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インドネシア人に看護される時代

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非ITネタなのですが、少し興味を引かれたので書きます。

体調を崩し、入院することになったとしましょう。もしくは親の介護が必要になったので、介護施設を訪問したと考えてみて下さい。そこで応対してくれたのは日本人ではなく、インドネシア人だった……という日がもう間もなくやって来るかもしれない、ということをご存知でしょうか:

インドネシア、介護士ら年内にも来日 就労中に研修 (asahi.com)

日本とインドネシアの両政府が昨夏に署名した経済連携協定(EPA)に基づき、2年間で看護師候補400人、介護福祉士候補600人がインドネシアから派遣される方針が決まったという話。そして、

インドネシア人看護師ら500人、7~8月の来日が正式決定 (YOMIURI ONLINE)

日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づき、7月下旬から8月初旬にかけ、インドネシア人看護師200人と介護士300人が来日することが19日、正式に決まった。

と、いよいよ第一陣の来日が正式に決まったことが報じられています(ちょうど方針の半分の人数ですね)。読売の記事を読むと、実は同様の取り組みがフィリピンとの間でも行われる予定であることが分かります。

ご存知の通り、日本は研究者やスポーツ選手などの例外を除き、基本的には外国人労働者の受け入れを認めていません。しかし実体はというと、様々な形で外国人労働者が働いていることはご存知の通り。その是非は別にして、彼らの労働力がないと立ち行かない産業が存在していることが指摘されています。また少子高齢化社会が進めば、外国人労働者を必要とする分野がさらに拡大することでしょう。そうなれば、何らかの形で外国人労働者を受け入れる道が模索されるはずです(スーパーAIとロボットが誕生・普及するのでない限り)。

で、今回の動き。朝日の記事によれば

日本に来た候補者は、6カ月間の日本語研修を受けた後、病院や老人ホームなどで助手として働きながら技能を身につける。日本語の国家試験に合格すれば事実上無期限で在留し、施設で看護師、介護福祉士として就労できる。受からなければ帰国する。

とのことで、実際に看護師・介護福祉士として働くためには、国家資格を取得しなければならないようです。従って簡単には「インドネシア人に看護・介護される時代」はやって来そうにありませんが、一方でこんな動きもあります:

突然出てきた「准介護福祉士」ってなに? (All About)

国家試験の合格を必要としない「准介護福祉士」という資格が、フィリピンからの労働力受け入れのために導入されるのではないか、という話。まだまだ議論の段階ですが、外国人看護師・介護士を大量に受け入れる道が模索されているわけです。

個人的には、外国人の方々をこうした現場に受け入れるのは賛成です。しかし外国人看護師・介護士の導入が、日本お得意の「なし崩し」で行われるのではないかと懸念します。様々な方面からの反発を受けつつも、看護・介護現場における人手不足という現実の前にインドネシア、フィリピンからの労働力を受け入れ、ゆがみのある制度が生まれてしまう――今回の派遣決定に際して、あまり大きな関心が生まれていないことが、逆にそんな不安を感じさせます。

そして別の記事(朝日新聞)によると、こんな対立もあったそうです:

交渉でインドネシア側は、最低賃金の保障を求めたが、日本側は拒否。代わりに、看護師で20万円以上、介護福祉士で17万5千円以上の月給をインドネシア側が希望していることを受け入れ施設側に伝えることでまとまった。

最低賃金が保障されていないということは、より安い賃金で働かされる可能性があることになります。仮に日本人よりも安い賃金水準で雇われていくとしたら、「安い・雑な外国人看護師」「高級な日本人看護師」といった偏見が生まれる心配はないのでしょうか。数年後、「当施設では、全て日本人スタッフを採用しております。ご安心下さい」などという広告を掲げる病院や介護施設が登場するような不安を感じます。

ともあれ、私たちは思いもよらなかった分野から、外国人労働者と普通に生活する社会に足を踏み入れようとしているのかもしれません。新たに必要とされるサービスや、調整が必要な課題も生まれるでしょう。そんな社会が日本人・外国人の双方にとって暮らしやすいものとなるよう、いま以上に関心を払う必要があると思います。

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