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渋谷とテヘランと Twitter と

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先週の金曜日、デジタルハリウッド渋谷校で開催されたAMNブロガー勉強会に参加してきました。Going My Way の kengo さん、そしてお馴染み ITmedia の岡田有花記者が講師となって、ネットでの文章術を披露してくれるという内容。「kengo さんは記事のストックが200本以上あるので1年ぐらい更新には困らない」「岡田有花さんはタイトル決めに命を賭けている」などなど、さすがだなーと感心することしきりの一夜でした。

で、話はイベント内容とは全く関係なくなってしまうのですが、実はその夜非常に驚かされたことがあります。それは会場内の Twitter ユーザー率の高さ。kengo さんが Twitter の速報性について触れられた際、「ところで皆さん Twitter 使っていますか?」と会場に挙手を求めたところ、ほぼ全員の手が挙がるではないですか。最近ようやく日本の大手メディアでも言及されるようになっているとはいえ、やはり職場等では「何それ?」と言われることがまだまだ多い Twitter。それが100%近い普及率だったのですから、思わずおおっと驚いてしまいました。

そうなると当然、Twitter 上での実況中継(いわゆる"tsudaる")が白熱します。僕も含めて何人かの方々が中継され、さらには会場にいない方々も参加してコメントを被せるという状態になり、リアルとバーチャルの二局面で同時にイベントが進行するような様子となりました。そんな中、どなたの発言だったかすっかり見落としてしまったのですが、こんなコメントをされた方がいらっしゃいます:

同じイベントでも、参加者によって反応するポイントが違って面白い。

例えば岡田有花さんの発言の中に、A・B・Cという3つのメッセージがあったとします。僕が「A」という部分を最も重要だと考え、それを Twitter に書き込んだとしても、他に中継されている人々が同様にふるまうとは限りません。「A」を無視して「B」または「C」を書き込む人がいるかもしれませんし、逆に「Aという意見は間違っている」と感じる人や、「Aという発言を僕はDという意味に解釈した」とコメントする人が出てくる可能性もあるでしょう。個々の発言だけを見て「どれが一番正しいか」などと決めることはあまり意味がなく、むしろそういった多様な発言を通じて全体が把握できることの方が、Twitter というコミュニケーションツールの価値なのではないでしょうか。もちろんその価値を手にするためには、あるイベントを中継するユーザーの数がある程度多くなくてはならず、また分散している発言をまとめるような仕組み(キーワードからトレンドを抽出するサービスや、ハッシュタグのような検索をしやすくする工夫など)が必要となりますが。

最近 Twitter 界では、ある非常に重要な出来事が起こりました。ご存知の方も多いと思いますが、イランの首都テヘランで発生した反大統領派抗議活動の中で、Twitter が情報発信や連絡用に大活躍したというもの。さらにはその重要性を鑑みた米国務省が、Twitter に対して予定されていたメンテナンス時間を(抗議活動の妨げにならないように)移動させるように命じる、という事態にまで至っています:

Twitter、イラン問題に配慮してメンテナンス時間を変更 (ITmedia エンタープライズ)

ここで発生した反大統領派による情報発信は西側メディアにとっても貴重な情報源となり、「既存メディアは Twitter 上の(一般人による)情報発信とどう付き合うべきか」という議論が再熱しているのですが、New York Times でこんな意見が出されています:

Twitter on the Barricades: Six Lessons Learned (New York Times)

“The qualities that make Twitter seem inane and half-baked are what makes it so powerful,” says Jonathan Zittrain, a Harvard law professor who is an expert on the Internet. That is, tweets by their nature seem trivial, with little that is original or menacing. Even Twitter accounts seen as promoting the protest movement in Iran are largely a series of links to photographs hosted on other sites or brief updates on strategy. Each update may not be important. Collectively, however, the tweets can create a personality or environment that reflects the emotions of the moment and helps drive opinion.

インターネットの専門家で、ハーバード大学の法学教授である Jonathan Zittrain は次のように述べている。「Twitter が馬鹿げていて、未熟なもののように見せている品質(の低さ)は、実は Twitter を非常に強力なものとしている。」つまりこういうことだ。Twitter 上の発言は本質的にささいで、無害なものに見えるかもしれない。イランでの抗議活動を先導している Twitter アカウントも、書込みのほとんどが他のサイト上にある写真へのリンクだったり、戦略についての簡単なアップデートを行うものである。個々の発言は重要ではないかもしれない。しかし個々の発言が集まると、その瞬間の感情を反映したひとつの人格や環境のようなものを形成し、世論を動かすのである。

イベントのレポートと、政治的な抗議活動。状況も目的もまったく異なりますが、この2つの事例は「Twitter 上の発言を個別に切り離して考えるのではなく、全体を捉える」ことの重要性を示しているのではないでしょうか。もちろん金言・格言のように、1つのセンテンスに非常に力のあるメッセージが込められるという場合もあると思います。しかしだからといってそれ以外の「駄文」や「つぶやき」を無視してしまっては、失われてしまうものも多いでしょう。

大げさに言えば、Twitter は個人のつぶやきを書き込むツールであると同時に、集団によるコラボレーション型情報発信を可能にするツールなのかもしれません。今後、Twitter 検索や「buzztter」「ふぁぼったー」のようなトレンド把握ツールが充実し、またハッシュタグのような集団行動を見えやすくしようという文化が定着することで、Twitter の「集合的情報発信ツール」としての側面がクローズアップされてくるのではないでしょうか。少なくとも今回のブロガーイベントのような場面では、複数の実況中継者とコメンテーターが登場して、一人では気づかなかったような側面にまで光が当たるというようなことが増えてくるように思います。

さて、ブロガー勉強会に全然関係のない内容になってしまったので、最後にちゃんと(?)勉強会のレポートを書いている方々を紹介するブログパーツを貼っておきましょう。いや、本当にお二方の文章術は参考になりましたよ。ありがとうございました。

【○年前の今日の記事】

「この場所に来た人は、こんな場所にも行っています」 (2008年6月22日)
最適すぎてもダメ (2007年6月22日)
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