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「知識発掘人」の必要性

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メンデルの法則とペニシリン。この2つに共通するものは何でしょうか?

ご存知の方も多いと思いますが、念のため2つの言葉を説明しておきましょう。「メンデルの法則」とは、遺伝に関する法則です。正確には3つの法則から成り立っているのですが、ここでは「優性遺伝」「劣性遺伝」など、現代の遺伝学の基礎をなす発見とだけ理解していただければ十分です。「ペニシリン」は世界初の抗生物質。フレミングが実験中のミスにより、偶然アオカビから発見したエピソードは有名ですね。

さて、問題の答えですが、実はこの両者「発見された当時は重要性が認識されなかった」という共通点があります。「メンデルの法則」はグレゴール・メンデルにより1865年に発表されましたが、彼の存命中は成果が認められず、1900年に論文が再発見されたことで功績が認められました。ペニシリンはフレミングにより1929年に発見されていましたが、真価が認められたのは1938年。こちらも他の科学者が論文を再発見したことがきっかけとなり、1945年にはフレミングに対しノーベル賞が授与されています。

科学の発見なんてそんなもの(埋もれた研究など山のようにある)、と言われてしまえばそれまでですが、発見された当時に重要性が正しく認識されていれば、科学の発展はその分早かったはずです。特にペニシリンがもっと早く医療の現場に出ていれば、その分救えた命があったはず。そう考えると、埋もれている知識を掘り起こすという作業は、新しい知識を生み出すのと同じくらい大切なはずです。

私たちの会社の中でも、同じように「日の目を見ていれば会社にとって大きなプラスとなる知識」があるのではないでしょうか。先日のエントリ(ちょっと待って、新人教育)で述べたように、それは新入社員が持っている(しかし「新人に何が分かるんだ」という理由で無視されている)知識かもしれません。また本流の業務とは関係がない(従って深く追求する時間がない)知識かもしれません。最近読んだ『シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略』という本では、そうした言わば「傍流」のアイデアから画期的なビジネスが生まれる例がいくつも紹介されています。

知識を発見した人が、それを市場に出すモノ/サービスとして完成させられるとは限りません。そのためには他の「埋もれている知識」と組合さなければならないかもしれませんし、前述のようにその知識の持ち主が新入社員などの場合、組織上の権限がないという理由で動けないかもしれません。Google の「20%ルール」(すべての社員が、業務時間の20%を自分が興味を持っている分野の研究・開発に費やして良いというルール)ではありませんが、社内の「知識発掘」に費やす時間・権限を公式に認める、あるいはそれを専門に行う「知識発掘人」を設けることが必要なのではないでしょうか。

ちなみに考古学で遺跡・化石の発掘を行う場合、「この辺があやしいな」という長年の経験がモノを言う場合があるそうです。社内の知識を掘り起こす「社内考古学」でも、そういったカンが必要かもしれませんね。本来はそんな専門家が必要ないくらい、知識共有がシステム化されているべきなのでしょうが……。

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