オルタナティブ・ブログ > シロクマ日報 >

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

「なぜこの価格?」がアイデアを生む

»

月刊 ascii 2008年8月号の特集「なぜ、この価格で儲かるのか」が良記事でした。文字通り、「なぜこの価格なんだろう?」と疑問に感じる例(感じずに素通りしてしまっているものもありましたが)を取り上げ、裏側にある戦略とメカニズムを探るという企画。Amazon や5万円パソコン、宿泊予約サイトなど僕らの興味に近いテーマが取り上げられているので、ややこしい話は嫌いないんだけどという方も読んで面白いと思います。

それに関係して、最近読んだ本で面白かったのが『日常の疑問を経済学で考える』。こちらもタイトルの通り、日常生活で「なぜ?」と感じる様々な現象(タキシードのレンタル料よりクルマのレンタル料の方が安いのはなぜ?やホテルのミニバーの価格が法外に高いのはなぜ?など、その数100以上)に経済学の考え方から答えを出していくというもの。ただしこの本は正しい答えを提示するのが目的ではなく、あくまでも「経済学の知識を応用するとどう解釈できるか」というトレーニング/頭の体操を行うのが目的なので、中には答えが間違っているものもありますが(著者自身が「本書に示す答えは批判の目をもって読んで欲しい」と宣言しています)。

モノ/サービスがある。お金を払う人がいる。そこに価格が生まれる――というメカニズムは大人なら誰でも理解していることですが、そのイメージがあまりにもシンプルなものだけに、逆に様々なバリエーションを想像することが難しくなってしまうのではないでしょうか。他社・他業界のケースをよく分析して考えてみたり、正しい答えを見つけるのは二の次にして頭の体操をしてみたりすることは、頭を刺激して新しい「値付けのメカニズム」を考え出すことにつながると思います。

例えば簡単なところでは、ascii の特集で紹介されていた一休.comの例。高級ホテル・高級旅館に特化しながら、格安の料金を設定している理由として、こんな解説があります:

「当サイトに掲載される宿泊料金は、ホテルや旅館側が予約状況を見ながら、自由に変更できる仕組みになっています。たとえ1泊4万円のお部屋でも、実際の利用がなければ、当然売り上げはゼロになってしまいます。そこで予約の少ないときには思い切って料金を下げるのです」と語るのは、同サイトを運営する株式会社一休 営業企画・マネージャーの本吉裕之氏。

ここまでは当然の話なので想像しやすいと思いますが、高級ホテルなのに格安料金を提示したらブランドに傷がつかないのか?という問題が残ります。この点について、記事では続けて「会員専用ページや会員向けメルマガにしか載せない料金」というものがあることが指摘され、

その点、一休は対象の宿泊施設を高級ホテル、旅館に特化するとともに、サイト全体の高級感を非常に大切にしている。そのため利用者も富裕層が中心である。そんな一休の会員にだからこそ、ホテルや旅館も安心してスペシャル料金を提示できるのだ。

と解説されています。なるほど。

また『日常の疑問を~』からも少し引用しておきましょう。「なぜ人気の書籍やCDは安売りできるのか?(※米国での話)」という疑問に対して、「大量に生産すればコストが安くなるから」「ベストセラーをエサにして他の商品も買ってもらうため」という説明だけでなく、こんな考え方も可能であることが述べられています:

書店やCD販売店にとってもっともよいのは、店がすすめなければ客が気づかないような、あまり知られていないが将来有望な新作を紹介することだ。そのためには、深い知識をもつ販売員を雇う費用を人気の薄い商品に課すことになる。人気商品を大幅に割り引きできるのは、販売費用が少なくてすむからだ。だから、次にパリス・コンボのCDを聴くときには、ウォルマートで買えるような人気のCDよりも多くの金を払ったことを思いだすといい。あなたの好みがわかるくらいの知識のある販売員を雇うための経費がそれに含まれているのだ。

繰り返しますが、この本では答えそのものの正しさではなくロジックの正しさに主眼が置かれているので、実際に「お客に適切なオススメができる店員を雇うお店」がどれだけあるかは分かりません。しかし仮にそんな力学でリアル店舗が動いているのだとすれば、Amazon のようにリコメンデーションを自動化したオンラインショップでは、ロングテールのテールにある商品も値下げできるはずだ――となりますよね。

とかくウェブに関連するサービスは、お金を稼ぎづらいとよく言われます。サービスを無料で提供することでユーザーを集め、広告で収益を得る。そしてできる限り自動化し、運営コストを下げる。パッと頭に浮かぶのはそれぐらい、という場合も多いでしょう。しかし改めて外の世界を眺めてみたり、頭を絞ってみれば、思いも掛けない宝の山が見つかるかもしれません。この2つの記事(1冊の雑誌と1冊の本ですが)は、その良いきっかけとなってくれるように思います。

Comment(0)