愚直な取り組みで一歩一歩ブランディングする大地を守る会
大地を守る会は、有機農業を広めることをミッションに1975年に設立されたNGOである。始まりはNGOながら設立当初から、自立した事業により収益を確保し成長を続けてきており、ブランドを統一させるといった観点から1977年の2年後に作られた株式会社の方も同じ「大地を守る会」の社名にしている。創業者である藤田会長は、最近の言い方では社会的起業家であり、35年間陣頭指揮をとって、大地の会を年商160億、経常利益が1億~3億の組織を成長させてきた。
先日、藤田会長に2時間近くに渡り、インタビューをさせていただいたが、35年間の月日を掛けて築いてきた重みを感じる。
ブランディングについて多くの本が出版され、偉い先生方は様々な主張をされていて、勉強になることが多い。しかし、若干、違和感を感じる時もあり、それは、余りにもテクニック論に走りすぎている内容の場合である。実は、私自身、ブランディングの7割~8割が、当たり前のことを堅実に行うことではないかと思っているからである。
大地を守る会の歴史を、藤田会長から直接お聞きした内容をもとに掻い摘むと、もともと、学生運動をやっていて、卒業後、出版社に勤務。学生時代に考えていたものと実際の社会とのギャップを感じられていたという。ある医師に巡り合い農薬の話を聞き、自分でも農薬問題に関する小説を読むなどしているうちに、徐々にこの世界に入られたとのことだ。大学時代は観念的な世界であったので、農業に出会ったことで、上からでなく下から社会を見てみたいといった気持ちが発端とのことだ。
医師の紹介で、水戸の農業生産者と出会い話では、「強い農薬を使わないでいると、農協が虫食いキャベツ、トラック一杯2000円でしか買い取ってもらえなかった」という。そのため、農薬を使わないように、農家に働き掛けるのは大変だったとことだ。有機野菜を売るために、最初は、生協の知り合いに、野菜買ったくれるように頼みに行かれた。ところが、結局、出荷する値段が手間暇かけている分、農協から仕入れるより10円~20円高くなってしまう。生協からは、「産直でやって、どうして高くなってしまうのか?中間流通を抜いているのに・・」と言われ、他の生協へ行き、最後は、生協の本部間で行ってもダメだっという。
しかし、農家の人を説得して始めた以上、後に引けない。そのため、「自分達で売ろうか?」と、江東区の大島団地でゴザを敷いて、青空で野菜を売りだしたのが、大地を守る会の始まりだ。すると、私の団地でもやってほしいと、練馬区の団地、千駄ヶ谷と青空市が次々と広がっていった。昭和48年~50年 藤田会長が20代後半の頃である。
その後、農家の人が有機野菜を作っても不安にならないように、「絶対買うからね!と約束して、広い畑の中から、無農薬の畑を一反だけ作ってもらう。それが、売れることがわかると、もう一反作ってもらう・・といった地道で取り組みの繰り返しで徐々に有機野菜を作る農家を増やしていった。
農家に協力いただいても、売り先がないと回らない。1軒の農家を軌道に乗せるのに、80人の消費者を増やさないといけない。そのため、売りについては「豊作君」といった工夫した商品を出すなどで、需要と供給のバランスを取りながら発展させてきたのである。
会員の増やし方について質問すると、一番多いのが「既存会員からのクチコミや紹介」であるという。派手なプロモーションで会員を増やすのではないところも、大地を守る会らしさがある。さらに、クレーム対応も丁寧だ。クルミを使った加工食品に殻が入っていたり、生鮮品の中に青虫がいたりすると、感情的になって会員の方がクレームを言ってくるが、一件一件丁寧に対応する。
一般的には、有機野菜は高いといった思い込みがあるが、本当にそうだろうか?昨今の野菜の高騰を見ていると、私自身も実際に、大地を守る会から野菜のセットを購入してみたが、明らかに安いし、市販のスーパーとは比べ物にならない位新鮮だった。つまり、高騰しても、年間契約でやっているために、定額で販売していてかえって安いのである。また、定額だから、家計を預かる主婦としても月々の計画が立てやすい。
いずれにしても、以上のような一つ一つの愚直な取り組みが、大地を守る会をブランディングしていると感じる。
最後に、長年続けているキャンドルナイトを紹介する。毎年夏至の日に、大地を守る会が音頭をとって開催しているものである。
100万人のキャンドルナイトの目的は、ライフスタイルを変えることだ。キャンドルでスローな夜を過ごす時に、「なに食べる?」となる。その時に健康のためになり、環境にも負担が少ない有機野菜を知ってもらいたい思いで長年続けられているイベントだ。
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