【書評】"Grown Up Digital"
"Grown Up Digital: How the Net Generation Is Changing Your World "を読了しました。先日のエントリでも少し触れましたが、『ウィキノミクス 』の著者の一人であるドン・タプスコット氏の最新刊で、「ネットジェネレーション(物心ついてからずっとデジタル技術に囲まれて成長した世代、具体的には11歳から31歳まで)」が何を考え、どう行動しているかを分析している本。考察は主に米国内のネットジェネレーションを対象に行われていますが、世界の主要国で行ったアンケート等もベースにしており、日本のネットジェネレーションを理解する上でも十分役に立ちます(むしろ過保護化する親や「ネットいじめ」の表面化など、日本にも共通する現象の多さに気づくはず)。邦訳がどこから出版されるかは分かりませんが、2009年必読の一冊になることは間違いないでしょう。
本書は3部構成になっており、第1部はネットジェネレーションがどのような性格・行動特性を有している人々か、第2部は彼らが教育・仕事・消費・家庭それぞれの場面をどう変えつつあるか、第3部は政治・社会をどう変えつつあるかを解説しています。特に第2部は『ウィキノミクス』を彷彿とさせるような事例が数多く紹介されており、ビジネスにすぐに役立てられる方も多いのではないでしょうか。また消費者としてのネットジェネレーションにしか接点のない方も、彼らが家庭や地域社会といった場面でどのような行動を取っているかを知ることで、より総合的な視点を得られると思います。
ただこの本は、「ネットジェネレーションにいかにモノを売るか」「ネットジェネレーションをどのように自社のビジネスに役立てるか」といったテクニックだけを論じるものではありません。ネットジェネレーションは文字通り社会全体のあり方を変えつつあり、彼らに合わせた仕組みを導入できるかどうかは、企業・組織・社会の短期的な業績だけでなく存続そのものに影響を及ぼすのだというのがより大きなメッセージになっています。また日本と同様、米国でも「いまの若い世代は問題のある連中ばっかりだ」的な議論が横行しているようですが、ネットジェネレーションの考え方や行動は決して愚かなものではなく、彼らに合わせることがいかに理想的かということも論じられます(この部分、若干楽観的過ぎると感じるかもしれませんが)。
例えば本書では、「若い世代は集中力がないというのは本当か」という議論が行われているのですが、決してそうとも限らないと述べられた上で、こんな視点が提供されています:
So why do some Net Geners seem to have attention deficit disorder in class? Isn't it possible that the answer is because they're bored -- both with the slow pace and with the content of the lecture? Author Marc Prensky agrees. "Their attention spans are not short for games, for example, or for music, or rollerblading, or for spending time on the Internet, or anything else that actually interest them," he writes. "It isn't that they can't pay attention, they just choose not to."
ではなぜネットジェネレーションが集中力を欠いているように見えるのか?「授業が進むスピードが遅かったり、講義の内容がつまらないので飽きてしまうから」というのが答えである可能性はないのか?作家の Marc Prensky 氏は同意する。「例えばゲームや音楽、ローラーブレードやインターネットなど、興味を持っているものに対しては彼らは集中力を持続させている。彼らは集中できないのではなく、集中していないだけなのである。」
いまの教育に関する議論は、子供たちの方が異常であるという意識が前提に置かれているものが多いのではないでしょうか。しかし考えてみれば、先生1人が数十人の生徒の前に立ち、講義を行うというスタイルは何世代も前から変っていません。むしろこのスタイルの方が現在では異常であり、ネットジェネレーションに合わせた姿に変えるべきではないのか――同じような問題の構図は、他の分野でもいたるところに存在しているでしょう。
かつてマクルーハンは「私たちは自分が見つめるものになる」、すなわちメディアが人間の行動を変えると論じたそうですが、まさしくインターネットは私たちの社会構造だけでなく私たち自身も変えつつあるのでしょう。であれば、それに物心ついたことから触れており、最も適合している人々である「ネットジェネレーション」がこれから社会をリードしていくのは当然の話です。その好き嫌いは別にして、変化に備えて準備を進めておくべきであり、"Grown Up Digital"はその大きな手助けになると思います。
< 追記 >
以下も"Grown Up Digital"の内容を紹介している記事になりますので、ご参考まで:
■ ウィキノミクス共著者が講演 「技術は空気」なネット世代、8つのキーワードで表すと (@IT)
■ インターネットはテクノロジーか? - “grown up digital”出版に寄せて (ZDNet Japan)
■ A Generation With More Than Hand-Eye Coordination (New York Times)