機能としての商品名
先週末の朝日新聞土曜版「be」に、小林製薬会長の小林一雅さんのインタビューが掲載されていました。小林製薬といえば、「のどぬ~る」「トイレその後に」などユニークな商品名を付けることで有名ですよね。そのネーミングの意図について、小林さんはこう解説されています:
でも、おもしろさを狙っているわけやない。名前を聞いて、どんな商品かすぐに分かるように突きつめた結果です。やり通したおかげで「わかりやすさ」は専売特許みたいになってる。
半ばウケ狙いなのかと思っていたら、あくまでも真剣な(と言うと怒られてしまいますが)意図があるわけですね。これは小林製薬のもう1つの戦略「ニッチ市場に一番乗りしてリーダーとなる」にも密接に絡んでいるのでしょう。つまり誰も想像すらしたことない商品を世に出し、買ってもらうためには、長々とした説明ではなく商品名一言で「これは何か」を分かってもらうことが重要――そんな裏側があるように思います。
既存の市場、例えば自動車などの場合なら、純粋にイメージだけで商品名を付けることも可能です。確かに狙う市場に合わせること(スポーツカーなら速そうな名前、女性向けなら明るいイメージの名前など)は必要ですが、ハッチバックのクルマで最後尾が開くことを分かってもらうために「後ろもひら~くカー(仮)」などという名前を付ける必要はありません。しかし「トイレを使った後に、1~2滴入れてもらう液状タイプの消臭剤」などという商品に「デオドレール(仮)」などという名前を付けても、使ったことがない人に使い方を想像させるのは不可能でしょう。つまり小林製薬の商品では、名前が「機能や使い方を認識させる」機能を果たしているわけですね。
翻ってみると、ITの世界では新しい発想に基づくモノ/サービスが山のようにあります。これは使い方が容易に想像できないという点で、小林製薬が狙うニッチ市場と似た世界ではないでしょうか。その意味では彼らのように、「機能の一部となる名前=分かりやすい名前」を追求するというのも有効な手段だと思います。しかしながら、「イメージ重視のカッコいい名前」が付けられるケースが多くありますよね。考えてみれば、流行中のミニブログサービス"Twitter"だって英語では「さえずり」や「ぺちゃくちゃ喋る」という意味ですから、小林製薬的(?)なネーミングなわけです。日本のIT業界でも、もっとベタな名前を追求する……という動きがあっても良いのではないでしょうか。