災害に備える
以前、日本人は世界で最も生命保険への加入率が高いと書いた事がありましたが、生命保険というものは、いわば自分の生命を差し出した賭けです。保険金を受け取るときには自分はいなくなっていますが、家族には大きな安心を残せます。これは日本人が将来への得も知れぬ不安を常に抱えている事の表れなのかもしれません。かつて、日本は世界で一番貯蓄率が高い国民でした。低成長の結果現在では貯蓄率は分下がってしまっていますが、地震と台風という天災につねに見舞われてきた日本人の国民性なのだと思います。
一昨年の地震と原発事故は、改めて日本人にリスクとの向かい合い方を突きつけました。10mの堤防が決壊した。15mだったら大丈夫だった。たしかに結果としては、そうかもしれません。高すぎたと非難されてきた15mの堤防が3,000名の命を救いました。しかし、この国の全ての海岸線を15mの堤防で囲む事は現実的に不可能です。
日本のIT基盤は、常に天災の危険に晒されています。津波、台風、地震、そして噴火。世界の地震の20%が集まる日本でビジネスを進める以上、災害対策は避けては通れません。発電所が壊れれば、送電線が切れれば、補助発電施設が止まれば、ITは停止します。では海外なら大丈夫なのか。やはりネットワークの安全性の問題もあります。太平洋を横切るケーブルのおよそ半数が東北地震では被害を受けたとの調査がありました。
日本でビジネスを継続するためには、IT基盤に「保険をかける」必要があります。そのためには莫大なコストが必要です。しかし最近では様々な新しい技術が、少ないコストで効率的な災害対策を可能にしています。
津波に見舞われた東北の沿岸部では、堤防の倒壊が相次ぎました。実は堤防の下が土だった場所は堤防を超えた水で地面が掘られ、堤防が倒壊してしまった事が原因だったと、最近の調査では分かってきました。堤防の下がアスファルトの道路だった場所では堤防は倒壊せず、確かに水は超えてはしまったが、人々が避難できる時間を与えてくれたそうです。堤防の下をアスファルトで固める事は、コストも抑えられとても現実的な対策に思えます。
データセンターもまた、堅牢な安全性を実現する為には膨大な投資が必要になります。しかし、例えば最新の重複排除ストレージのアーキテクチャーを使う事で、バックアップのデータ量を大幅に削減して、遠隔地のデータセンターに短時間で低価格にデータ複製を行う事が可能になりました。
自社ですべてのBCPの基盤を持つことは、コスト的には非常に厳しいのも事実です。これらの投資は災害が来るまでは使われることのない資産です。例えば遠隔地にある企業同士、データセンターを相互利用する事などもまた、ひとつの現実的な対策ではないでしょうか。サーバーの高密度化・仮想化に伴い、どの企業のデータセンターにもおそらく余剰のスペースがあるかと思います。