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待たされるほど、料理はおいしくなる?

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現代人は忙しい。だから時間のかからない商品/サービスほど売れる……とは限らないようです。クーリエ・ジャポンの2007年9月号に、こんな記述がありました。記者の方が「キットカット」で有名な食品会社、ネスレの研究施設を訪れた際の話です:

筆者は乾燥食品を専門に扱っているキッチンへ案内され、“ガイドつき世界の味覚ツアー”を体験することになった。本日のメニューは、マギーのトマトスープ。研究者のフレート・エンギストが持つトレイには、トマトスープのパウダーが入ったガラス容器が6つ載っていた。私が試食するのはトルコ版、スイス版、オーストリア版、そして2種類のドイツ版だ。どの国のバージョンも、パッケージのデザインはほぼ同一だが、パッケージに記載されている調理時間は微妙に異なる。3分でできるものもあれば、10分かかるものもあるのだ。また、3分でできるにもかかわらず、調理時間を長めに記載しているものもあるという。

「3分でできるスープなどおいしいわけがない、と考える人がいるので、そうしているのです」とエンギストは明かす。

(「巨大食品会社ネスレの世界戦略『キットカット』が国によって味が違う理由」より)

このあと記者は各国仕様のトマトスープを口にし、その違いに驚くことになるのですが、僕は「わざと調理時間を長く表示することがある」という点の方が驚きました(地方ごとに味を変えるという「ローカライゼーション」は、最近の小売チェーンなどでも取り組まれていることですよね)。確かに……個人的な話で恐縮ですが、マクドナルドで注文した品が出てくるまでに時間がかかると「何やってんだ」という気持ちになりますが、モスバーガーで待たされても「やっぱり作り置きしないお店だからいいよな」と逆に納得してしまいます。味は味覚以外の様々なもの(見た目や香り、食感など)に左右されると言われますが、調理時間というのも無視できない要素なのですね。

この「何かにかかる時間」という要素、料理に限った話ではないのかもしれません。例えば病院。待ち時間や診察時間は短ければ短いほど良い……というのが普通の感覚ですが、例えばカウンセリングに近い内容の場合、あまりに早く終わってしまっては「このお医者さんは本当に心配してくれているのかな?」という気持ちになりますよね(短時間でもそう感じさせないのが医者のテクニックかもしれませんが)。またあんまり予約がすんなり取れて、待ち時間も短い病院では「もしかしたら評判が悪い医者で、だから患者が少なくてすぐに診察してもらえたのかもしれない」と感じるかもしれません。金額の場合(「安かろう悪かろう」etc.)と同様に、私たちの頭の中には「この品質なら、これくらいの時間がかかって当然」というイメージがあるのでしょう。

もちろんどんな場合でも「待たされれば待たされるほど、『良い製品/サービス』というイメージがつくられる」というわけではありません。前述したように、マクドナルドで待たされれば逆に満足度が下がる結果になるでしょう。しかし時と場合、適切なタイミングを判断できれば、ネスレのように「わざと時間を長くする(長めに表示しておく)」というのが効果的な戦術となるのかもしれません。

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