新入りの強さ
先週の木曜日、アジャイルメディアネットワークが主催したイベント“「次世代交通情報を考える」ブロガーミーティング”に参加してきました。詳しい内容は個人ブログの方でも書いたのですが、渋滞情報を把握する仕組みとして、従来のVICSを超えるプローブという方式が登場してきていることについて、このプローブ方式を活用したナビゲーションサービス「全力案内!」を提供している株式会社ユビークリンクさんからご説明いただくという内容でした。
プローブ方式についてごく簡単にまとめてしまうと、個々のクルマの位置情報を(車載器やGPS搭載携帯電話等を通じて)取得し、それを加工して渋滞情報を導き出すというもの。従来のVICSでは、道路に設置されたセンサーを通じて渋滞情報を把握していたわけですが、これだと当然ながらセンサーが設置されていない道路は監視できません。しかしプローブ方式であればいわばセンサーが自ら移動してくれるわけですし、必要な機器(車載器や携帯電話)の追加も容易ということで、世界的に広まりつつある仕組みとのこと。実際に日本国内でも、各自動車メーカーが自社のナビゲーションサービスの一環として、同方式による渋滞情報提供を始めています。
しかし当然の話ですが、プローブ方式で使い物になる渋滞情報を得るためには、位置情報を提供してくれるクルマを数多く集めなければなりません。従来の発想では、ナビゲーションサービスの利用者にサービス提供の見返りとして、その車両の位置情報を提供してもらうということが行われてきました。ところがユビークリンクがユニークなのは、従来の方法(携帯電話サービスの利用者から位置データを取得)に加えて国内20社のタクシー会社と契約し、1万台以上のタクシーから情報を取得しているという点。しかもタクシーの場合、一般人が通らないような脇道も走りますし、何より24時間路上に出ているということで、質・量ともに貴重なデータを提供してくれるわけですね。まさに素晴らしい目の付け所だと思います。
と、彼らのサービスが素晴らしいことには疑問はないのですが、ちょっと引っかかる点があります。僕のような門外漢ならいざ知らず、「大量のプローブデータを手に入れたい=タクシー会社があるじゃないか」という発想はこの分野に詳しい人ならば考えつきそうなことではないでしょうか。しかも最近のタクシーのIT化(というとちょっと語弊があるかもしれませんが)は素晴らしく、配車センターがリアルタイムに近い形で各車両の位置を把握していることは、タクシーを利用する機会の多い人なら気づいているはず。なぜ他にプローブによる渋滞情報を提供している会社、例えば自動車メーカーたちはタクシー会社に目を向けなかっただろう……そんな疑問を尋ねてみたところ、こんな感じの答えが返ってきました:
恐らく従来の発想が強すぎて、お金を払ってプローブの情報を得よう、なんて発想が出なかったのではないか。
実際、タクシー会社にとってもユビークリンクの申し出は初耳で、そんなことができるなんて思ってもいなかったとのこと。そのため担当の方が各タクシー会社のトップの元まで赴き、仕組みについて説明するとともに社会的な意義についても訴えることで、少しずつ開拓していったのだとか。ユビークリンクのサービスが世に出たことで、他社も慌てて追従しようとしているところかもしれませんが、「全力案内!」と同じレベルにまで体制を整えるには時間がかかるはずです。ゼロベースの思考ができたことで、ユビークリンクは貴重な先行者利益を手にしたわけですね。
ユビークリンクにはこの道で何年も研究されてきた方々がブレーンとして参加されていますし、その意味で彼らが門外漢だということはありません。しかし新参者として一から新しいサービスを発想できたことで、見過ごされていた貴重な資源に気付き、それを粘り強く追い求めることができたのではないでしょうか。既存のプレーヤーにとっては、この話は「従来の発想に捕われるな」「新入りの動きに警戒しろ」というメッセージを、そして新入りにとっては「既存のプレーヤーに追従するな」「彼らが試していない道が必ずある」というメッセージを与えてくれると思います。
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