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感動力

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なんだか自己啓発書のようなタイトルになってしまいましたが……。いとうせいこうさんの『職人ワザ!』を読了。Polar Bear の方でも触れたのですが、せいこうさんが親しくされている職人の方々を訪ね、「技」の極意を聞くという内容です。と言ってもドキュメンタリーのような堅苦しい内容ではなく、職人さんの身の上話や雑学などもちりばめられ、おしゃべりを楽しむように読み進めることができました。

この本、とにかくせいこうさんがよく感動します。「すげぇ!」と口に出すこともあれば、心の中で静かに賞賛したり、鳥肌が立ったり(笑)。帯に付ける宣伝文句を考えろと言われたら、「3ページに1回感動が!」とでも書きたいところ。この点はせいこうさんご自身もよく分かっていて、あとがきでこう書かれています:

僕は毎回、「うわあ」とか「すげえ」とか言ってばかりいる。他人の仕事の凄みというのは、ある臨界値みたいなものを越えた瞬間にびりびり伝わってくるものなので、聞き手としては肉感的な感嘆を短く叫ぶ以外ないのである。

しかし僕は、この言葉は半分間違っていると思います。確かに仕事の凄みというものは、自らその魅力を放つものでしょう。しかし受け手が準備をしていなければ、あるいはその意図がなければ、魅力をびりびりと感じるということは不可能ではないでしょうか。

月並みな言い方を許していただければ、この本にはいとうせいこうさんの「愛」が溢れています。いまの時代には不必要なものになりつつある仕事に対する尊敬の念や、素晴らしい仕事をしてくれることに対する感謝の気持ちといったもの。それを強く持っていることが、文章の端々に現れているわけですね。仮に「江戸文字?効果音製作?確かにすごい技術だろうけど、古いよ」というような態度の人間(含む自分)が仕事場を訪れたとしても、そこから何かを学ぶことはないでしょうし、相手も何かを伝えてくれようとはしないでしょう。そして職人さんのワザや仕事術、仕事に接する態度の素晴らしさを余すところなく表現する本など書けなかったはずです。

「今日のお前が言うなスレはここですか?」と言われてしまいそうですが、「こんなのダメだよ」と否定することは実はすごく簡単です。しかも諸手を挙げて賞賛するよりも、批判する方がカッコ良く感じられてしまうものですよね。しかし批判だけではなく、相手の素晴らしさに素直に感動する態度がなければ、大切なものが見えてこないことをこの本は示しているように感じます。その意味で、十分な「感動力」を持っているせいこうさんが羨ましく感じた次第です。

……いや、お世辞っぽく聞こえてしまいますが(ってそう感じるというのも問題ですね)、せいこうさんの目を通して様々な気づきを与えてくれる本だと感じましたよ。例えばテーラーさんの仕事を目にして、

それってソリューションじゃん、と僕は思った。オーダーメイドの世界で最も重要なのは、トラブルのソリューション。とどのつまりは、きめ細やかに顧客のトラブルを解消すること。21世紀のビジネスモデルとも言われる概念は、実は伝統あるテーラーの世界に始めから存在していたのだ。

と表現するなど、名言も満載です。

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