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たこつぼ化は悪なのか

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週末にネットを(と言ってもこれも一部の界隈に過ぎませんが)沸かせていた話題の1つが、この記事でした:

たこつぼ(jkondo の日記)

しかし、最近話題のサービスには、一日中インターネットを見ているようなユーザーしか想定していないようなサービスも多い。これははてな内でもはてな外でもそうだと思う。これでは、数十万人規模のネット好きが集まるたこつぼは作れるかもしれないが、世の中を変えていく事業にはならないのではないか。

(中略)

多くのイノベーションが、流行に敏感なアーリーアダプターによって発見され、拡大していくのは常であるし、先端的なユーザーに人気があること自体は非常に良い事だ。ここを欠いてはいけないのはもちろんだが、問題はそこから、そこから1000万人、1億人に届くものを作ろうという気持ちを忘れてしまわないようにしたい。

成長を狙う商品・サービスを抱える企業なら必ず直面する「キャズム」の問題。はてなも例外ではない、ということだと思いますが、ここで使われた「ネット好きが集まるたこつぼ」という表現に違和感を感じた方が多かったようです。「大切なお客様に向かって『一日中インターネットを見ているようなユーザー』とは何事か」「はてなは意識的にそんなサービスを作ってたんじゃなかったの?」などといった反応が。表現が適切かどうか分かりませんが、良い意味で「変わった」部分を持つ会社が規模を拡大し続けることの難しさを見たように感じます。

最近のウェブサービスは、多かれ少なかれコミュニティの側面を持ちます。他のユーザーと何らかの形で接点を持つことができないサービス、を探す方が逆に難しいでしょう。従ってリリースからしばらく時間が経過すると、新しいサービスには何らかの方向性というか、性格のようなものが生まれてきます。その性格に合うユーザーが引き寄せられ、合わないユーザーが離れていく、もしくは最初から参加しなくなることでコミュニティの性格はさらに強まり、それがさらに似たものユーザーを引き寄せる……この循環が生まれること、つまり「たこつぼ」化が進行することは、最近のウェブサービスでは致し方のないこと・避け難いことではないでしょうか(どんな「たこつぼ」が生まれるかによって、その後のビジネスがしやすいかどうかが決まってくるという問題はありますが)。

賛否両論ありますが、「はてな」のコミュニティも独特な性格を持っています。それがはてなの屋台骨を支えつつ、成長を阻害する要因になっているのが今の現状であり、それをどちらの側面から見るかによって意見が変わってくるでしょう。確かにアクの強いコミュニティは新規ユーザーを遠ざける一因となってしまっているかもしれませんが、他のサービスには容易に移行しない人々、またサービスに対して率直なフィードバックを返してくれる人々が山のように存在しているという意味では、「たこつぼ化」も一概に悪とは言えないと思います。

キャズム理論とセットになっていながら、あまり知られていない話として「ボーリングピン」という戦略があります。キャズムを越えるために、資源を限定された分野に投入・そこでの成功を足がかりに隣接分野に参入・さらに次へ進む……という姿をボーリングのピンが倒れることになぞらえた戦略なのですが、これもある意味「たこつぼ」を作っていく話かもしれません。ただし「たこつぼ」を1つ作って満足するのではなく、次々と作って結果的に市場を広げていくのが違うところ。無理にたこつぼを壊したり、たこつぼのサイズを広げようとするのではなく、近くにある他の分野に視線を合わせてみるのも1つの手ではないでしょうか。

ともあれ、「もっと広い市場で成功したい」と悩めるのは贅沢な話かもしれません。広い市場で早くも行き詰まりを感じているサービスもあるのですから、無理をせず既存のコミュニティを大切にしながら進んで欲しい、と勝手ながら願っています。

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