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しきいの高いインターフェース

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最近、通勤の時に気になっているモノがあります。それは駅の自動改札にある「SUICA専用レーン」。都内の主要な駅にはほぼ存在しているようなので、説明不要かもしれませんが、切符の挿入口がなくSUICAでしか出入りできない改札です。

もちろんこの設備自体には何の不思議もありません。「SUICAしか受け付けない改札」ただそれだけなのですが、人々の動きを見ていると奇妙なことに気づきます。SUICAを持っている人であっても、SUICA専用レーンを避けて、一般レーンから出入りしていることが多いのです。中にはいったん近づくものの、床あるいは機械に表示されている「専用」の文字を見て、あわてて隣の一般改札に移る人もいます。一体どういうことなのでしょうか?

「SUICA」というブランドが認知されていないため、自分が通って良いかどうか自信ないのだと説明できるかもしれません。しかしSUICAの本サービスが開始されたのは2001年11月で、既に5年が経過しています。総発行枚数は2006年3月末の段階で1,570万枚で、日本人の約10人に1人が持っている計算になります(JR東日本の発表-PDFファイル)。これだけ普及していれば、「自分が持っているのは非接触型ICカードだ」などと考える人はほとんどいないでしょう("SUICA"とアルファベットで表記されると、一瞬何のことか分からないというケースはあるかもしれませんが)。

僕はむしろ、「専用」という言葉の方に原因があるように感じます。「専用」という言葉には、当然ですが「限られた人しか使えない」という意味が込められています。例えば「シャア専用ザク」はシャア大佐しか乗れない、特別なザクなのだという響きが・・・という例で分かっていただけるかどうか分かりませんが、「使ってはいけない人がいる」という排他的なニュアンスがあるわけです。

それに自動改札が組み合わさるとどうなるか。自動改札のゲートが閉じてしまい、ドキッとした経験がある方はいらっしゃいませんか?経験がある方は、あれがどれほど恥ずかしいことか分かっていただけるのではないでしょうか。悪いことをするつもりはない、単に金額を間違えていただけなんだ・・・といくら(心の中で)言い訳したとしても、機械は許してくれず、警報とランプが恥ずかしさに追い討ちをかけます。そんな経験をするかもしれないという恐れ+ここを通れない人がいるという警告が組み合わさることで、余計なトラブルを回避しよう=専用レーン以外を使おうという意識が働くのではないでしょうか。

SUICA専用レーンぐらいの話なら、朝のラッシュアワーに改札口が混雑するぐらいの問題で終わります(それでも結構重要な問題ですが)。しかしこれが、1分1秒を争う事態だったら?「専用」という言葉が書かれていたために、安全な場所に逃げ込むのを一瞬躊躇してしまうようなことがあったら・・・。

インターフェースをデザインするときには様々な配慮が必要になりますが、「使うべき人が心理的抵抗感を感じない」という点も十分に考えなければならないと思います。もちろん京都の料亭のように、「しきいの高さ」が逆にプレミアム感を出すというケースもあると思いますが、せめてペンギンがイメージキャラのSUICAには皆に優しい存在であって欲しいですよね。

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