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新聞社の「ネット事業分社化」に思う

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昨日のニュースになりますが、日本経済新聞社がネット事業を分社化し、独立した組織で運営することを決定したそうです:

日経新聞、ネット事業を分社化 (ITmedia News)

デジタル・出版で新社――来年1月、日経本社が事業持ち株会社に (NIKKEI NET)

「新聞会社がネット事業を別会社とする」というと、産経新聞の例が頭に浮かびます。産経新聞は2005年11月(奇しくも去年の今頃ですね)、デジタル事業を分社化して「産経デジタル」を設立しました。その後、「iza!」などの新サービスを打ち出して話題になっているのはご存知の通りです。

また海外では、ニューヨークタイムズがネット事業を別組織(New York Times Digital)に担当させることで成果をあげた例があります。これについては『戦略的イノベーション』という本に解説されていますので、ご興味がある方はご確認下さい。

こうした分社化のメリットとは何でしょうか?独立採算による経営状況の明確化、機動力の向上など様々な面があると思いますが、僕は「既存事業からの(悪)影響の排除」という面も重要だと思います。例えば産経デジタルについて、最近こんな記事がありました:

アカデミック界も注目の「イザ!」。新聞2.0の可能性を六本木で議論。(東京23区「外」通信)

この中に、次のような一節があります:

まず、産経が、「産経デジタル」という別会社をつくって、紙中心の事業を展開する本社から距離を置いて、イザ!の立ち上げを行った点に触れ、「既存の新聞社で、デジタル部門を別会社にしたのは産経が初めて。ネットを新聞を売るための販促ツールという考えから一線を画している」とし、「分社化で雰囲気も変わった。人も変わってものすごく前向きになった。ニュースを流す、それで終わりというこれまでのやり方から抜け出した」という趣旨の説明を行った。

つまり分社化により、慣習やしがらみといったものから抜け出し、ゼロベースで考えることが可能になったわけです。また前述の『戦略的イノベーション』では、同じような効果が New York Times Digital の例でも見られることが解説されています。日経新聞が分社化を決定するにあたり、このような「人心一新効果」に対する考慮があったかどうかは分かりませんが、「新規事業を積極的に展開する」(前掲 NIKKEI NET の記事より)のであれば好ましい環境になったと考えられるのではないでしょうか。

既存の組織、特に従来型のビジネスで成功を収めている大企業の中で「ネット」という新しい可能性にチャレンジするのは、非常に難しいことです。それは「ネットという日進月歩で変化するような環境においては、小さくて小回りの利く組織の方が有利」という目に見える側面もありますが、同時に「従来型の思考が根強く残っているために、新しいアイデアを受け付けようとしない」という心理的な側面もあります。組織制度のように簡単に組み替えることができない分、心理的影響の方がたちが悪いと言えるでしょう。

分社化は、こうした心理的影響を排除するのに有効な手段です。産経新聞デジタルが iza! のようなユニークなサービスを生み出せたのも、「新聞社的な思考」というものの影響を排除できたことが大きいのではないでしょうか。新聞・出版業界にとどまらず、他業界でネット分野への進出を考えている企業にとっても、産経新聞・日経新聞の事例は検証に値すると思います。

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