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「美」はアルゴリズム化できるのか?

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以前、美人コンテストの裏側を描いたドキュメンタリーについて感想を書いたことがありましたが、それに少し関係して。イスラエルの科学者たちが、自動的に顔写真を加工して、美しい顔にしてくれるというソフトを開発したそうです:

The Sum of Your Facial Parts (New York Times)

百聞は一見にしかず、ということで、実際のサンプル(加工前/加工後)が記事とスライドショーにて確認できますのでご覧下さい。「美男美女の基準は世界共通である」などと言われますが、確かにプログラムによって自動加工された顔の方が美しく見えます(実在の有名人の中には、あまり変化がない場合や、逆に違和感を感じる場合もありますが)。

いったいどのような仕組みで、どのように開発されたのか、記事ではこう解説されています:

The software program, developed by computer scientists in Israel, is based on the responses of 68 men and women, age 25 to 40, from Israel and Germany, who viewed photographs of white male and female faces and picked the most attractive ones.

Scientists took the data and applied an algorithm involving 234 measurements between facial features, including the distances between lips and chin, the forehead and the eyes, or between the eyes.

Essentially, they trained a computer to determine, for each individual face, the most attractive set of distances and then choose the ideal closest to the original face. Unlike other research with formulas for facial attractiveness, this program does not produce one ideal for a feature, say a certain eye width or chin length.

イスラエルのコンピューター科学者によって開発されたこのソフトウェアは、68名の被験者からの反応を基にしている。被験者は男女合わせて68名、年齢は25歳から40歳、イスラエルもしくはドイツ出身の人々で、「男女の写真の中から最も魅力的な一名を選ぶ」という作業を行ってもらった。

科学者たちはそのデータを用いて、「唇からアゴまでの長さ」「ひたいから目までの長さ」「目と目の間隔」など、234の顔の部品に関するアルゴリズムを作成した。

科学者たちがコンピューターに教え込ませたのは、基本的に次のような動作である。まず顔を認識し、それぞれの部品ごとに最も魅力的な長さを設定、その組み合わせをつくる。できた組み合わせの中から、オリジナルの顔に最も近いものを選ぶ。「魅力的な顔の公式」を探求する他の研究と異なり、このプログラムは各部品ごとの理想値を設定することは行わない。

長くなりましたが、要は帰納的に「美しい顔の比率」を導き出し、その比率に合うように顔を加工してくれる、ということですね(従ってシワの修正をしたり、髪の色を変えたりといった加工は行わないとのこと)。SNS等に公開するプロフィール写真を修整したり、お見合い写真を加工するといった当然出てくる使い方の他に、美容整形の失敗を防ぐといった活用法も考えられるでしょうか?

ただ、開発者たちはそのような使い道を想定しているわけではないようです:

Tommer Leyvand, who developed the “beautification” software with three others at Tel Aviv University and who works in development for Microsoft in Redmond, Wash., said the goal was not to argue that the altered faces are more beautiful than the originals. Instead, he said, it was to tackle the challenge of altering a face according to agreed-upon standards of attractiveness, while producing a result that left the face completely recognizable, rather than the product of cosmetic surgery or digital retouching.

“This tool shows in the most simple fashion how easy it is to manipulate photographs and make people more attractive,” Mr. Leyvand said. “But the difference is so subtle that it just shows how insignificant it is. We’re talking about a few inches maybe and a slightly changed perception.”

テルアビブ大学の3人の科学者たちと共に、この「美人化」ソフトを開発した Tommer Leyvand (Redmond でマイクロソフトの研究員として働いている)は、「修正された顔の方がオリジナルよりも美しい」と主張するのが目的ではない、と語っている。そうではなく、人々の間で合意された「美の基準」に基づいた修正を行った上で、(美容整形やフォトレタッチとは異なり)修正後の写真も本人だと認識してもらうことが可能なのか、という問題に取り組むことが彼の目的である。

「このツールは、写真を加工して人々を魅力的に見せることがいかに容易かを示している」と Leyvand 氏は語った。「加工前後の相違はごく些細なものだが、実は非常に重要なものであることが分かる。数インチの違い、ほんのちょっとの認識の差が問題なのだ」

ということで、現時点では純粋に「人は美をどう認識するか」について研究しているようですね。まぁ容易に「ほら、目元をちょっといじるだけで大きく印象が変わりますよ!」というセールストークを可能にするためのソフトに転用できそうですが。(ちなみに Leyvand 氏自身の顔写真と、修正後の写真もこちらで確認できます。)

この「プログラムで自動的に美を作り出す」ということについて、当然ながら反論も起きているようです。文化・社会的な違いやパーソナリティといってたものも「美」には重要な要素だろう、というわけですね。前回のエントリでも、美に対して異なる2つのアプローチがあったことに触れましたが、「自分らしさを貫く」ということも美しさの要素になるはずです。であれば、むしろ帰納的に求められた「美の最大公約数」に近づけるよりも、そこから多少ズレるというアプローチでも美をつくり出すことができるのかな……と考えてみたり。少なくとも1つの絶対的なアルゴリズムを作って、「ミス・ユニバースの優勝者をプログラムで決める」などということを可能にするのは難しいでしょうね。

ちなみに New York Times の記事の冒頭で掲載されている写真の女性は、「加工後の顔は自分の顔じゃないみたいで、今の顔の方がいいわ」とコメントしているとのこと。美というものがあるとして、それを手に入れることは、自分のアイデンティティにどう影響するのか。少なくとも「美人化プログラム」は、人間の心理について考えるきっかけを与えてくれることは間違いなさそうです。

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