本的な業務の改革にはなっていないのです。

現場の満足度を、システム導入の効果算出のメトリックスにしている企業が多くありますが、ユーザーが求める事は、自分の関わる業務をいかに最適化するかという事に限定されてしまいます。ユーザーの声を反映したシステムを導入しても、利便性は向上するとしても生産性に寄与はしません。

 

ITの導入は、トップダウンで行わなければ、生産性の向上につながらないのです。私の専門はプロジェクト管理ツールですが、プロジェクト管理ツールの導入からは、大きく3つの収益向上のメリットが挙げられます。

 

・計画精度の向上による、プロジェクト期間の短縮。

 無理と無駄を省いた計画を作成

 

・業務の標準化による、プロジェクトリスクの削減

 漏れのない、計画とフロー

 

・迅速なコントロールによる、不採算プロジェクトの早期の是正

 実績をリアルタイムに可視化し、早期にリスクを排除する

 

しかし、いざシステムの導入となると、お客様にはこれまでに構築してきた膨大な、プロジェクト管理の資産があります。見積ツールや業務フロツールーや、意思決定プロセスや、進捗管理レポート作成手順など。いわゆる「これまでの仕事のやり方」がシステム導入に立ちはだかります。そして多くの場合には、これまでの仕事のやり方に合わせて、システムをカスタマイズすることになます。その結果は、

 

・精度の低いWBSで無難に標準化

・業務の流れやフローはこれまで通りのメールや会議体に依存

・精度の低いWBSに基づく精度の低い実績を、これまで通りの期間で収集し可視化する。

 

結果的に、プロジェクトの収益性は向上せず、ただ作業がIT化されただけです。多少進捗は可視化できるようにはなりますが、海外事例にあるようなコストを40%削減といった成果は生まれてきません。具体的な成果が出ないので、システムは徐々に使われなくなり、Excel管理に戻ってしまうケースも多々あります。

ピタゴラ装置をどんなにチューニングしても、企業収益は改善しませんし、可視化ばかり追求して、体温を測るだけでは病気は治りません。ITの導入を成功させるには、あえて現場の意見を尊重しない事もまた、重要な事だと言えます。

 

さて、次回以降では、どうすればもっとITへの投資を、有効に活用できるのかを考えて行きます。

 

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