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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

専門家なんていらない?

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例によってまったくIT技術の話題ではないのですが、ちょっと興味深く感じた話題を1つ。笑えるネタなのですが、「専門家はどこまで必要か」を考えさせられます:

タクシー運転手がIT専門家? BBCが人違いを謝罪(ITmedia News)

イギリスのBBCが、誤ってタクシー運転手をIT専門家としてテレビに登場させてしまった、というニュース。タクシー運転手はビックリしながらも、果敢に3つの質問に答えたそうです。

面白いのは、司会者は人違いにまったく気づかず、「彼に礼を述べて次の話題に移った」というところ。どうして「普通の」タクシー運転手が答えた内容に、何の疑問も感じなかったのでしょうか?

*仮説(1) 司会者は専門家のコメントをマトモに聞いていないから

日本のニュース系番組には、ひどいコメントを残す「自称」専門家が山のようにいます(たいてい「コメンテーター」という位置付けで登場する人々です)。フランスでも同じような状況なのだとしたら、司会者はマトモに彼らの言うことなど聞いていないのではないでしょうか?今回の場合も、司会者は発言の内容より、進行表通りに番組を進めることの方に注力していたのかもしれません。

*仮説(2) プラシーボ効果があったから

効果が無いのに「効果がある」と説明して投薬される偽薬を「プラシーボ(placebo)」と言います。偽薬でも「効果がある」と言われただけで、本当に効果が現れてしまうことが実験で証明されているわけですが、今回も「ITの専門家である」と紹介されただけで、タクシー運転手の発言がもっともらしく聞こえてしまったのではないでしょうか。

*仮説(3) 本当に面白いコメントをしたから

最近読んだ『メディチ・インパクト』が面白く、たびたび紹介してしまっているのですが、この本では複数の知識を交差させるところからイノベーションが生まれることが解説されています。報道を見る限り、今回のケースでの司会者の質問は「Apple Computerがビートルズのレコード会社Apple Corpsに商標訴訟で勝ったことに驚いたか?」といった簡単な(理解するのに専門知識が必要ないという意味で)ものだったようです。もしかしたら、タクシー運転手の知識とIT系ニュースが交差し、まったく新しい切り口でのコメントがなされたのかもしれません。

--- 3つの仮説すべてが不正解、という可能性もありますが、いずれにしてもタクシー運転手でもIT専門家の代役が務まるわけですから、専門家はどこまで必要なのでしょうか?もちろん専門知識を研究・深化させるためには、専門家の存在は欠かせません。しかし少なくとも「時事問題について適切なコメントを行う」という作業は、実は専門家でなくても良い(専門家でない方が良い?)ものかもしれないわけです。

考えてみると、ブログでも「素人」が書いた記事の方が独創的で、斬新な切り口をしている場合が多く見られます。もちろん専門家が書いたブログも価値がありますが、一方で「非専門家」の視点というものも存在意義を確立しつつあるのではないでしょうか。BBCの事件はお笑いネタとして報道されていますが、実はネットでは「ITについてコメントするタクシー運転手で溢れている」なんて状況になっているのかもしれません。

ふと考えると、僕もブログで「専門家」っぽいコメントはあまり残していないような・・・。「おみやげ物屋さんが語るWeb 2.0論の方が面白い」と存在意義を否定されてしまわないように(?)がんばらねば。

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