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「患者学」の必要性

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「名医」のウソ―病院で損をしないために』を読了。最近妻が手術したこともあって、医療問題に興味が向いており、何冊か関連本を買ってきた中の1つです。多くの本が「医師・医療体制側の問題点」を指摘しているのに対して、本書は「患者側の問題点」を指摘するというスタンスを取っており、独自の切り口で参考になるところが多い本でした。

「患者側の問題」と言ってしまうと、医者擁護の本と思われてしまうかもしれませんが、別に医療機関の側に罪は無いと言っている本ではありません。もちろん患者のことを考えて行動しない医師は問題なのですが、そういった医師を避けたり、あるいは医師の能力を最大限に引き出すような努力も患者の側に必要ではないか――ではそのためにどうすれば良いか、を解説してくれます。

例えば薬の問題。今では「お薬手帳」(過去に飲んだ薬の記録を残しておけるノート)が一般的になってきましたが、当然ながら現在・過去にどんな薬を飲んできたのか分からなければ、医師にしても正しい対応をすることが難しくなるわけですね。ところが……僕自身よくやってしまうのですが、「今までどんな薬を処方してもらったのですか?」と聞かれて名前が思い出せず、「えーっとホラ、キャップが赤い塗り薬です」とか答えてしまいます。ところが世の中には(ある1つの病気に対するものと限定しても)無数の薬が存在しており、しかも医師は成分や効果でその薬を処方するのですから、薬がどんなパッケージに入っているかなど分からない、と。それはまるで、「チョコレート買ってきてよ。ホラ、丸くて美味しいやつ」と買い物を頼むようなものだ、と本書は喩えています。

しかし薬は客観的なデータを「お薬手帳」などに記録しておけば良いのですから、まだ対応は簡単です。もっと問題なのは、医師との言葉でのコミュニケーション。病気を治すために病院に行くのだから、「“どうして欲しいか”を口に出すなど簡単なことだ」と思われてしまうかもしれませんが、これは意外に難しいことであると指摘されています:

患者の勘違い - 新書・編集者のことば(新潮社)

また、医師との話し方ひとつで、不安が解消されることもあります。本書で紹介した例では、頭痛の患者Aさんが「親戚が脳梗塞だったから、もしかして自分も……」と不安を抱えながら病院を訪れます。でも、それを口にすると笑われるかと思ったので、診察中言いませんでした。

医師のほうは簡単に「風邪ですよ」と診断。実際、数日で治ったので風邪だったのでしょうが、Aさんは漠然とした不安を抱えてその間過ごすことになったのです。

こんなとき、どうすればよかったのか?

Aさんは、「心配しすぎ」と笑われることを怖れずに、きちんと「親戚が脳梗塞だったんですが、この頭痛は関係ないでしょうか?」と不安をぶつけてみるべきだったのです。そうすれば医者は「脳梗塞と今の症状はまったく無いから関係ありません」と断言したでしょう。それで数日間の不安は味わわなくて済んだはずです。

このように「不安を口にする」ことができない患者さんが意外と多い、と現役の医師である著者は言います。そして、「不安を口にする」ことを実行するだけでかなりの不安は取り除けるはずだ、と。

確かに「本当は○○という病気ではないのか」と思いながら、それは口には出さずに診断を受ける、ということはありますよね。また自分自身の経験で恐縮ですが、僕は強い偏頭痛持ちで、仕事中に吐いて病院に担ぎ込まれたことがあります。それでよく病院に行くのですが、「なんだか今回の痛みはいつもと違う気がする。脳の検査を受けた方が良いのではないか」という不安をどこかで抱えていて、「偏頭痛ですので薬出しておきます」と言われても安心できません。そんな不安があるのなら、ハッキリと口に出してしまった方が良い、それが適切な治療につながることもあるし、対応の仕方でその医師が信頼できるかどうかが分かると本書は説きます。実際僕も、最近「これって偏頭痛以外の病気の可能性はありますかね?」と思い切って尋ねたことがあり、結局何でもなかったのですが不安が消えて良かったと感じたことがありました。

こうした指摘のまとめとして、本書には「医者はエスパーや魔法使いの類ではない」という言葉が登場します。ともすれば、私たちは「ブラックジャック」や「スーパードクターK」のような医者がさっそうと登場して、患者が何もしなくても奇跡的に病気を治してくれるなどと期待してしまいます。しかし当然ながら、医者は医者。専門外のことはできないし、そもそも患者が正しい情報をくれなければ話にならない。医者に「もっとしっかりしろ!」と言う一方で、患者自身も努力するべきだ――というのが本書のメッセージだと感じました。

経営の世界でも、「リーダーシップ」に対して「フォロワーシップ」を考えるというのが一般化してきています。良い組織は良いリーダーがつくると思われがちだけれど、リーダーに従う部下の側にも適切な行動が必要だ、というわけですね。『「名医」のウソ』はこれを医者と患者の関係に当てはめたもので、言うなれば「患者学」とでも呼ぶべきものをつくろうと訴えているようにも感じました。少なくとも医療問題は医療サービスの提供者の側だけでなく、利用者の側にも目を向けなければ解決は難しい、と実感した次第です。

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