オルタナティブ・ブログ > シロクマ日報 >

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

【書評】マーケティングとPRの実践ネット戦略

»

日経BP社様から、『マーケティングとPRの実践ネット戦略』をご献本いただきました。読み終えるのが遅くなってしまいましたが、紹介も兼ねて書評を記しておきたいと思います。

本書の原題は"The New Rules of Marketing & PR"。もともとPDFファイルで公開されていたものが人気を博し、2007年に書籍としてまとめられたものです。著者のデビッド・マーマン・スコット氏(余談ですが、ちゃんとミドルネームまで記してあるのがポイント――理由は本書に)は、オンラインでのPR活動に長く携ってこられた方で、ブログや動画共有サイトといった存在がPRやマーケティングをどのように変えてきているのか、文字通り「新しいルール」を本書で模索しています。カバーされている領域は幅広く、ブログだけでなくポッドキャスティング、Wiki、SEO、さらに日本じゃ誰も知らないようなスクイドゥ(Squidoo、「パーミッションマーケティング」で有名な Seth Godin 氏が2005年に立ち上げたポータル構築サービス)まで解説されているほど。また邦題に「実践」と付けられているように、単に新しい環境を描くだけでなく、その中でどのように行動すべきかすぐ行動に移せるようなアドバイスを行ってくれています。

ただ若干残念なのは、原著の発表が2007年だったこともあって、取り上げられている事例が2006年前後のものが中心であること。流石にこの分野で3年のタイムラグは大きく、今ではもう当たり前のようになってしまった例も紹介されており、詳しい方であれば「どっかで聞いたような話だなぁ」と感じることが多いかもしれません。また例えば以前からご紹介している『グランズウェル』のように、類似書も多く出版されるようになってきており、「新しいルール」と言いつつ既に常識化しつつある部分もあります。2007年にすぐに邦訳が出ていればなぁ、と感じずにはいられません。

しかしそのことが、本書で書かれているアドバイスの価値を損なうものではありません。多くの企業にとっては実践できていないことばかりであり、その意味で本書はまだまだ「新しいルール」であり続けているでしょう。また矛盾するように感じられるかもしれませんが、「新しい」と言いつつPRの基本(売り込む相手のことをよく知り、彼らの言葉で語りかけるなど)を押さえた上での行動が示唆されており、初めてウェブを活用しようという組織でも受け入れやすい内容になっていると思います。

例えば自社ウェブサイトの内容を考える際の姿勢として、本書ではこんなアドバイスが掲載されています:

見込み客が検索エンジンやディレクトリを利用してあなたのサイトを訪れたり、別のサイトからリンクをたどってやって来たり、マーケティングキャンペーンに反応した時はチャンスだ。相手が商品に興味を示した時であり、見込み客に狙いをつけたメッセージを届ける絶好のタイミングなのだ。ところが、マーケッターはしばしばこのチャンスを見逃している。人々は広告を探してウェブサイトを訪れたのではない。コンテンツを求めて旅をしているのだ。彼らが必要とする情報を提供することで、顧客と長く、メリットのある関係を構築することができる。編集長と出版社が絶えず読者を気にしているように、あなたもそうするべきだ。

このように、決して「とにかく目を引くようなタイトルを付けろ」「バイラルを引き起こすような過激な内容にしろ」的なアドバイスは登場しません。オンラインマーケティングだけでなく、マーケティング/PRの基本にも忠実であり、最近カンブリア爆発的な多様化を見せる売り込みテクニックに辟易されている方には原点に立ち返れる効果があるかも。

「ブロガーなんてオタクの集まり。注意を払う必要なんてこれっぽちもない」――ITmedia 読者層の方々なら、流石にここまで考えの古い上司を持たれてはいないと思いますが。万が一そんな上司に困っているという場合、本書が良い入門編として紹介できるかもしれません。前述の通り、すぐに行動に移せるレベルまでブレークダウンされたアドバイスが掲載されていますから、はじめの一歩として活躍してくれる一冊だと思いますよ。

Comment(3)