米国司法省によるアップルと出版五社に対する裁判の行方
<序論>
2012年4月11日、米国司法省がアップルと大手出版五社を談合により電子書籍の価格を吊り上げたとして独占禁止法の疑いでニューヨーク連邦裁判所に訴えました。(この内出版三社は直ぐ和解しました。)同時に16の州も損害賠償を支払う気のない大手出版三社とアップルを訴え、損害賠償を請求しています。
しかしこの裁判に関しては米国内にも賛否両論があり、その行方はどうなるか全く判りません。他の注目点の一つはオープン派のグーグルの存在感が電子書籍市場で全く無い点が同時に明らかになったと言う事でしょう。(各種の記事を合わせれば電子書籍市場のシェアは現在、アマゾンが約60%、バーンズ&ノーブルが約25%、アップルが10%程度と見られています。)
同時にこの裁判の帰趨はポストパソコン時代のスマート機器(情報家電の進化系)と情報消費財産業(電子書籍、音楽、テレビ・映画、ゲームなどのデジタルコンテンツ産業)の今後の在り方を大きく規定するかもしれません。
★★DOJ is likely to lose e-book antitrust suit targeting Apple
★★ アップルを米司法省が提訴 電子書籍の価格操作した疑い
★★購入者への払い戻しを求める訴訟も--アップルらによる電子書籍の価格談合で
<ポストパソコン時代における個人コンピューティングの新たな形>
スマート機器に関しては「新たなパーソナル・コンピューティングの形」であり、同時に「所有から非所有への移行」、「もの支配論理からサービス支配論理」へと移行する「イノベーションの新たな形」など少しずつ角度の異なる色々な見方があります。
グーグルの2012年第一四半期における素晴らしい決算への質問も殆ど姿が見えない「ポストパソコン時代の稼ぎ」に集中しています。アンドロイドOSのスマートフォンは先行指標として認めるとしても、実際の稼ぎは殆どゼロじゃないか見たいなトーンですね。
スマート機器における勝ち組の特徴は「機器の上に閉鎖的且つエレガントなサービスとエコシステムの仕組み」を作り上げた企業です。この基準で考えれば、勝ち組はアップルとアマゾン、負け組は日本の家電メーカーやモトローラ、デルであり、グーグルプレイも負け組です。韓国メーカーは必至でアップルやアマゾンを追いかけている構図です。
★★ Google still having to prove it’s ready for mobile
(出所:米国CNET)
<司法省の裁判は勝ち組同士の争い>
さて米国司法省がその訴状の中で明確にしているようにアマゾン(電子書籍)とアップル(音楽・映像)はデジタルコンテンツのビジネスを二分する勝ち組みです。共にスマート機器の後ろに素晴らしいサービスの仕組み(電子店舗とパーソナルクラウドサービスなど)を整えています。
アマゾンは仮想店舗での紙書籍の販売の歴史の中で出版業界と信頼関係を作り上げ、イノベーションのジレンマに陥ることなく、電子書籍ビジネスの市場を立ち上げました。これはサービスとエコシステム重視のたまものです。ポストパソコン時代を逸早く感じ取ったアマゾンは、キンドルと言うプライベートブランド機器を開発して囲い込みサービスを展開しました。
一方のアップルが凄いのは全く土地勘のない電子書籍のビジネス参入に対して、代理店モデルを提案して出版大手五社とのパートナー契約を締結した姿勢です。グーグルがグーグルテレビの開発において地上波全社に阻止されたのと大違いです。これがサービス支配論理=イノベーションの差と言うことになります。ましてやこの点を理解していない国内メーカーは、それ以前の段階でスマートフォンの市場を米韓勢に6割弱とられ、スマートテレビでもCES2012の評価でも敗北し、テレビ全社が赤字となりました。
<ヤマハのピアノ事業を思いだそう>
では国内のメーカーにスマート機器ビジネスで稼ぐのは不可能でしょうか?
面白い事にアナログ機器の時代にイノベーションに成功した事例にヤマハのピアノビジネスがあります。
戦後一般家庭で広く流行したピアノと言う楽器を普及するために、ヤマハはピアノが学習できる音楽教室を全国展開し、合歓の郷でコンテストまで実施していました。これはどう見てもアップルの電子店舗=アイチューンズやアイクラウドと同じサービス支配論理であり、同じ視点でのイノベーション=ビジネスモデルです。ピアノと言う機器の上に載るサービスのエレガントな姿ですね。
どうやら司法省の裁判が日本企業に教えるヒントはこのあたりにあると思いますが如何でしょうか。