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食品スーパーオオゼキは、業界の横綱!

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食品スーパー業界は、ご存じのように、薄利多売で利益率が低いのが常識になっている。そうした中で、経常利益率8%の驚異的な利益率をたたき出しているスーパーがある。世田谷本社に山の手や東急、小田急沿線に約30店舗を展開するスーパーオオゼキだ。イオン、イトーヨーカ堂といった大手のバイヤーが、こぞって見に行くことでも知られている。

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(2009年2月株式会社オオゼキ決算報告より抜粋)

関心はあったが、なかなか取材に行く機会はなかった。“百聞は一見に如かず”と、東京、大森店、下北沢店を見に行き、最終的に本部の本郷人事課長にもインタビューを行った。

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店に入ってみると、たくさんのお客様で驚かされた。まず、目にとまったのが、ビックリするくらい大きなPOPで迫力がある。

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いずれにしても、なぜ、高い利益率を実現しているかを整理してみたい。

1.キャッシュバック会員のデータ分析に基づくタイムマーチャンダイジング

試しに、50円を払ってキャッシュバック会員になったが、その際、渡された案内によると、キャッシュバックカード会員は、80万人を突破しており、キャッシュバック売上比率(%)88.3%である。

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キャッシュバック会員の比率が高いと、履歴から精度の高い販売予測に基づく仕入れができている。そして、この現金キャッシュバックの仕組みで、来店頻度を高めている。常連客中心の商売であれば、販売管理費率が低く抑えることができる。

実際、オオゼキが上場していた最後の決算資料においても、常連化比率が高い店舗ほど、利益が高くなっている。

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(2009年2月株式会社オオゼキ決算報告より抜粋)

滞在したのは、わずか1時間30分のだったが、商品の補充や入れ替えを行っていた。キャッシュバック会員の購買履歴やPOSデータを徹底的に研究し、時間帯や売場毎に何が売れているかの分析を行い、売場担当の判断で小まめに品揃えを変え、売れ残りを少なくしている。タイムマーチャンダイジングをやってるのだろう。

2.正社員比率7割だからできるきめ細かくて臨機応変な対応

さらに、現場社員が、「今、この人参お買い得ですよ!」と、お客様に声を掛けて、売りきっている。オオゼキでは、「1000万円仕入れてロス廃棄率は1万円弱で0.1%以下」だ。ロス廃棄率が低い要因は、臨機応変な現場社員の対応にある。多く仕入れてあまりそうになった商品を他の店舗に持っていくといった店舗間での商品流通を毎日、毎時行っており、大根一本でも車で持っていく。キャベツが傷ついたら、直ぐにカットして売る。

こうした対応は、前述のキャッシュバックカードの分析データに加え、天候やお客様の動向を見ながら、値引きの時間と率を部門の担当者が瞬時に決めることで実現している。一般的には、食品スーパーのロス廃棄率3~4%が平均と言われている中で驚異的な数字だ。

他のスーパーでは、セルフサービスでの買い物が基本であり、従業員がお客様とやり取りをしない。タイムサービスとして19時といった定時に値引き販売をするのは普通であるが、お客様とのやり取りがないと、全てを売り切ることはできない。しかし、オオゼキでは、正社員が7割だから、こうしたきめ細かい対応ができるのである。、パート社員の比率が高い業界にあっては驚くべき比率である。

3.売場担当者独自仕入れで、要望に応じ1点でも品揃え。品揃え数でも他店圧倒!

品揃えが多く、非常にバラエティーが飛んだ商品がたくさん置いてあるので、刺激的であり思わず買ってしまう。しかも、個性的なのは、オオゼキの各店舗は、全く意識をしていないように各店舗バラバラだ。店内に、たくさんいる社員の方に声を掛けると、嬉しそうに教えてくれる。また、「これ、もう少し安かったら、買うんだけど・・」といったお客様の声にも、応えようとする。 

入社まもない社員からベテランまで、築地や大田市場に行き、各店舗で自分の売場で扱う商品を、独自で仕入れる。

お客様からの要望があれば、1人1点からでも受け入れ、何があっても品揃えに加える。もし、どうしても仕入れられなければ競合店にでも買いに行くというからビックリである。“小さな個客”のニーズを大切にし、1店あたり他のスーパーの倍の平均1万8千点の品揃えを行い、トマトだけでも22種類置いてあるという。調味料など数列同じ商品ブランドが並ぶが、オオゼキでは1列だけだ。醤油だけで100種類以上、品揃えをしている店舗もあり、とても、数列は並べられないのである。

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品揃えは、生鮮食品が多い。加工食品は、セントラルバイイングが有利で大手には勝てない。そのため、生鮮食品を中心にして粗利が確保できるようにしていると思われる。 仕入れを各店の、しかも、それぞれの売場担当者が行うことで、値入ミックスが個店毎の来店客層に併せてできているので、きめ細かい対応ができるのである。具体的な数字はお聞きできなかったが、買物点数が多いと予想される。スーパーで扱う最寄品は、買い上げ点数は非常に重要だ。

そして、坪高率を意識してか、通常であれば陳列しないような足元に近いところまで陳列してある。ドンキホーテまでいかないが、最近の小売りの教科書にでているような広い通路ではなく結構狭い。

4.徹底したお客様視点からの店づくりと、柔軟な役割分担

以外と知られていないが、他の食品スーパーと違いレジは、店側を向いている。なぜかと言えば、お客様が買い物した品物を袋に詰める際、手間取っていたら、レジ担当の社員が、レジを離れて、直ぐにお客様のお手伝いができるようにしているからである。

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さらに、忙しくなると、石原坂社長がレジに立ったり、役員が駐輪場の自転車を整理することも珍しくないという。

実際、私がインタビューにお伺いした際も、ちょうどお忙しい時で、「石原坂社長も、昨日はレジに立っていた」と聞いてビックリした。

5.ドミナント出店と居抜き物件に出店

出店場所は、世田谷本社や山の手周辺など、比較的高所得者が住む所へ出店し、更に、成城石井よりも安く価格設定することにより、来店頻度を高めている。世田谷本社や山の手周辺などのドミナント出店し、物流コストも押さえている。

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(以上、株式会社 オオゼキHPより抜粋)

「売れ残りそうなダイコン1本を他の店舗に持っていく」といったことは、15分以内に行けるドミナント出店でないと難しい。

また、居抜き物件に出店することで、出店コストも抑えている。居抜き物件であれば、最低限の改装費で済むし、減価償却費、大屋との家賃交渉を行って安く抑えているのだろう。

5.オオゼキism.

最後に、以上のような独特の経営を貫いている根底には、「大関屋食品店」、わずか7.5坪の個人商店だったころ、創業者故佐藤達雄と妻正恵が交わした会話であり、ここにオオゼキの企業理念の全てが凝縮されている。この会話はあまりにも有名である。

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「商いの心」
・ 本当にお客様が喜ぶサービスを提供する
「喜客」の精神
・ 「お客様第一主義」の徹底
・ 「顧客感動」
  +
  自分にしかできないチャレンジ精神
   「個店主義」
 お客様一人一人のわがままに徹底的に応える

(以上、株式会社 オオゼキHPより抜粋)

大手スーパーが、生産者と直接交渉し、強いバイイングパワーで安くたたいているのと異なり、東京の大田市場での仕入れを行いながら、これだけの利益を実現しているスーパーオオゼキは、チェーンストアの呪縛から脱した新しいマネジメントの可能性を教えてくれる。

もともと、おごりが出てはいけないといった意味合いで社名をオオゼキにしたということである。しかし、今の食品スーパーの業界にあって、30店舗ほどの規模ではあるが、まさしく、大関ではなく、食品スーパーの横綱だと感じる。

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