「ノイズ」のない時代
遅ればせながら、英エコノミスト誌の2010年2月27日号に掲載されたスペシャルレポート”Managing Information”がなかなかの内容でした。「情報化時代」と呼ばれるようになって久しいですが、改めて現代社会が「情報」とどのように付き合い、どのようなリスクとメリットが生まれているかについて丁寧に考察されています。ネット上でも無料で読めるようになっていますので、お時間のある方は確認してみて下さい(かなり量があります):
■ A special report on managing information (The Economist)
(※全9ページ、各ページの下部にある”next article”から次の記事を読むことができます)
さてこのレポートは、最初の方でこんな宣言をしています:
Epistemologically speaking, information is made up of a collection of data and knowledge is made up of different strands of information. But this special report uses “data” and “information” interchangeably because, as it will argue, the two are increasingly difficult to tell apart. Given enough raw data, today’s algorithms and powerful computers can reveal new insights that would previously have remained hidden.
認識論的に見れば、情報(information)はデータの集合体であり、知識(knowledge)は情報を束ねたものである。しかしこのレポートでは、「データ」と「情報」を同じ意味で使っている。その理由は、後述されるように、両者を区別するのがますます難しくなっているという点にある。十分な量の生データが与えられれば、現代のアルゴリズムと強力なコンピュータによって、その中から以前には見出すことのできなかった知見を発見することができるのである。
確かに、一見何の価値もないように見えるデータの中から、一定の法則や傾向を見出すというというのはマーケティングやITに関わっている方々なら馴染み深い話でしょう。例えばTwitterなども「ツイートのほとんどは意味のないつぶやき」などと揶揄されることが多いですが、大量のツイートから世間で流行っていることを分析したり、ある話題に対する世間の態度を割り出したりなどといったことが行われるようになっています。どこまでがノイズで、どこからがシグナルなのか、区別することはあまり意味のない行為なのかもしれません。いやむしろ、ノイズだと思って切って捨てるのは潜在的な価値を無にする行為だとも言えるのでしょう。
エコノミストのレポートでは、こんな言葉も引用されています:
“It is a very sad thing that nowadays there is so little useless information,” quipped Oscar Wilde in 1894.
1894年、オスカー・ワイルドはこんな皮肉を述べている。「今日、無駄な情報がほとんどないというのは悲しむべきことだ。」
オスカー・ワイルドがネット時代を予測していたとは思えませんが、あらゆる情報=データを何らかの形で役立てられるという状況は、有益でありつつもある意味で恐ろしいことなのかもしれませんね。
とはいえ、どれほどデータが存在していても、それがデジタルで処理できる状態になっていなければ意味がありません。従って今日重要なのは、あるデータがネット/デジタル世界の上に「存在しているか」「存在していないか」という区別なのではないでしょうか。また仮にデジタルデータとしてネット上に存在していたとしても、出来る限り多くの人々の目に触れられるようになっていなければ、そのデータは存在しないも同然でしょう。どんなに有益なデータでも、デジタルで利用可能な状態になっていなければ無価値であり、逆に一見無価値なデータから有益な情報が生み出される――暴論かもしれませんが、それがネット時代なのではないかと思います。
ちょうど昨夜、NHKで毎年恒例の放送記念日特集が行われていましたが、新聞・テレビのトップがネットを敵視・軽視するような態度がまだ少し見られたことが残念でした。「ノイズのない時代」には、両者が補完し合うことこそがベストな道だと思うのですが、日本がその状態に至るまではまだ少し時間がかかるのかもしれません。
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