仲良くなければ、ケンカできない
逆説的なタイトルですが、会社の中でホンネをぶつけ合うには、相手とそれなりに仲良くなっておかなければならないですよね。先日、また書店での平積みに誘われて『なぜ、予想は裏切られたのか』という本を買ったのですが、その中にこんな一節がありました。セイコーエプソンのヒット商品、写真専用プリンタ「カラリオ ミー」開発中の話です:
彼女達はその後、何度もミーティングを重ねた。
関係ない話だが、セイコーエプソンの本社は「戦時中に疎開したから」という理由で長野県にある。一方、販売会社は東京・新宿に拠点を置く。
彼女達はこの2か所から集まり、顔も名前も一致しない相手とプリンターの問題点を出し合った。自社の商品を批判するのははばかられたのかもしれない。女性同士仲良くならなければ、思い切った案も出しづらいのかもしれない。彼女たちがホンネを出し合ったのは、4回目のミーティングのときだった。
東京で集合し、雰囲気を変えるためにリーダーの臼杵氏が先頭に立って、プリクラを撮ったり、六本木ヒルズでみんなでランチを食べたりした。
すると雰囲気が変わったのか、平野氏が聞いたら驚き呆れるほどの意見が一気に噴出した。
平野氏とは、現在エプソン販売株式会社の社長を務めておられる平野精一さん。彼が「女性を集めて新しいプリンタを企画してもらおう」と思い立ち、女性達のチームリーダーになったのが臼杵敏子さんです。で、この「一気に噴出した意見」から「A4は出力できなくてもいい、取っ手を付けてほしい、給紙部分を折りたためるようにしてほしい」など常識外のアイデアが生まれ、「写真専用プリンタ」という新しいカテゴリが生まれることになったとのことです。
この部分、通常の商品開発談なら「女性達を商品開発に参加させた結果、ユニークなアイデアが生まれた」の一行で片付けられてしまうかもしれません。しかし実際には、3回のミーティングとプリクラ撮影、六本木ヒルズでのランチを経てようやくアイデアが出てきたわけです。単に「そうか、それじゃウチも女の子を呼んで、ちょっとウチの商品を批判してもらおう」では「自社の商品を批判するのははばかられる」という思いから本質的な議論にはならないでしょう。
先日ご紹介した『なぜ社員はやる気をなくしているのか』でも、「『仲のいいけんか』ができる組織」という章で、同様な指摘がなされています:
最近、役員層のチームとしての質が問われることが多くなってきた。そうしたとき、たいていの役員は「いや、うちは仲がいいですよ」と答えることが多い。しかし、多くの場合、この「仲がいい」というのは、言うべきことの肝心な部分は自分の中に収めて、表向き「合わせ合っている」程度のことでしかない。確かに議論もしているのだが、表面的なこと、お互いに言っても大丈夫だと思える程度のことを(活発に)議論しているにすぎない。本当に正直ベースで大切なことを話し合っているか、言いにくいことでも大切だと思うことは言いにくさを乗り越えて言い合っているか、と言えば、そんなことはない。
ここでは「役員層のチーム」が想定されていますが、先ほどの「カラリオ ミー」のケースで見た通り、一般社員が形成するチームでも同じことでしょう。
最近は「シャドーワーク」などという言葉が生まれているように、社内でプロジェクト型の仕事、もしくはアドホックな集まりに参加している方も多いと思います。しかしこうしたチームの場合、特に部門や拠点をまたがってメンバーが集まっているような場合は、「ホンネが言い合える仲」になるまではなかなか時間がかかるのではないでしょうか。悪い言い方になってしまいますが、「表面的に」仲が良くなったままでプロジェクトを進めてしまい、ありきたりの成果物しか完成しない……そんな結果に終わってしまうケースも多いと思います。
「ウチはケンカもないし、本当に仲の良い職場だ」というのは喜ぶべきことではなく、実はメンバーがお互いにホンネを隠したまま仕事しているだけかもしれません。ちゃんと言うべきことが言えるような組織、ケンカすべきときはケンカができるチームになっているかどうか、改めて確認してみる必要があるのではないでしょうか。