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210円万年筆は、万年筆の救世主か?

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のっけから恐縮ですが、僕は万年筆を使ったことがありません(なぜかGペンはあります)。ので、「コイツ万年筆のこと分かってないなー」という部分があると思いますが、隠し立てするつもりはありませんので悪しからず。

さて本題ですが、先日 ITmedia にこんな記事が載っていました:

210円の万年筆は“万年筆”といえるのか (ITmedia Biz.ID)

万年筆と言えば「贈答品」「高級」というイメージの通り、1万円程度の価格が一般的だそうですが、200~300円台の製品もあるのだとか。こうした低価格万年筆は、40歳以下のビジネスマンや学生に万年筆を知ってもらうためのエントリ製品として位置付けられていて、順調に人気を集めているとのこと。その効果かどうか分かりませんが、万年筆市場全体も拡大を続けているのだそうです。

詳しくは記事を読んでいただくとして、この低価格万年筆、果たして万年筆の人気を復活させる画期的アイデアとなるのでしょうか?ちょっと見た限りでは、「低価格万年筆で誘い込み→高級品へのグレードアップ」という戦略は理に適っているように思えますが、以下のような懸念も感じます。

1. 高級万年筆の売上アップは、シニアマーケット効果ではないか?

最近、団塊の世代をターゲットに、いわゆる「シニアマーケット」を拡大しようという動きがあります。定年退職を迎え、時間とお金が自由になった人々に対し、これまでやりたくてもできなかったことにお金を使ってもらおう……という狙いで生まれた製品/サービスのニュース、このところよく耳にしますよね。「2万円、3万円、5万円台の製品も売れ行きは増加している」というのは、若者が万年筆に注目し始めているということではなく、これまでも興味を持っていたシニア層がお金を払い始めた結果ではないでしょうか?

2. 低価格万年筆は、万年筆のコア・バリューを損ねてしまっていないか?

エントリ製品→本格製品へのグレードアップ、という戦略が奏功するためには、消費者に製品の価値を正しく感じてもらう(そしてグレードアップによってその価値が拡大すると信じてもらう)必要があります。ある価値の50%が低価格品で実現されていて、それに魅力を感じれば、100%の価値が得られる高級品に興味が湧くわけです。しかし低価格万年筆では、万年筆が提供する根本的な価値、コア・バリューが実現できていないのではないでしょうか?

記事によれば、万年筆の良さは「使う人に応じたカスタマイズ性」「長期間使えるメンテナンス性」にあるそうです。ところが紹介されている低価格万年筆は、その条件を満たしていません。これでは、いつかLSにグレードアップしてくれることを期待して、ファミリー向け軽自動車を「レクサス」ブランドで発売するようなものではないでしょうか?「家族みんなで乗れる」「ちょっとした買い物に便利」という価値を理解しても高級車を買おうという気にならないように、「字が書ける」という価値だけ与えられても、高級品万年筆にグレードアップしようというモチベーションは湧かないと思います。

3. 低価格万年筆は、高級万年筆ユーザーの離反を招くのでは?

上記記事に対する「はてなブックマーク」のコメントの中に、こんなものがありました:

万年筆は、ペンとしての性能はあんまり良くないんですよ。極細のペン先でもボールペンにはかなわないし、耐水性インクも無いし。趣味の世界なので、安っぽくなったら魅力がない。

繰り返しになりますが、僕は万年筆を使ったことがないので、このコメントが正しいかどうかは分かりません。しかし「ペンとしての性能が劣っている」のに使い続けている人がいるということは、「趣味の世界」という部分が欠かせないのでしょう。先ほどレクサスの例を出しましたが、仮にレクサスブランドの軽自動車が出たら、「高級車としてのレクサス」を気に入っていたユーザーは、一気に離れていってしまうでしょう。仮に低価格万年筆が大ヒットして、「万年筆=安くて使っている人が沢山いる筆記具」というイメージが定着してしまったら、高級万年筆の「ありがたみ」というものを侵食してしまうのではないでしょうか?

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ということで、低価格万年筆というのは面白いアイデアだと思いますが、万年筆市場の拡大に効果的かどうかは慎重に考える必要があると思います。潔く高級品としてのイメージを追及し、「ワンランク上の消費」を狙う戦略もあると思うのですが、どうでしょうか。

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