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Times Reader に見る半歩先のチカラ

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New York Times が専用ビューアーをリリースしました。その名も"Times Reader"で、現在はリクエストベースでダウンロードが可能になっています(ちなみにベータ版)。早速インストールして、POLAR BEAR BLOG で簡単なレポートを書きましたので、ご興味のある方は読んでみて下さい:

Times Reader が面白い (Polar Bear Blog)

ちなみに ITmedia での紹介記事はこちら:

MicrosoftとNew York Times、ニュース配信ソフトを共同開発 (ITmedia News)

上のスクリーンショットが"Times Reader"のトップページなのですが、ご覧の通り、紙媒体での紙面を意識した作りになっています。記事中に写真や小見出し、広告が入るところも同じ感覚。Windows Presentation Foundation (WPF)を使用しているとのことで、WEB版の紙面よりもフォントなどが美しく表示されています。画面の切り替えもサクッと動いて、いい感じ。

しかし全体を通して感じることは、一歩先を目指すというより、半歩先を達成したアプリケーションだという点です。視覚的な検索機能など、これまでにない新しさはもちろんありますが、基本になっているのは「PC上で新聞を読む」という機能。例えばRSSリーダーを始めて触ったときのような、「こりゃ新しい」という感覚はありません。

これはもちろん、批判的な意味で言っているのではありません。それに裏では、WPFを始め様々な先進的技術が活用されているのでしょう。しかしそれが「これが次世代テクノロジーだ。受け入れろ!」と主張するのではなく、「これまでと同じイメージで、ちょっと便利にしてみました。今まで通り読んでね」とあくまでも読者の視点で考えられているような、そんな印象を受けます。

どんなに便利なテクノロジーでも、人々に理解され、使ってもらえなければ意味がありません。一歩先に進んでしまうと、逆に価値を失ってしまうことがあります。例えばRSSリーダーは非常に便利なツールですが、普及が予想よりも遅れているのには、これまでに存在したどんな仕組みとも似ていないことに一因があるでしょう。Eメールは現実世界の「手紙を出す」という行動のアナロジーで人々に理解されましたが、RSSおよびRSSリーダーにはそんな土台となる共通認識が不足しているために、理解が進まないのだと思います。

"Times Reader"は「新聞を読む」という行動をベースにして、それをちょっと便利にするような機能をつけました、というようなアプリケーションです。普通の操作で記事が読め、「個々のフィードを登録する」といったようなセットアップも、「フィードを登録するためにはフィードのURLを云々」といったような技術の理解も必要ありません。まだ全面的な公開はされていませんが、「半歩先」的な感覚が受け入れられて、多くの支持を集める可能性があるのではないでしょうか。

もしかしたら、New York Times はまずプラットフォームとして"Times Reader"を受け入れさせ、他の新聞社や出版社・折込チラシ業者と組んで様々なデータを配信する・・・というモデルを考えているのかなぁという穿った見方をしているのですが。ともかく、なかなか面白い"Times Reader"、使ってみて損はないですよ。

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