オルタナティブ・ブログ > シロクマ日報 >

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

「戦略の計画書を飛行機に忘れてきても、たいしたことはないだろう」

»

質問。あなたの会社の社長が、「いやー出張に行ったらさ、機内に戦略の計画書を忘れてきちゃったよ」と言ったらどうするでしょうか。戦略がライバルに漏れるだろうから、会社の先行きは暗いと感じますか?そもそもそんな忘れん坊の社長の下では働きたくなくなるでしょうか?僕は大事な旅行でも余裕でパスポートを忘れて空港に行ってしまうぐらいなので、社長がそんな人でも文句は言えないのですが……。

「戦略が流出してしまうので一大事」と思われた方、ちょっと以下の引用を読んでみて下さい。最近ご紹介を続けている、『事実に基づいた経営』からの一節です:

しかし、ある企業の戦略を理解することは、それほど大きな問題とは思われない。ほとんどの企業はアニュアルレポートや10K(SEC[証券取引委員会]に提出する報告書)で自社の戦略は何か、時にはその戦略を実現するステップまで公表している。それでも足りなければ、競合他社が何をしており、自社は何をするべきかアドバイスしてくれる戦略コンサルティング会社は山ほどある。だから、「戦略=何をするべきか」を明らかにすることは難しくない。

コンサルティング会社にとっては痛し痒しといった言葉ですが(笑)、実際のところ、いまは個人ブログ等でもプロ顔負けの企業分析が行われている時代です。しかも無料で、分析の良し悪しまで(記事の被ブックマーク数や、コメント等によって)皆が判断してくれます。もちろんどこかに秘密の金鉱山があって、その場所を掘ることが戦略であるならば情報流出は致命的ですが、多くの場合は「企業が何をしているか」を見ることで(その企業が秘密だと思っている)金鉱山を探ることは可能でしょう。

さらに上記の文章はこう続きます:

この会長が言ったとおり、成功のカギで真似が難しいのは、何をするか(戦略の決定)ではなく、それを実行する能力なのだ。だからこそ、大変な成功を収めているウェルズ・ファーゴ銀行のCEO、リチャード・コバセヴィッチは戦略よりも効率的な運営(正しい実行)のできる企業文化と能力のほうが企業の成功には大切だと繰り返し説いているのである。何年も前に彼はこう言っている。「戦略の計画書を飛行機に忘れてきても、たいしたことはないだろう。誰もそれを実行できないからだ。われわれの成功の源は計画ではなく実行にあるのだ」

繰り返しますが、もちろん他社に隠しておかなければいけない情報はあります。例えば小売業において、明日の目玉商品の価格をライバル企業に明かしてしまったら大問題になるでしょう。しかしその場合でも、ある企業がどんなセグメントを狙っているかは明確であり、ルイ・ヴィトンのバッグがいくらか知らなくても彼らが富裕層をターゲットにしているのは分かります。逆に見ただけで分からないような戦略を採用していては、それを実行する社員にも会社の意図がよく分からず、狙いを実現するのは難しくなるでしょう。その意味で、戦略は重要だけれど、それをどう隠し通すかよりもどう実施するかで悩むべきものなのだと思います。

昨日のエントリで「僕らが当たり前と思っているやり方でも、農業に応用することで大きな価値を生み出すかも」というようなことを書きましたが、「それを言っちゃうなんてもったいない」というコメントをいただきました。確かに「ああ、これを導入したら上手く行くかも」というアイデアは、人に黙ってコッソリ実行するべきなのかもしれません。しかし、例えば僕が何か思いついてもすぐに農業を始められないように、同じことを思いついていても実行できない人は無数にいるはずです。さらに「農業に携っているけど、新しいことを始める資金がない」「資金はあるけど地元とのしがらみがあって」など様々な理由で断念する人がいるでしょう。その意味で、新しいアイデア(もっと正確に言えば、自分が知りうる範囲を見ただけで「新しい」などとおこがましくも信じ込んでしまっているアイデア)を披露することはさほど価値のあることではなく、本当に価値があるのは実現までのステップを着実に進めることなのだと感じています。

Comment(0)