バーチャル店舗の未来
他のオルタナティブ・ブロガーの皆さんも取り上げていらっしゃいますが、僕も『フラット化する世界』を早速買ってきて読んでいます。ようやく上巻を読み終わったところですが、最近のニュースなどでバラバラに目にしてきた事象をつなぎ合わせ、1つの全体像を把握するのに格好のガイドなのではないでしょうか。また今後の世界を考える上でも、様々な示唆を与えてくれると思います。
今日の日経産業新聞に、ちょうど『フラット化する世界』の1例になりそうな記事が掲載されていました:
■ 自宅が旅行カウンター -- プロの知識 ネットで手軽に (日経産業新聞 2006年5月31日 第5面)
大手旅行会社のネット活用に関するレポート。日本旅行とJTBが事例として取り上げられていて、消費者の自宅にあるPCをサービス提供の窓口にするという「バーチャル店舗」の取り組みが紹介されています。
日本旅行が4月から本格展開を始めた「バーチャルカウンター」では、利用者はネットを通じて日本旅行のスタッフに相談ができるようになっています。スタッフと利用者の間で画面を共有する仕組みが設けられており、例えば一方が画面上で電子パンフレットを呼び出すと、もう一方でも同じようにパンフレットが開かれるといった具合になっているとのこと。これにより、日本旅行のスタッフは店舗にいながらにして接客が可能になります。また空き時間を有効活用して営業機会を増やすことを狙っているそうです。
JTBでは昨年の秋から目的地別・テーマ別のバーチャル支店(現時点で15)を設置し、既存のネットコンテンツに誘導するためのポータルサイトとして活用しています。例えば現地の観光・宿泊情報や旅行者のクチコミ、スタッフ自身の体験談などといったコンテンツをテーマ別にアクセスできるようになっています。利用者は関心を持った社員に電話やメールで相談が可能です。
こういった「バーチャル店舗」の展開は、ネットへの接続が一般的になった現在においては、ごく普通の発想でしょう。旅行に関する一連の作業(予約や情報収集など)の多くはデジタル化が可能であり、旅行代理店は機械的作業を利用者に肩代わりさせる(利用者自らが航空券や宿泊施設の予約を行うなど)とともに、付加価値のあるサービスを空間的制約を超えて提供する(遠隔地からメール、チャット、VoIP等を通じて旅行知識を提供するなど)ことが可能です。日本旅行やJTBのような事例は今後も増えるでしょう。
ただし、現時点のような段階では『フラット化する世界』が描いているような分業体制には達してないと思います。利用者が求めるような情報を持っているのが、日本にいる旅行代理店スタッフとは限らないでしょう。例えば現地にいる留学生や、海外赴任者の配偶者、たまたま現地を旅している旅行者などは有力な情報提供者になると思います。
また旅行に関する言葉はさほど難しくありませんから、適切な翻訳ソフトさえあれば、情報提供者が日本人である必要すらないはずです。海外の小さな地元旅行代理店をネットワーク化したり、それこそUPSのスタッフにでも現地の気候状況・飲食店の評判などを入力してもらうことが可能だと思います。適切な情報をいつでも・早く・安く見つけられて、利用者に提供できる仕組みを築くことが、将来の「バーチャル店舗」に求められるのではないでしょうか。
日経の記事では「旅行会社が頼みとするのは豊富な人的資産と、それに魅力を感じる消費者がいること」という指摘がされていますがが、大手企業に囲い込まれていな い人的資産を有効活用することで、中小企業でも魅力あるサービスを提供することが可能なのが「フラット化」された世界だと思います。・・・と、『フラット化する世界』のフレームワークを使って考えてみましたが、旅行業界に詳しいわけではないので「もうそんな取り組みが始まっているよ」という点があったらご指摘下さい。