会社がいちばん分からない
先日、福西七重さんの『もっと!冒険する社内報』を読みました。福西さんは、リクルートの社内報『かもめ』の創刊を手がけ、26年間編集長を務められた人物。その間、『かもめ』は全国社内報コンクールで24年連続入賞、総合優秀賞受賞10回を記録したそうですから驚きです。しかしこの本には、福西さんが社内報というメディアにかける熱意や意気込みのようなものが溢れていて、『かもめ』が高い評価を受けたのは何ら不思議ではないと感じさせられました。
同書の第3章に、「企業文化のデータバンク」という項があります。その中で、こんなエピソードが紹介されていました:
『かもめ』編集室には、いろいろな人が訪れる。ある日、あわてて入ってきたのは法務課の男性社員だった。
リクルートで創刊した新雑誌に対抗するように、他社から同種の雑誌が出た。雑誌の名前も似ていてまぎらわしい。それで問題が起きているという。
「どっちが早く計画として立ち上げたか、証拠になる記録が残っていないかな」
「あるはずよ。見てみましょう」
『かもめ』には、「かるがも行進」というグループ企業を含めた社内の主な行事、イベントなどを網羅したページがある。
「あったあった。5年前の秋にはこの雑誌の創刊準備がスタートしていたことが掲載されています」
「ああ、よかった。これを証拠にして交渉できますよ」
また、続けてこんなエピソードも:
「新聞社から企業のボランティア活動についての取材が入ってね、リクルート独自のものが欲しいと探しているんだ。事例がいっぱいあるよね」
「そう、いろいろありますね。大きいところでは、バングラデシュにサイクロンシェルターを1基プレゼントした『竜巻組』というプロジェクトがあったわ。それとも国内の社員参加型のボランティアがいいかしら」
と私の手はファイルに伸びる。
『かもめ』では表2ページを使って、何年も「人と地球にやさしい知恵袋」という記事を掲載してきた。
こんな風に、社内報で蓄積されてきた情報が、まさしく「データバンク」として役立った事例が紹介されています。ここで面白いのは、「2005年度の売上実績」「北米市場におけるシェア」のようなオフィシャルな情報だけでなく、非公式な情報、また社員のプライベートに関するような情報までもストックされている点。例えばリクルートを退社した男性が、次の就職の際に使いたいからと、社内論文コンテストで入賞したときの社内報を依頼してきたエピソード(もちろんそれに応えて該当号を郵送したとのこと)なども登場していました。その意味で、「『企業文化の』データバンク」というタイトルが付けられていたのでしょう。
検索エンジンやブログ、SNSなどの登場により、本当に多くの、そしてこれまでには探すことのできなかった情報が手に入るようになりました。しかし上記の例のように、「自社の社員がどんなボランティア活動に参加しているか」を調べようと思ったら、果たして何を頼れば良いでしょうか?『かもめ』のような社内報が存在しているリクルートはいいですが、フツーの社内報しかない会社だったら?「人は自分のことがいちばん分からない」といいますが、「実は自社のことを調べるのがいちばん難しい」なのかもしれませんね。
リクルートの社内報が成功できた理由、は『もっと!冒険する社内報』を読んでいただくとして(いや、手抜きではありませんよ)。同書で福西さんが披露してくださっているヒントは、社内報というメディアを活性化するためだけではなく、もっと広く「社内の情報共有を活性化するには」という課題にも役立つように感じました。なんだかご大層な情報共有システムが存在しているのに、隣に座っている社員の名前も所属も分からない……などという状況が起きている場合には、社内報のある・なしに関わらずこの本を読んでみることをオススメします。