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東京マラソンに学ぶ「全員でつくる姿勢」の大切さ

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ベースボール・マガジン社の新書『東京マラソン』を読了。Polar Bear の方でも書いたのですが、青梅出身者としては東京マラソンをライバル視しているものの、非常に興味深い内容でした。現場で実務を担当された、遠藤雅彦さんが開催の裏側を語るというもの。「こんな問題も解決しなきゃいけないのか!」というような話や、運営を通して見えてきた東京の姿という話もあり、イベント運営に携っている/携ったことのある方々&東京に住んでいる/通勤されている方々にオススメです。

ご存知の通り、東京マラソンの開催にあたっては、当初「本当に実施できるのか?」といった疑問の声が起きていました。休日とはいえ、東京都心部を約3万人が走る(さらに観戦するギャラリーも集まる)のですから、不安視されて当然でしょう。しかし結果は大きな混乱もなく、テレビ中継は平均視聴率で23.6%を記録するという成功に終わりました。なぜこれほど大規模で、しかも前例のないイベントを成功させることができたのか。本書にはそのポイントが至る所に書かれているのですが、個人的には「全員でつくる姿勢の大切さ」というものを強く感じています。

例えば、こんな箇所があります:

大会終了後、完走したランナーには記録証が送付されます。その記録証を送る封筒のデザインを決める段階で、できてきた案には、「Congratulations」という文字が入っていました。常識的にいえば、妥当な言葉なのかもしれません。しかし、私はこれでは駄目だと思いました。

主語がありませんが、誰が誰に「おめでとう」といっているのかはわかります。大会主催者が、参加者にいっているのでしょう。なんとなく上から下を向いていっているように感じられるのは、たぶんそのためなのです。

こう感じた遠藤さんは、ご自身が熱烈な浦和レッズサポーターとのことで「We made it together」 (一緒にやり遂げたね!的な意味)という言葉を入れるようにしたとのこと。実際この言葉は反響を呼び、大会後に「いい言葉が書いてあった」としてブログで紹介された方もいらっしゃるそうです。些細なことかもしれませんが、大会運営サイドがどんな思いで運営されていたかを示すエピソードではないでしょうか。

もちろんランナーを持ち上げるだけで、何の協力も求めないということではありません。例えば仮装を許可するかどうか?という点について、最終的に許可することにしたものの、ランナーに以下のような呼びかけを行ったそうです:

世界の大都市マラソンにおいては、多くの市民ランナーが仮装を楽しむと同時に、地域の人たちや応援する人たちにとっても、楽しみの一つになっています。

一方で、長時間かつ広範囲の交通規制で不便を強いられる市民からは、「スポーツならともかく遊びのために」といった反発を受けることも懸念されています。

東京マラソン事務局としては、これらの状況を慎重に検討した結果、新しいマラソン文化を育てていく立場から、本大会における仮装を禁止しないことにいたしました。

仮装を考えられているランナーのみなさんには、こうした事情を十分にご理解いただき、将来に向かってこの大会を発展させるために、次のガイドラインを遵守し、楽しく良識ある仮装をしていただくようお願いします。

この他にも、ボランティアの人々との関係や、スポンサーにも不便をお願いしたエピソードなど、東京マラソンでは「参加者全員で力を合わせ、大会を成功させよう」という精神で満ちていたことが示されています。そんな精神が大切なのは言うまでもないことかもしれませんが、実際に行動として具体化されるのはあまりないことでしょう。些細な行動でも、そういった姿勢が具現化されることで、成功に必要な力というものをあちこちから集めることができたのではないかと感じています。

これもよく言われることですが、コミュニティの運営にも「参加者・関係者と共に作り上げる」という姿勢が大切になります。その意味で、マラソンという全く畑違いの世界にはなりますが、ウェブサービスの企画・運営に携っている方々にもヒントになる話が詰まった本ではないかな、と感じました。新書ですぐ読み切れる長さですので、興味のある方は是非。

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