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人生を走れ

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サッカー日本代表の次期監督に内定しているイビチャ・オシム監督。彼の半生を追った本『オシムの言葉』が話題になっていますが、僕もミーハーなので(?)書店に平積みされているのを見て思わず手にとってしまいました。そして一夜で読破。話題先行&マーケティングで売っているようなベストセラーが多いなか、『オシムの言葉』は単に「次期日本代表監督についての本」という以上に充実した内容の一冊です。

オシム監督が指揮を執ったチームは必ず優秀な成績を残しているそうですが、この本を読み終えた後は、それが偶然ではなく必然に感じられます。と言っても本書は、彼の戦術や組織論の秘密を解き明かすものではなく、焦点はむしろオシム監督の人間性や人生といったものに当てられています。よくある「スポーツ指導者に学ぶ!」的なハウツー本ではありません。にも関わらず、どんなテクニック集よりも有益なアドバイスが詰まった一冊、そんな風に感じています。

いくつかオシム監督の言動で感心した点を挙げようと思ったのですが、思った以上に難しいことに気づきました。それは表面的な事象を説明するだけだと、単に厳しいことを要求する監督、で終わってしまいそうな気がするからです。しかし本書からは、彼の言動には常に相手に対する配慮が込められていることが分かります。また人間に対する鋭い観察眼や、声をかけるタイミングとその内容、会見での言葉など、オシム監督の行動からは、常に相手に対する愛情のようなものを感じます。彼が成功を収めている根本的な要因の1つは、この「利他心」にあるのではないか、と強く感じました。

今後、彼が率いる日本代表が結果を残し始めれば、「オシムの経営哲学!」や「オシムに学ぶリーダーシップ!」などの便乗本が登場することでしょう。確かに先に述べたように、彼の理念や行動にはビジネスに役立つものが多々あると思います。しかしそれはオシムの人生というコンテクストを離れた瞬間、効力を失ってしまうものです。それを切り離すことなく、オシム監督という一人の人間を語った本著は、間違いなく今後も貴重な一冊になっていくことと思います。

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