キジサクへの違和感
昨夜のこと。テレビ朝日の某ニュース番組の中で、米大統領予備選の山場・スーパーチューズデーの結果がこう報じられていました:
ヒラリー・クリントン勝利!!
ご存知の方も多いと思いますが、米民主党の指名争いは、ヒラリー・クリントン対バラク・オバマの一騎打ちとなっています。昨日のスーパーチューズデーはその勝敗を決める(かもしれない)大事な選挙だったのですが、テレ朝は「ヒラリーが勝ち、オバマが負けた」と報じたわけですね。
しかし詳しい解説は省きますが、これでクリントン氏が民主党の大統領候補として指名されることが決まったわけではありません。また結果だけ見ると、オバマ氏が13州で勝利したのに対し、クリントン氏が勝利したのはそれより少ない8州。もしかしたら大票田のカリフォルニア州(各州毎にポイントが決められていて、勝った候補がそのポイントをもらえる仕組みだと考えて下さい。候補者に選ばれるためには、このポイントを一定以上集める必要があるのですが、カリフォルニア州は人口が多いためポイントが高くなっています)でヒラリーが勝ったことをさして「クリントン勝利!」と報じたのかもしれませんが、あまりにもミスリーディングな表現でしょう。
話は変わって、昨日こんな発表がありました:
■ 朝日・時事・日刊工が記事DBに参入 「信頼性ある情報を有料で」 (ITmedia News)
朝日新聞社など複数の新聞社・出版社が共同で、記事の有料データベース「キジサク」を立ち上げるというニュース。過去記事が読めるデータベースというのは歓迎すべきサービスですし、利用者からお金を取るというのも各社の考えですので問題はありません。「キジサク」というネーミングにも突っ込まないようにしましょう。しかし違和感を感じるのは、運営者の姿勢です:
ネット上には無料の情報もあふれているが、同本部の大西弘美マネージャーは「GoogleやYahoo!検索で十分という意見もあるだろうが、検索で得られる情報は、自分で確かさを確認する必要がある。新聞社の記事ならソースをきっちり保証できる」と有料サービスの意義をアピールした。
これ以外にもいくつかの記事を参照したのですが、その端々に「既存メディア vs. ネット」という対立姿勢を感じます。単に「我々もネットでコンテンツを提供します」と言えばいいのに、なぜネットを一段低いものと位置付け、対比させるような売り込み方をするのでしょうか。
「メディアが言っていることは正しくて、個人が言うことは信用できない」などという発想が間違っていることは、上記のテレビ朝日の例からも明らかです。メディアだからって正しい判断ができる訳ではないですし、酷い場合には誤報や誹謗中傷、意図的にスポンサーを持ち上げるなどといった行為が行われます。情報の取得コストが限りなくゼロに近づく時代、必要なのは絶対無比な情報ソースに頼ることではなく、いくつかのソースから情報を集めて複眼的に考えることではないでしょうか。
従って、そもそも「自分で情報の確かさを確認するなんて、かったるくてやってられない」という態度では、情報を有効に活用できるはずもありません。今回の発表には、既存メディアの奢りというか、新しい時代にそぐわない発想を強く感じてしまった次第でした。
……おっと、言ってる自分が単一ソースだけで記事を書いてしまいました。Polar Bear Blog のキジサク評には載せていたのですが、当事者である asahi.com の記事も引用しておきましょう(例によって asahi.com のリンクはパーマリンクではないので、一定期間が経つと消えてしまうのですが):
■ 「キジサク」4月1日から 朝日、時事、日刊工提携の新検索サービス (asahi.com)
朝日新聞社デジタルメディア本部の田仲拓二本部長は「メディアを取り巻く環境は厳しい。3社の力、個性を発揮して競争力を高めたい」とあいさつ。「過剰な情報化社会の中で使い勝手が良く、かつ低料金のサービス。WEB2.0の特性を生かし、契約した企業が情報発信できるリッチなデータベースだ」と説明した。
とのこと。この中にある「WEB2.0 の特性を活かし」という部分は、次の機能を示しているようです:
契約した企業には、PRしたい自社情報を他社に向けて検索トップ画面に表示させる機能がある。
ということで、有料サービスでありながら画面には広告が表示されるようです。これを「WEB2.0」と呼んでしまうあたり、そもそも WEB2.0 の中身がなさ過ぎたのか、新聞社には理解ができない概念なのか……。