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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

新聞もインドでつくる時代

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プログラミングをインド(もしくは中国など)の技術者にアウトソース、というのは珍しい話ではなくなりましたが、最近は新聞などの校正・編集作業を請け負う会社までインドに登場したとのこと:

Copyediting? Ship the Work Out to India (BusinessWeek)

ニューデリーの郊外に拠点を構える、Mindworks Global Mediaという会社がそれ。90名の従業員がマイアミ・ヘラルドやサウス・チャイナ・モーニング・ポストなどといった顧客のために作業しているそうです。2~3交代のシフトを組み、24時間365日稼働するとのこと。最初はインドのローカル市場を相手にしていたそうですが、海外の企業を顧客にし始めてから既に4年の経験を持ち、出版におけるコストを35~40%カットできると主張しています。

仕事ぶりはこんな感じ:

The staffer logs into a foreign publication's general desk basket, where the client's raw stories are parked for editing. Each team member is assigned a few stories, which are checked for grammar, style, and accuracy. In case there are inconsistencies or inaccuracies, the copy editor at Mindworks gets in touch with the news editor of the foreign publication. If the team is handling a particular section of the publication like Sports or Lifestyle, then the contact person in the U.S. is the section head. The reporter is never contacted.

スタッフがシステムにログインすると、そこには海外の顧客から寄せられた編集前の記事が用意されている。各チームメンバーには数個の記事が割り当てられ、文法やスタイル、正確性がチェックされる。矛盾点や誤りが発見された場合、スタッフは依頼主の編集者とコンタクトを取る。スポーツやライフスタイルなど特定のセクションを受け持つチームの場合、米国側の窓口はそのセクションの長となる。記事を書いた記者とコンタクトを取ることはない。

まさしく『フラット化する世界』さながらといったところ。しかしこんなアウトソースが一般化するのだろうか?という点ですが、様々なメディアで報じられている通り、外国の新聞は日本以上の購読者数減・広告減に悩まされています。売上げが少なくなる中で生き残ろうとすれば――コスト削減に取り組むしかありません。そこで Mindworks は市場が拡大すると踏み、2013年までに従業員を1,500人に増やすことを計画中だそうです。他社も含めると、将来的にインドの「編集作業アウトソース」は約20億ドルの市場になると見込まれているのだとか。

もちろん「ネイティブ並の文法力・作文力を持つ編集者をどこまで確保できるのか」「リスクに見合うコストダウンが実現できるのか」といった問題がありますから、簡単に市場が生まれることはないでしょう。しかし仮にこのようなサービスが一般化するとすれば、いろいろと面白い空想ができそうです。例えば大きなコスト削減効果が期待できるとして、浮いたコストを購読料による収入と置き換えるという判断が下されれば、海外では「無料新聞」の勢力が一段と強まるかもしれません。そうなればネットだけでなく、紙媒体のメディアでも無料が当たり前の時代が来たりして。

またギズモードやエンガジェット、TechCrunch のような有力ブログが、紙媒体でのニュース配信に踏み切るという可能性はどうでしょうか。もちろん紙媒体のメディアを発行するには、印刷して流通させるというステップも必要ですが、少なくとも紙面作りというコストは圧縮できます。しかも元記事はブログ用に書かれたものがあるのですから、それをそのままインドに投げて体裁を整えてもらい、印刷に回せば"TechCrunch 新聞"の出来上がり。将来的には、広告のアレンジや流通までも引き受けてくれるアウトソースサービスも生まれるかもしれません。

といろいろ妄想が膨らむのですが、こういった点がすぐには実現しないにしても、日本国内における新聞のビジネスモデルがますます遅れていく可能性は高いのではないでしょうか。インドに日本語の編集作業アウトソーサーでも生まれない限り、あと4~5年もしたら、日本人がイメージする「新聞」と海外における「新聞」の実態は大きく異なる……などという状況が生まれているかもしれません。

一方で日本では、紙媒体による無料のメディアとして「(雑誌型の)フリーペーパー(フリーマガジン)」という存在が定着しつつありますが。そういった日本のフリーペーパー事情と、「日刊無料紙」という意味での海外のフリーペーパー事情については、こちらの本に詳しいです。

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