「ビン・ラディン殺害情報ツイート」の拡散に貢献した、2つの条件
先日の記事でもお伝えしたように、「ビン・ラディン殺害」の公式発表がオバマ大統領によってなされる直前、ドナルド・ラムズフェルド前国防総長官の補佐官キース・アーバーン氏がこの情報をツイートしていました。それが瞬く間にTwitter上に広まり、公式発表以前から各種メディアで発表されることになったわけですが、実はリークの直前、アーバーン氏のアカウントをフォローしていたのは1,000人程度に過ぎません(現在は7,000人超)。彼のアカウントには、自身がラムズフェルド氏の"Chief of Staff"であることが記載されており、彼を直接知らなくてもある程度は信頼できる人物であると予測できます(認証済みアカウントではないのでまったくのニセ情報という可能性は否定できませんが)。とはいえ僅かなフォロワーしか持たない彼のツイートが、いかにして広範囲に拡散することとなったのか――詳細な調査結果が報告されています:
■ Breaking Bin Laden: visualizing the power of a single tweet (SocialFlow Company Blog)
まずは全体の状況と、この調査の内容に関する説明から:
On the evening of May 1st, people using Twitter figured out that Osama Bin-Laden had been killed over an hour before the formal White House announcement. Within minutes of hearing about the emergency presidential address, Twitter users were actively working to figure out the puzzle. 38 minutes after the announcement about Obama’s address, a certain tweet confirming speculations posted by @keithurbahn, Chief of Staff at the office of Donald Rumsfeld, started spreading like wildfire. Keith was not first to speculate that the address is related to Bin-Laden, nor did he have a particularly influential presence on Twitter, with a following of 1,016 and a casual digital portrayal. But the right network effects came into play, and enabled his post to generate enough trust amongst his followers, their followers, and so on.
At SocialFlow we analyzed 14.8 million public Tweets, and bitly links, posted between news about an unplanned presidential address (9:46 p.m. EST) and Obama’s address (11:30 p.m. EST) to see how dynamics of rumor creation played out during those critical hours on Twitter.
5月1日の夜、ホワイトハウスから公式発表が行われる1時間以上前に、Twitterユーザーたちはウサマ・ビン・ラディンが殺害されたことを把握していた。大統領が緊急演説を行うと発表されてから数分のうちに、彼らは何が発表されるのかを探ろうと熱心に活動していたのである。演説実施の発表から38分後、ドナルド・ラムズフェルド事務所の主席補佐官であるキース・アーバーンがビン・ラディン殺害を推測するツイートを投稿し、これが野火のように広まった。キースは演説がビン・ラディン絡みであることを推測した最初の人物ではなく、当時のフォロワーは1,016人だけであり、Twitter上で特別影響力があるというわけでもなかった。しかし適切なネットワーク効果が生じた結果、彼のフォロワー、そのフォロワー、そのフォロワーというように信頼感が生まれて行ったのである。
SocialFlowでは、オバマ大統領が演説を行うと発表された午後9時46分(東部標準時間)から、実際に演説が行われた午後11時30分までに投稿された1,480万件の公開ツイート、bit.lyのリンクを分析し、こうした重要な局面において、Twitter上でどのようにウワサが発生するのかを探った。
それでは「適切なネットワーク効果」とはどのようなものだったのか。記事内では2つのポイントが指摘されているのですが、最初がリークが投じられたタイミングです。上記の引用でも整理されている通り、オバマ大統領の緊急演説はその約2時間前に実施が発表され、多くの報道関係者が「オバマは何を話すのか?」を探っていました。言うなればTwitter全体が警戒態勢に入っていたようなもので、些細な情報でも注目されやすい状態にあったと考えられるでしょう。
そして2つめのポイントは、いわゆる「ハブ」となる人物の存在です。実はアーバーン氏のツイートをいちはやくリツイートした人物の中に、ニューヨークタイムズ紙の記者が含まれていたとのこと:
The rate at which Keith’s message spread was staggering. Within a minute, more than 80 people had already reposted the message, including the NYTimes reporter Brian Stelter. Within two minutes, over 300 reactions to the original post were spreading through the network. These numbers represent the people who either retweeted Keith’s original message, or posted a reaction to it. The actual number of impressions (people who saw Keith’s message in their stream but didn’t repost it) is substantially higher.
キースの投稿が拡散するスピードは非常に速かった。1分間で80人以上の人々がキースのツイートを再投稿したのだが、その中にニューヨークタイムズ紙の記者、ブライアン・ステルターがいる。さらに2分間で300以上の反応が元のツイートに対して行われ、ネットワーク上を拡散して行った。これらの人々の中には、キースのツイートをリツイートしたユーザー、またキースに対する反応を投稿したユーザーが含まれる。実際のインプレッション数(キースの発言を自身のストリーム中で目にしたが、再投稿はしなかった人々)はさらに多い。
このブライアン・ステルター(@brianstelter)という人物、ニューヨークタイムズ記者という肩書きだけでなく、フォロワー数が5万人超・Twitter認証済みアカウントということで影響力・信頼性ともに十分なユーザーです。彼がアーバーン氏のツイートに言及したことにより、この情報が彼のネットワークを通じて拡散する可能性を高めただけでなく、その信頼性をも高めたと言えるでしょう:
「ラムズフェルド前国防総長官の主席補佐官であるキース・アーバーンが、次のようにツイートしている:『信頼できる人物から、ウサマ・ビン・ラディンを殺害したとの情報を得た』」
こうして適切なタイミングで投稿され、適切な人物によって拾われたことにより、アーバーン氏のツイートがオバマ大統領が演説するよりも早く「ビン・ラディン死亡」のニュースを伝える結果となったと言えるでしょう。
ちょうど日本でも震災の直後、多くのフォロワーを持つ著名人によってリツイートされることで、相対的に少ないフォロワー/低い信頼性(※必ずしも疑わしいという意味ではありません)しか持たないユーザーから発せられた震災関連情報が広範囲・急速に広まるという状況が生まれていました。特にこのような重大局面においては、Twitterは通常よりもさらに特定の情報が広まりやすい状況にあると言えるのかもしれません。
その意味で大きな事件があった後、あるいは何らかの理由で世論の緊張感が高まっている状況では、「ハブ」的な立場にあるユーザーにはより慎重に情報を精査することが求められるのではないでしょうか。少なくとも自らの言葉が、通常以上に影響力・到達力を持ち得るものだということを、十分に認識しておく必要があるでしょう。今回の一件では結果的に正しい情報が拡散することになりましたが、一歩間違えばデマ的なものが拡散していた可能性を、SocialFlowの調査結果は示しているのではないかと思います。
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