CGM -- コンシューマー・ジェネレーテッド・マニュアル
「Web 2.0」という単語をどう捉えるかは人によって様々ですが、僕は「ネット上での不特定多数(人々/アプリケーション)によるコラボレーションを可能にすること」が「Web 2.0技術」で、Web 2.0技術を通じて行われている新しい形のコラボレーションが「Web 2.0」だと捉えています。したがってCGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)はWeb 2.0の中核を成す現象であり、まだまだ大きな可能性を秘めていると感じています。
最近、その1つの可能性として「ユーザーが自らの手でソフトウェア/WEBアプリケーションの使い方を記してゆくこと」、題してCGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・マニュアル)というものを考えています。例えばExcelやWordといったソフトウェアを使う場合に、マイクロソフトが用意した標準のマニュアルや市販の解説本ではなく、ネットにアクセスしてユーザー達が作成したオンライン・マニュアルを参照するといったイメージ。既に無数の個人サイトや掲示板、QAサービスなどで似た様なものは現われていますが、もっとシステマチックに行うことを想定しています。
なぜこんなことを考えているのかというと、開発者(もしくはソフト/サービスの提供者)がマニュアルを書くと、どうしてもユーザーの視点からずれたものになってしまうことを痛感しているためです。「勉強がよくできる人は、他人に教えるのがヘタ」と感じたことはないでしょうか。この原因は、勉強ができる人は問題の解法を当たり前のものとして感じているために、他人がどこで悩んでいるか分からないところにあります。それと一緒で、開発者はずっとソフト/サービスに接しているために、初見のユーザーにとってどこが分かりにくい部分なのかが分からなくなってしまうのです。
例えば、クリックするとある機能が作動する「ボタン」があったとします。開発チーム、もしくは出版社の中でこの部分は「スイッチ」と呼ばれ、マニュアルにもそう表現したところ、ユーザーから分かりにくいと言われてしまった--ユーザーにとっては、それは「ボタン」にしか見えず、必死になって「スイッチ」を探していたなどという問題が起きるかもしれません(これは極端な例かもしれませんが、近い事例を体験したことがあります)。またユーザーが最も解説して欲しいと思っている機能が軽視され、どうでもいい機能(開発者の思い入れがある機能、あるいは勝手に「ここはユーザーが解説して欲しいと思っているだろう」と判断された機能など)に何ページも割かれるといったことが起きる可能性もあります。本当にユーザーが欲している情報は、ユーザーにしか分かりません。
そこで、「マニュアルもユーザーに作成させてしまえば」という発想になるわけです。ドラスティックな考え方かもしれませんが、仕組み自体の実現は比較的簡単なのではないでしょうか。例えばWikipediaのような方式にして、オンラインマニュアルを誰でも更新できる(ただしウソの書込みが行われた場合には即刻削除されるような体制を整えておく)というシンプルな仕組みが考えられます。あるいは書き手を限定して、一般のユーザーに書き手(もしくは個々の記事)を評価してもらい、高い評価を得た書き手には金銭的な報酬を与える、ということも考えられるでしょう。あるいは基本となるオンラインマニュアルはそのままにして、各記事・章などの単位でコメント/トラックバックが付けられるようにしておき、質問や深い議論を求めるユーザーはそちらに誘導する--などなど。既存のWeb 2.0系サービスを参考にすれば、様々なアイデアが生まれてくると思います。
ユーザーを巻き込み、ユーザー自身にソフト/サービスの使い方を考えさせることで、開発者が思いもよらなかった利用方法が生まれてくるかもしれません。Web 2.0時代のソフト/サービスは、従来は開発の範疇にあったフェーズにユーザーを巻き込むことを盛んに行っていますが、「マニュアル作成」という言わば開発・リリース後のプロセスにもユーザーの参加を認めて良いのではないでしょうか。