「自己完結型組織」よりも「自律型組織」を
日経産業新聞には「眼光紙背」というコラムがあり、いつも示唆に富む意見が掲載されているのですが、今日の内容はちょっと「おやっ?」と思うものでした。
■ 自己完結型、非常時に威力(日経産業新聞 2006年6月2日 第24面)
先日のインドネシア・ジャワ島中部地震被害への援助のために、日本からも緊急援助隊医療チームが派遣されました。地震発生後48時間という短時間での出発だったのですが、それが可能だった理由を、記事は「テントや生活物資などの装備が充実し、自己完結型で行動できるようになったため」と解説しています。
記事は続けて、ビジネスに目を向けます。阪神大事震災の際、自社設備に被害がゼロでも業務委託先が被害を受け事業再開に時間を要した企業があったことを挙げ、「外部組織の活用は平時には効率を高めるが、非常時にはリスク要因になる。ネットワーク構造が組織に浸透し、思わぬ弱点が増えている」と論じています。そして非常時のリスクを減らすヒントとして、「自己完結型で動く系統や組織を残しておくこと」を挙げて結んでいます。
確かに自給自足型の組織が社内にあれば、大地震などの災害時に役に立つでしょう。しかし社外リソースの活用が必要不可欠な現在、果たして社内ですべてがまかなえる組織を用意できるのでしょうか。たとえ実現できたとしても、維持コストが大きく、いつ起きるか分からないリスクに対する備えとしては現実的ではないでしょう。また自己完結型組織であっても、その装備に被害を受ける可能性は残ります。また備えておいた装備・物資を使い果たしてしまったら、とたんにその組織は機能停止に追い込まれてしまいます。
一方、ネットワーク構造はそれほど脆弱でしょうか。確かに提携する組織の被害は自社にも影響を及ぼしますが、同じ能力を持つ組織と別に提携すれば済む話です。隣接業務を1社だけに依存するようなチェーン(くさり)型構造ではなく、多くの選択肢とフレキシブルな関係を持つ構造であれば、非常時のリスクを軽減できるでしょう。要はそのような「本当のネットワーク構造」を用意することと、災害が起きたとしても、現場の判断で最善の代替策を立案・実行できるような組織 -- 「自律型組織」を実現することが求められているのではないでしょうか。
また自律型組織であれば、自己完結型組織と異なり、平時にはただ待機するのではなく最も効率的なプロセスを生み出そうと試行錯誤するでしょう。従って総合的に見ても企業にとって望ましいのは、自己完結型組織ではなく自律型組織だと思います。