「顧客の声」を無視する
僕は2001年から2003年までボストンに留学していたのですが、日本に帰ってきてビックリしたことの1つに、携帯電話にカメラが付いているのが当たり前になっていたことがあります。今ではカメラが搭載されていない携帯電話の方が珍しいぐらいですが、消費者の多くもカメラ機能が必要だと感じているという調査結果が出ていました:
■ 携帯電話のカメラ77%が「必要」、バーコード読み取りは半数が使用 (Japan.internet.com)
記事によれば、「あなたは携帯電話にカメラは必要だと思いますか」という問いに対して、「とても必要だと思う」と答えたのが全体の約24%、「どちらかといえば必要だと思う」と答えたのが約54%で、合わせて8割近い人々が「カメラが必要」だと考えているという結果になっています。またバーコード読み取りに利用している人も多いという結果ですから、「写真を撮る」以外の新しいニーズも生まれていることが分かります。
このように日本では、すっかり「携帯電話にはカメラが付いている」という認識が一般的になっていますが、面白いのはアメリカの記事を読むと「携帯電話にカメラを付けてどうするんだ?」といった論調がまだ目につくことです。また留学中、授業で日本のiモードが取り上げられたのですが、「携帯電話に様々な機能を付加したところで消費者にウケるとは思えない」という意見が強かったのを覚えています。これは日米の文化の違いかもしれませんが、「人は実際に実物を手にしてみるまでは、隠れたニーズに気付かない」という好例ではないでしょうか。仮に上記のアンケートが2001年に行われていたとしたら、「カメラが必要」と感じる人はもっと少なかったと思います(例え現在のような高解像度のカメラ機能が手に入る、という前提だったとしても)。
以前、日経情報ストラテジー(2006年2月号)に「顧客に聞くな!」というタイトルの記事が掲載されていました。顧客自身が分かっているニーズはすべて誰かが商品化/サービス化している、だからライバルの一歩先を進むためには「顧客自身が分かっていないニーズ」をつかむしかない -- だから顧客に聞いても仕方ない、といった内容です。しかし実際には、リスクを取りたくない・ゼロから新しい企画を考える力がない・失敗した場合に責任を負いたくないなど様々な理由から、「顧客アンケート」などデータ化された意見に頼る傾向が強いのではないでしょうか。それでは、第2・第3のカメラ付き携帯電話は生まれないはずです。
時にはあえて、見えている・聞こえているユーザーの声を無視することも必要ではないでしょうか。もちろんそれは、根拠が乏しい機能を提供しろだとか、プロダクトアウト的な発想で商品開発しろということではありません。発想のスタートとして、あえて顧客の声の逆を考えてみても面白いのではないか、と思います。
例えば多くの人が「携帯電話にカメラが必要」と考えているのなら、あえてカメラの無い携帯電話の可能性を探ってみるとか。これは既に「シンプルケータイ」として商品化されているアイデアですが、以前アメリカの学生が多機能携帯に反対していたのも、「人々は全ての機能が常に必要なわけではないだろう」というのが理由の1つでした。であれば、携帯電話の機能をレゴブロックのようにして、人々が自分の使う機能だけを選んで組み立てられるようにしても面白いかもしれません。「今日は仕事に行くだけだから通話機能だけにして、スーツのポケットに入るサイズで出かけよう」とか、「カメラの代わりにスキャナを搭載していこう」とか、「出先で写真を撮りたくなったので、友人のカメラモジュールをちょっと貸してもらう」とか・・・そんな発想に結び付けられるかもしれません(たいしたアイデアではなくて恐縮ですが)。